10/17/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2021年 民法
第1問
設問1
① 本件では、AB間で甲の売買契約(555条)が成立しているが、甲の引渡し前に河川の氾濫により、甲が滅失している。そのため、当事者双方の帰責性がなく甲の引き渡し債務の履行不能なっており、Bは代金の支払いを拒むことができる(536条1項)。
② 本件では、乙の賃貸借契約(601条)の合意がされているが、乙をDに引き渡す前に乙が滅失している。そのため、Dは乙を使用収益しておらず、賃料請求の要件を満たさないため、Dは賃料の支払いを拒むことができる。
③ 本件では、丙が滅失していることから、仕事が完成していないことを理由に代金の支払いを拒むことができる(633条、624条1項)。また、作業開始前に滅失しているため、履行割合による報酬請求(634条)もできない。
設問2 (1)について
取得時効を規定した162条1項の要件は①所有の意思、②平穏かつ公然と、③20年間、④他人の物を占有したことである。そして、下線部(ア)の事実は「所有の意思」に関連して意味を有すると考えられる。この「所有の意思」とは、占有者の主観を基準として判断されるのではなく、占有原因の客観的性質により判断される。本件では、BはAから甲の占有管理を委託されて甲を管理しているため、(ア)はBの所有の意思を否定する意味を有すると評価できる。
設問2 (2)について
(イ)の事実はXに甲の自己固有の占有が認められるかの判断に意味を有する。Bを相続(896条1項本文)したXも「承継人」(187条1項)に含まれる。もっとも、相続人の占有が185条後段の「新たな権限」に当たるか判断には、相続人の保護及び真の権利者の時効完成を阻止する機会を考慮するする必要がある。そこで、①相続人が新たに事実上の支配により占有を開始し、②外形的客観的に見て独自の所有の意思に基づくと認められる場合に「新たな権限」に当たり、自主占有への転換が認められる。(イ)はこの①、②に該当すると考えられる。
第2問
設問1
1. 本件では、乙の物上代位に基づく差押え(372条、304条1項但し書)とDに対する債権譲渡(466条の6第1項)のどちらが優先するか。
2. 本件では、Cは甲について抵当権(369条1項)の設定を受けている。そのため、乙債権について物上代位することができるとも思える。もっとも、乙債権はBからDに譲渡され、確定日付のある証書によりAに通知されており、対抗要件も具備されている(467条2項)。このような場合に、抵当権者は自ら目的債権を差し押さえて物上代位することができるか。そこで、「払渡し又は引渡し」に債権譲渡が含まれるかが問題となる。
3. この点、抵当権は、先取特権とは異なり、登記により、物上代位の目的債権について効力が及ぶことを公示している。 そのため、「差押え」(372 条、304 条 1 項但書)の趣旨は、第三者保護ではなく、弁済のあて先が不明確になることによる二重弁済の危険から第三債務者を保護する点にある。そこで、抵当権設定登記後に第三者対抗要件を具備した債権譲渡は「払渡し又は引渡し」にあたらず、債権譲渡がなされ第三者が対抗要件(467条2項)を備えた後でも、「差押え」をすることで物上代位権を行使できると考える。
したがって、本件では、Cによる抵当権の設定登記が債権譲渡の対抗要件具備より前になされているからCは物上代位権を行使できる。
4. 以上より、本件では、Cの物上代位による差押えが優先する。
第2問 設問2
1. AはCからの延滞賃料の支払い請求を拒むことができるか。本件において、AはBに対して敷金45万円を交付していることにより、未払いの賃料45万円は敷金の充当により消滅すると主張する。かかる主張が認められるか。
2. そもそも、敷金の充当による未払賃料等の消滅は、敷金契約から発生する効果であって、相殺のように当事者の意思を必要とせず、511条のような問題にならない。また、抵当権者は、物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえる前は、原則として、抵当不動産の用益関係に介入できない。そのため、敷金契約が締結された場合、賃料債権は、敷金による充当を予定した債権になるといえる。したがって、目的物の返還時に残存する賃料債権は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅し、賃借人は、このことを抵当権者に対抗できると考える。
3. よって、Cの物上代位による差押えより敷金の充当が優先される結果、Aの上記主張は認められる。
以上