10/17/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2022年 刑事訴訟法
第1問
1. 被疑者Xが自白した内容に関する自白調書(以下「本件調書」)に証拠能力が認められるか。
本件において、警察官P2がXの弁護人Bに対して接見指定を行なっているが、かかる指定が違法な場合は、違法な手段によって収集した証拠として違法収集証拠排除法則により本件調書の証拠能力が否定され得る。
⑴ では、P2がXとの接見を翌日午前10時に指定しているが、「捜査のため必要があるとき」(39条3項)といえるか。
ア 接見交通権(刑事訴訟法(以下略)39条1項)は憲法の保障する弁護人選任権(憲法34条)の保障に由来する重要な権利であるから、「捜査のため必要があるとき」とは、捜査の中断による支障が顕著な場合に限られるべきである。そして、現に被疑者を取調べ中である場合や、実況見分・検証に立ち会う必要がある場合、間近い時に取調べ等をする確実な予定がある場合等は原則として「捜査のため必要があるとき」にあたる。
イ 本件では、令和2年10月10日午後5時35分頃にBがP2にXとの接見を申し出た際、現に取調べ中であったそのため、捜査の中断による支障が顕著な場合にあたる。また、Xの取調べ状況として、当時行なっていた取調べの途中に夕食を取らせる予定があり、捜査が中断する予定であったが、食事時間の前後は戒護体制が手薄になることから接見を禁止され、かつその後も取調べが再開される予定であった。そのため、間近い時に取調べ等をする確実な予定があったともいえる。よって、原則として捜査の中断による支障が顕著な場合にあたる。そして例外的な事情も存在しない。
ウ したがって、「捜査のため必要があるとき」であったといえ、P2の接見指定は適法であったとも思える。
⑵ もっとも、本件においてBが申し出た接見は初回接見であった。この場合にもP2が行った接見指定は適法といえるか。
ア 接見指定の要件を具備する場合であっても、被疑者の防御権を不当に制限するようなものであってはならない(同項但書)。特に、初回接見の場合には特別な考慮が必要とされる。初回接見は、弁護人の選任を目的とし、かつ今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会として、憲法34条の保障の出発点をなすものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要となる。
イ そこで、弁護人となろうとする者と協議して、即時又は近接した時点での接見を認めても捜査に顕著な支障が生じるのを避けることができるかを検討し、可能な場合は、留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情がない限り、被疑者引致に続く所要の手続後、たとえ比較的短時間であっても、即時又は近接した時点での接見を認めるべきであると解する。
ウ 本件において。P2は弁護人に対し、繰り返し接見を待ってほしい旨を発言するにとどまり、弁護人と協議していない。そのため、初回接見での必要な考慮がなされておらず、被疑者の防御権を不当に制限するようなものといえる。
⑶ よって、P2による接見指定は39条3項但書に反し、違法である。
2. では、違法な捜査手続において得られた本件調書の証拠能力は違法収集証拠排除法則により否定されるか。同法則について明文がないため、問題となる。
⑴ 同法則について、司法の廉潔性、将来の違法捜査の抑制の見地から、①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、かつ②証拠として採用することが将来における違法捜査を抑止する見地から相当でない場合に証拠能力が否定されるものと解する。
⑵ 本件において、接見交通権は憲法の保障する弁護人選任権の保障に由来する重要な権利であり、かかる権利を侵害するような違法な捜査は重大な違法といえる。また、本件のような接見指定の違法は安易に行われやすいため、将来の違法捜査抑止のためにも排除することが相当である。
3. 以上より、本件調書の証拠能力は認められない。
第2問
①事件単位の原則
事件単位の原則とは、逮捕・勾留が、人ではなく、事件単位で行われることである。この原則により、被疑者が同一であっても、異なる事件の嫌疑であれば、そのそれぞれについて逮捕・勾留を行うことができる。また、逮捕・勾留の理由とされた被疑事実以外の犯罪事実を、当該逮捕・勾留に関する手続きにおいて考慮することは許されない。
②情況証拠
情況証拠とは、間接証拠または間接事実自体のことを意味する。間接事実とは、主要事実を推認させる事実のことをいい、その間接事実を証明する証拠を間接証拠という。例えば、殺人の被告人が被害者をひどく恨んでいたという証言は、殺人の動機を立証し、その他の証言と相まって犯罪事実の存在を推認させるものであり、情況証拠となる。
③公訴事実の単一性
公訴事実の単一性は、狭義の公訴事実の同一性と同様に、訴因変更の限界を判断する基準となっているが、後者と異なり、単一性の基準は罪数論上の一罪性に解消される。すなわち、新旧訴因間に実体法上「一罪」の関係が認められるならば、両者は一つの訴追関心に属するものといえるため、両訴因間には単一性が認められることになる。
以上