5/11/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2024年 民法
第1問
設問1(1)
仮に、CがAから甲を承継取得したとすれば、前主たるAとは対抗関係(民法(以下略)177条)にたないので、Aに対して登記なくして甲の所有権を主張できる。もっとも、AB間の甲土地を目的物とする売買契約(555条)は通謀虚偽表示(94条1項)であり無効であるから、Bから甲を買ったCは無権利者からの譲受人にすぎず、AとCは前主・後主の関係に立たない。
もっとも、Cが「善意の第三者」(94条2項)に該当すれば、虚偽表示の無効が対抗できない結果、Cは甲の所有権をAから承継取得するものと考えるので、CがAに対し甲土地の所有権を主張することができる。
ここで、同項の趣旨は権利外観法理にある。そこで「善意の第三者」とは虚偽表示の当事者又は一般承継人以外の者であって、虚偽の外観を基礎として新たな独立の法律上の利害関係を有した者をいう。そして、文理上無過失は要求されていないこと、本人の帰責性が大きいことから無過失までは要求されない。また、本人と第三者は前主後主の関係に立つから対抗要件としての登記は不要であり、かつ本人の帰責性の大きさから権利保護要件としての登記も不要といえる。
本件において、CはAB間の売買契約を虚偽であると知らず信じてBと売買契約を新たに締結しているから、Cは上記新たな独立上の法律上の利害関係を有した者といえ「善意の第三者」にあたり、Cは登記なくしてAに甲土地の所有権を主張することができる。
設問1(2)
94条2項によって、仮装譲受人が真正な権利者のように扱われるのは一種の法的擬制であり、権利変動の実体的過程は本人から第三者への承継取得である。そこで、第三者と本人からの譲受人は、本人を起点として二重譲渡類似の関係となり対抗関係にたつといえる。
CとDは、Aを起点とした対抗関係に立つため、Cは「第三者」(177条)たるDに対して登記なくして甲の所有権を主張できない。
設問2
まず、Aには車の修理による客観的価値の「利益」があり、Cには修理代金未支払い分50万円分の「損失」がある。
契約の相手方が所在不明など債権の回収の見込みがない場合には、その限りにおいて利益は損失者の損害によるものといえ、因果関係が認められるところ、Bは所在不明でCの債権回収の見込みがないため、Aの受益とCの損失の因果関係が認められる。
「法律上の原因なく」とは財産的移動を正当なものとするだけの理由がないことをいう。契約関係を全体としてみて、受益者が対価関係なしに利益を受けたといえる場合には正当なものとする理由がないといえ「法律上の原因」がないといえる。本件ではABの契約はBが修理を負担する反面、賃料自体を低く設定している。そうすると低く設定した賃料分Aも実質的に修理代を負担しているといえ、Aの受益に対価関係がないとはいえない。よって「法律上の原因なく」とはいえず、CはAに請求できない。
第2問
設問1
Bとしては、AのAB間の売買契約に基づく米100kgの受領義務という債務の不履行を理由とする解除(542条1項3号)により、Aへの米配達の義務を免れると主張することが考えられる。以下具体的に述べる。
1. そもそも、受領するか否かは債権者の権利であるところ、原則として債権者に受領義務を内容とする債務は負わない。もっとも、契約の内容・目的物の性質によっては債権者が受領を拒み続けることにより引渡債務者が常に履行責任を負いかつ損害を負うおそれがありかかる債務者にとって酷である。そこで、債務の本旨に従った履行がなされ、債権者が受領しないことに帰責事由がある場合には債権者は信義則(1条2項)上受領義務を負うと解する。
2. これを本件についてみると、BはAとの契約に従って、8月1日に米10kgをAの下へ届けており、かかる米が品質として劣っているとの事情もなく、Bは毎月の期日までにイタリア産の契約時と同じ品質の米をAに届けるという債務の本旨に従った履行をしているといえる。そして、AがBの持参した米を受け取らなかった理由は、弁当の売り上げが余りBの米が余ったからである。弁当が確実にヒットすると述べて契約を締結しているのはAであり、Bの米を余らせたのは専らヒットするといったAの責任である。
したがって、Aに受領しないことに帰責事由があるといえる。よって、Aは信義則上Bの米の受領義務を負うといえる。
3. そして、Aは受領を拒んでおり、受領義務違反があるといえる。
4. 以上より、Aは履行を拒絶することを明確に表示しているといえ上記主張に至る。
設問2
BはAに対し売買契約に基づく8月分の代金支払い請求をすると考える。以下具体的に述べる。
1. 売買契約において、代金支払と目的物の引き渡しは同時履行(533条本文)であるところ、BがAに8月分の米を引き渡しまで完了していない以上、代金支払いを請求したとして同時履行の抗弁により拒まれるとも思える。
2. しかしながら、567条2項の適用があれば、Aは代金の支払いを拒めないことになる。そこで、本条文の適用についてみる。
まず、Bは前述の通りAに対し債務の本旨に従った履行をしているため、「契約の内容に適合する目的物」を「提供した」といえる。そして、Aはこの「履行を受ける事を拒」んでいる。
一方、Bの米をAのところに持参するという債務はイタリア産の米という種類で特定したいわゆる種類債務である。ここで、種類債務は物の給付をするのに必要な行為をした時点でその物が目的物として特定される(401条2項)。
本件ではBがAに売買契約に基づく持参債務としての内容通りの米をAの下に持参しているため、「物の給付をするのに必要な行為」を完了したといえるので、かかる米が目的物として特定される。
その後、かかる米が50年に一度の大洪水という「当事者双方の責めに帰することのできない事由」により腐食しており、「滅失又は損傷」したといえる。
したがって、567条2項の適用があるといえるから、Aは代金の支払いを拒めない。
以上