11/20/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
慶應義塾大学法科大学院2022年 刑法
問題1
① 43条1項本文、199条、203条
器物損壊と殺人に構成要件的重なり合いはないため
② 254条
Xとの関係でAの生前有した占有は保護されないため
③ 61条1項、104条
他人を巻込む点で期待可能性がないとはいえないため
④ 204条
Aの違法な目的に基づく承諾は無効であるため
⑤ 130条前段、235条、204条
窃盗の機会は継続していないため
⑥ 159条1項、161条1項
性質上Xの氏名の表記が要求される文書であるため
⑦ 208条、204条
自招侵害として正当防衛状況は否定されるため
⑧ 不可罰
利益窃盗は成立しないため
⑨ 197条1項
供与の時点で供与を受けた者が公務員なため
⑩ 253条
公金口座の管理者のXが預金の占有者であるから。Xの行為は不法領得意思の発現行為であるため
問題2
1. XがBにクリーニング店に押し入り現金を奪うよう指示した行為について、建造物侵入罪(130条前段)及び強盗罪(236条1項)が成立しないか。
⑴ Xは、長男であるBに申し向け実行行為を行わせている。Xの行為に間接正犯が成立するかが問題となる。
ア 実行行為とは、特定の構成要件に該当する法益侵害の現実的危険性を有する行為をいう。そのため、他人を道具として一方的に支配・利用していた場合は、他人を利用する行為も実行行為にあたる。
イ Xは、令和2年ころからクリーニング店のシフトを減らされ、生活費に窮したことから、Bを使って、同点の売上金を強取することを思いつき、その旨もう仕向けている。従ってXには、建造物侵入・強盗を自己の犯罪として実現する意思があるといえる。
たしかに、BはXの説得に対し、しぶしぶ犯行を承諾している。しかし、Bは、クリーニング店の表のシャッターが閉まるのを確認するや、素早く同店の裏に回り、覆面をして店内に立ち入っている。そして、Aを見つけるや、「その金全部よこせ」と申し向け、Aが防犯ブザーに手をやろうとしたのにいち早く気づき、右手にナイフを持ったまま、左手でAの手を掴んでボタンを押すことを阻止し、「死にたくなかったら妙な真似はやめろ」ともう仕向けるなど、自律的で臨機応変な立ち回りをしている。従ってXはBを道具として一方的に支配・利用していたとはいえない。
ウ よってXの行為に間接正犯は成立しない。
⑵ Xの行為に上記罪の単独正犯は成立しない。
2. Xの行為に建造物侵入罪、強盗罪の共同正犯(60条)が成立するか。
⑴ Bの実行行為
ア Bは、強盗目的でクリーニング店(「建造物」)に立ち入っている。この目的は管理者の意思に反した立ち入りといえ、「侵入」に当たる。
イ 「暴行又は脅迫」(236条1項)とは、財物奪取に向けられた、相手方の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫をいう。Bはサバイバルナイフという鋭利な刃物をAに向け、「死にたくなかったら妙な真似はやめろ」と申し向け、金銭を要求している。これは反抗を抑圧するに足りる脅迫といえ、「脅迫」に当たる。
さらに上記反抗抑圧状態を利用して売上金20万円余を奪取しているから、「強取」している。
よってBの行為は建造物侵入罪及び強盗罪の実行行為に当たる。
⑵ Xの行為に共謀共同正犯が成立するか。
ア
(ア) 共同正犯の処罰根拠は、正犯各人が結果に対して物理的・心理的因果を及ぼす点(法益侵害の共同惹起)にある。そして、そこで、共謀、共謀に基づく実行行為、及び正犯意思が認められれば、法益侵害を共同惹起したといえるから、共謀共同正犯が成立する。
(イ) 本件では、XはBにクリーニング店の裏口から入ること、そこから覆面をして入り、刃物を突きつけ、低い声で『カネだ』ということなど計画を申し向け、Bは渋りながらもこれを了承している。従って相互の意思連絡により共謀が成立したといえる。そして、この共謀に基づきBは実行行為を行なっている。
正犯意思は、犯意誘発役割の重要性、分配利益の大きさ等から判断する。Xは生活費に窮したためBに犯行を持ちかけている。よって、Bの犯意を誘発している。さらに、Xはクリーニング店の情報をBに与え、計画を立案するなど重要な役割を担っている。また13歳のBは35歳のXの長男であり、BはXの監護下にある。そのため、BはXの強い影響下にあったといえる。Bが強取した20万円余は全てXに渡され、Xはこれを生活費等に費消している。従ってXに正犯意思もある。
(ウ)よってXの行為に共謀共同正犯が成立する。
イ 加えて、Xに故意、不法領得の意思も問題なく認められる。
ウ また、Bは刑事未成年(41条)であり、Bは責任阻却事由が認められる。しかし、責任は正犯各人で個別に判断するから、Xの責任までは阻却されない。
エ 以上により、Xの行為に建造物侵入罪、強盗罪の共同正犯が成立する。
3. よって、Xの行為に建造物侵入罪、強盗罪が成立し、牽連犯(54条1項後段)となる。
以上