6/29/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
慶應義塾大学法科大学院2022年 憲法
Xらは、B大学の教室使用不許可の判断により本件シンポジウムを開催できなかったことを理由として、B大学を被告として不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を提起したと考えられる。ここで憲法上問題となるのは、①教室利用不許可が司法審査の対象となるか、②本件シンポジウムを開催することが「権利又は法律上保護される利益」として認められるかどうか、③被告が②を侵害したかどうか、という点である。
1. ①について
たしかに、富山大学事件は、大学の自治を考慮して一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は、司法審査の対象から除かれるべきであると判示している。
しかし、本件のシンポジウムは学外からも多数の参加が予定されているため、純然たる大学内部の問題とは言えない。よって、司法審査の対象となる。
2. ②について
⑴ まず、本件において不許可を行っている主体が私立大学であるB大学、すなわち、本件において問題となる憲法上の問題が私人間のものである点について検討する。
本件においても、23条は国又は公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障することを目的とした規定であることから、B大学の教室不許可についてXらの同条の権利についてこれを直接適用することはできない。他方、憲法の客観的秩序を維持するためには、不法行為に基づく損害賠償請求という一般規定において、権利侵害の有無を判断する際に同条における価値を考慮することになる(三菱樹脂訴訟参照)。
⑵ 次に、本件シンポジウムが学問の自由として保障されるかを検討する。
研究成果を発表することができないのであれば、研究自体が無意味に期するから、「学問の自由」は学問研究そのものの自由だけでなく、当然に研究発表の自由を含む。
そして、たしかに、東大ポポロ事件は、学生による実社会の政治的社会的活動については、大学の有する特別な学問の自由と自治を享受できないと判示している。このことから、本件のシンポジウムは学生であるXらが主催しているため、特別な学問の自由を享受できないとも思える。しかし、同事件は演劇発表会を対象とした事件であったのに対し、本事例ではゼミによる原発政策を主題としたシンポジウムである。加えて、学生や参加者の中には原発賛成派閥、反対派双方が含まれているため、単なる政治的主張をするだけでなく、議論を交わすことが予定されている。加えて教授のAらの登壇も予定されている点も踏まえると、ゼミの活動の一環として捉えるのが相当である。したがって、実社会の政治的社会的活動ではなく、学問的な研究成果の発表の機会に当たる。したがって、Xらがシンポジウムを開催する自由は、大学の有する特別な学問の自由と自治の範囲内にあるといえる。
したがって、Xらが本件のシンポジウムを開催する自由は、憲法23条により「法律上保護される利益」といえる。
3. では、BはXらの権利を侵害したといえるか。
⑴ 教室利用規則による不許可の判断は正当であるという反論について
ア たしかに、昭和女子大学事件では、大学が、国立と私立とを問わず建学の精神等に基づく校風や教育方針を実現するために学生を規律に服させる包括的権能を一定の限度で有すると判示している。しかし、本事件で問題となったのは学生の課外における政治活動である。これに対し、本事例ではシンポジウムの開催を認めないことで大学における学問研究の自由を制約している。すなわち、大学における学問研究の自由と大学の自治が衝突する場面に当たる。こうした場合、大学の自治が大学における学問の自由を保障するための制度として認められていることからすれば、大学における学問の自由を制約する場面において大学の自治に基づく裁量を強調するべきではない。そのため、大学教室使用規則の要件裁量について、大学側に広範な裁量は認められない。そのため、Xらの活動が「教育・研究目的」に当たるか否かについては、Xらの活動の実体に則して判断するべきである。
イ 前述のように、本件シンポジウムは原発について様々な意見を持った者が参加し、議論を交わす催しである。そして、Aの研究成果の発表も予定されていることを踏まえると、シンポジウムは「教育・研究」を目的とする催しであるといえる。
⑵ 仮に「教育・研究目的」であったとしても、シンポジウムの開催により原発推進派による抗議活動が行われ、大学の自治が脅かされるとの反論について
たしかに、AはSNSで「炎上」騒動を引き起こし、これが原因で推進派がB大学キャンパス内に侵入し抗議活動を行っている。こうした混乱を未然に防ぐことは、大学の秩序維持にとって重要とも思える。
しかし、抗議活動をしていた者は警備員の注意にキャンパスから退去したから、大きな混乱は生じていなかったといえる。そのため、警備を強化すれば十分に抗議活動による混乱を防止できるため、大学の自治が脅かされるとまでは言えない。
したがって、反論は妥当ではない。
⑶ 以上より、権利の侵害も認められる。
4. 以上より、Xらの請求は認められる。
以上