3/26/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2024年 刑事訴訟法
第1問
1. 令状の記載の特定性
⑴まず、本件令状には「捜索すべき場所」(刑事訴訟法(以下略)218条1項、憲法35条)を「X工務店事務所及び付属する駐車場」と記載されているところ,かかる記載は適法か。憲法35条の趣旨は、令状裁判官が個別的に「正当な理由」を判断するのを確保することで、被疑事実に関連しない一般的探索的捜索押収を禁止し、被処分者のプライバシー・財産権等の人権を確保するとともに、被執行者に受忍範囲を明示し、不服申立て(430条)の便宜を図る点にある。よって、「捜索すべき場所」は、捜査機関の処分権限の及ぶ範囲を、管理支配が異なる他の対象と明瞭に区別できる程度に明示すべきである。具体的には、①空間的位置を明確にするとともに、②住居権・管理権の個数を基準に特定明示すべきである。
ア ①について、「X工務店事務所及び付属する駐車場」という記載により、捜索場所が明示されるとともに、X工務店事務所に駐車場が付属しているという空間的位置関係が明確にされている(①充足)。
イ ②について、「X工務店事務所及び付属する駐車場」の管理権はXのみが有していると考えられ、管理権の個数を基準に特定明示されている(②充足)。
ウ 以上から、「捜索すべき場所」の記載は適法である。
⑵次に、事務所の捜索は「X工務店事務所」内の捜索であるから適法である。またワゴン車は、X工務店事務所に「付属する駐車場」に停車しており、ワゴン車の管理権もXが有することから、かかる捜索は適法である。
2. 差押えの適法性
⑴本件捜索差押許可状は「差し押さえるべき物」(219条1項)として「本件強盗事件に関連すると思料される文書及び物件」との概括的な記載をしているが、かかる概括的記載が許されるか。 前述の令状主義の趣旨からすれば、差押目的物だけに備わっている特徴を具体的に明示するのが望ましい。もっとも、捜索・差押えは捜査の初期段階に行われることが多いところ、常にこのような表示を要求することは実際上不可能ないし著しく困難な場合が多い。 そこで、概括的記載であっても、①被疑事実との関連性が限定され、②具体的例示を伴うものであれば適法であると考える。
ア ①について、「本件強盗事件に関連すると思料される」と記載されており、被疑事実との関連性が限定されている(①充足)。
イ ②について、 本件捜索差押許可状においては、「本件強盗事件に用いられたパール様のもの,T時計店から強取された時計・貴金属類,逃走に使用された車両」といった具体的な差押え対象物が例示されており、具体的例示が伴っているといえる(②充足)。
ウ したがって,「差し押さえるべき物」の記載は適法である。
⑵では,Pらの差押えは適法か。
ア 前述の令状主義の趣旨から,①差押令状により差押えできる物は令状に明記された物件に当てはまり、かつ②被疑事実と関連性を有する物に限られると考える。
イ まず,鉄製のバール及びワゴン車は,本件捜索差押許可状において「差し押さえるべき物」に該当する(①充足)。また,ワゴン車は、逃走車両とナンバーが一致することから犯行に用いられたものと推認でき、バールはそのワゴン車から発見されたものであり、犯人はバールのような金属棒を使用していたことからため,本件被疑事実との間に関連性が認められる(②充足)。
次に,X社の出納帳は「文書及び物件」に当たる(①充足)。また、虚偽の帳簿の作成により本件強盗事件の被害品の隠蔽を計ること等がありえるため,被疑事実と関連性を有するといえ,「本件強盗事件に関連すると思料される文書及び物件」に該当する(②充足)。
さらに,従業員名簿,及び人事関係書類は「文書及び物件」に当たる(①充足)。また、ワゴン車―のキーが事務所の壁にかけてあり,X社の社員がワゴン車を使用することができた点から、犯行に関与した者は事務所関係者である可能性が極めて高い点で,被疑事実と関連性があり,「本件強盗事件に関連すると思料される文書及び物件」に該当する(②充足)。
ウ よって,Pらの差押えは適法である。
第2問
1. ①勾留質問は、勾留(207条1項、60条)するに際し,裁判官が勾留請求に係る被疑者・被告人に事件を告げて被疑者の陳述を聞いて勾留するか否かを決める手続である(61条)。その際,被疑者は黙秘権と弁護人選任権の告知を受ける(憲法34条)。これは、強制処分としての身体拘束に対する司法的コントロールを実現する意義を持つ。
2. ②冒頭陳述とは、証拠調べのはじめに、検察官(296条)や弁護人または被告人が証拠によって証明すべき事実を明らかにする陳述である。起訴状朗読・罪状認否等の冒頭手続を経て行われ、本格的な審理の開始を告げる役割を果たす。裁判所に事件の概要を示す機能があり、証拠としない資料に基づき予断を生じさせる事項の陳述は禁止される(同条但書)。
3. ③捜査官による不起訴の約束によってなされた,被告人による自己の犯罪事実の全部または主要部分を直接認める内容の供述たる自白は,任意性に疑いがあるとして,319条1項により証拠能力を欠くとされることがある。これは,自白が類型的にみて虚偽の自白が誘発されるおそれのある状況下でなされた場合には,その証明力を誤るおそれがあることにあることから,捜査官等の働きかけにより被疑者の心理に強い影響を与え、その影響にかんがみると類型的に虚偽の自白を誘発するおそれがあり、そのような状況下で自白がなされたときは、不任意自白として証拠能力が否定されると考えるためである。
以上