4/4/2024
この記事では、将来検察官になることを目指している学生など検察官のキャリアに興味がある方に向けて、検察官のキャリアを紹介します。(ライター:山下/The Law School Timesライター)
検察官になる資格があるのは、次のような人です。(法務省HP『検察庁(パンフレット)』)
① 司法試験に合格した後、司法修習を終えた者
② 裁判官(判事・判事補)
③ 弁護士
④ 3年以上特定の大学において法律学の教授又は准教授の職にあった者
⑤ 3年以上副検事の職にあって、検察官になるための特別の試験に合格した者
法務省によれば、①の司法試験に合格して検察官になる人は、令和4年度12月期には71人、その前年に当たる令和4年度4月期には72人いました。過去10年間でみても、年度によりばらつきがありますが、65人から82人が採用されています( 法務省HP『検事に採用されるまで』)。検察官になる人は、ほとんどが司法試験・司法修習を経て検察官になっています。
検察官を志望する司法修習生は、司法修習中に法務省に対し採用願を提出します( 総務省HP『答申書』)。法務省で面接を受けて、採否が決定されます。
晴れて検察官に採用されると「法務総合研究所」という法務省の施設で、6週間の新任検事研修が行われます。法務省によれば新任検事研修では座学と実技が行われ、具体的には検事としての学識を備えるための講義や、取調べの実演などを行います(法務省HP「法務総合研究所における研修」)。
研修が終わるといよいよ実際の刑事事件の現場に出ていきます。1年2カ月間、東京、横浜、さいたま、千葉、大阪、京都、神戸、名古屋、福岡地方検察庁(地検)のいずれかに配属されます。これらは大規模な地検であり、検察庁では「A庁」と呼ばれています。
この配属期間と、新任検事研修を合わせた1年3カ月間が「新任検事」と呼ばれる期間です。この期間には、上司や先輩の助けを得つつ、検事として捜査や公判を経験します(法務省HP「新任検事」)。
法務省によると「主に立証上問題のない事件等について裁判に臨んでいるほか,先輩検事と一緒に裁判員裁判を担当」することになります。立証上問題ない事件とは、犯罪事実が明白で、犯罪事実の存在を証明することが困難でない事件をいいます。
新任検事期間が明けると「新任明け検事」としてA庁以外の検察庁で、2年間、検事の仕事を行います。
A庁以外の検察庁は比較的小規模であり、飯塚(2015)によれば「『新任明け検事』は各地検では一人前の検察官として扱われ、暴力係、麻薬係、少年係など様々な専門分野の事件を担当したり,管内の警察署からの相談を受ける窓口になるなど,新任時代とは比較にならないような法律上の問題や重要事件・複雑な事件についての経験を積むことにな」るとされています(飯塚和夫『検察官時代の思い出』中央ロー・ジャーナル第12巻第2号(2015))。
新任明け期間が終わると最初に赴任したA庁に戻ります。法務省によればここから「A庁検事」となり「指導・育成期間の仕上げ」として「新任検事、新任明け検事に比べ、数多くの事件を担当」することになります。
A庁検事は「殺人事件や強盗致傷事件などの重大事件の捜査や公判を主任として担当」することもあれば、主任だけでなく、先輩検事が担当する複雑困難な財政経済事件などの『応援』に入ることもあ」るとされています。A庁という大規模な地検の中で、事件関係者が複数いて、事実認定の問題があるような難事件に関わることで、検事としての実力が更に鍛え上げられます。
ここまでの5年間が検察官の育成期間です。この5年間が終わるといよいよシニア検事として働くことになります。
「シニア検事」は刑事事件業務に従事するほか、適性や希望も踏まえた上で、法務省本省・他省庁・大使館勤務、留学、弁護士職務経験など様々な経験をしていきます。5年目までの育成期間で経験した典型的な検事の職務を行いつつ、よりバラエティーに富んだ仕事も担当します。
代表的なのは「特別捜査部(特捜部)」と「本部係検事」の2つです。この2つは重大事件に取り組む点で、経験を積んだシニア検事だからこそできる仕事であり、テレビドラマや映画などでも取り上げられることの多い仕事です。
特捜部は、東京、大阪、名古屋の全国三か所の地検に存在します。特捜部では検察官や検察事務官が「公正取引委員会・証券取引等監視委員会・国税局などが法令に基づき告発をした事件について捜査をしたり,汚職・企業犯罪等について独自捜査を行っています」( 検察庁HP「捜査について」)。
「本部係検事」は、捜査本部が設置されるような殺人や放火等の重大事案を、初動捜査の段階から担当する検事です。「本部係検事は、警察と連絡を取り合うため、常に携帯電話を持ち歩き、事件が発生すれば、昼夜を問わず、平日休日を問わず、これに対応しなければ」ならないとされています。24時間365日、事件発生に備えているのが本部係検事です(検察庁HP「本部事件の捜査」)。
内閣府によれば、令和3年時点で検察庁に籍を置く検事は約1700人ですが、約100人は法務省、10人程度が金融庁や公正取引委員会で働き、数名が内閣府、警察庁、総務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、消費者庁、公害等調整委員会などで働いています(内閣府HP「検察官在職状況統計表」)。
一番勤務する検事の数が多い法務省では、主に刑事局で刑事法制に関する企画立案事務や検察・刑事に関する事務を行うとともに、検察庁の組織や運営に関する事務も担当します(法務省HP「刑事局の事務」、法務省HP「刑事局(総務課)」)。
第一線の検事として活躍し、年数を重ねると、管理職になる検事が出てきます。管理職といっても様々なものがありますが、地検の長である「検事正」や、高等検察庁の長である「検事長」が有名です(法務省HP「検察官の種類」)。他には、法務省の局長や事務次官などが、検事が務めるポストとして用意されています。
検察官を辞めることを「退官」といいますが、退官後弁護士になる検察官がいます。数は年によりばらつきがありますが、日本弁護士連合会によれば、2021年には49人が弁護士登録をしています(日本弁護士連合会「年度別弁護士登録者数とその内訳(弁護士登録前の職業と資格取得事由)」)。前述の通り、司法試験・司法修習を経て検察官になる人数が毎年70、80人程度であることを踏まえると、49人という人数は多いと評価できるのではないでしょうか。
弁護士ではない法律に携わる職として「公証人」になる人もいます。公証人の代表的な仕事は、公正証書の作成と確定日付の付与です。日本公証人連合会によれば、公正証書とは「私人からの嘱託により、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書」をいい、公正証書は「極めて強力な証拠力を有して」いるとされています(日本公証人連合会HP「公証事務」)。確定日付とは、契約書などの書面がその日に存在したことを証明するものです。確定日付が付与された文書は公正証書と同様、高い証明力を有します。法務省によれば、2022年度には205人が検察官から公証人になっています(法務省民事局総務課公証係作成「公証人の任命状況」)。