7/21/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
早稲田大学法科大学院2024年 刑事訴訟法
1. Kの捜索・差押は、逮捕に伴う捜索差押(刑訴法(以下、法令名省略)220条1項2号、3項)として適法か。
⑴ 本件では、Kが職務質問を行うため、「訊きたいことがあります」と言いながら走り寄ったところ、Xは、両手でKの両肩を突き飛ばし、同人を転倒させたことで、KはXを公務執行妨害の現行犯人として逮捕したから、「現行犯人を逮捕する場合」(同条1項柱書)にあたる。
⑵ また、Vから、東京都新宿区内の某所で、見知らぬ男に路上で因縁をつけられ、A社製の高級腕時計を喝取されたとの通報があったため、Kは現場に赴いたところ、付近の住宅で恐喝事件の犯人の人相風体に合致するXを見つけたから、Xが恐喝事件の被害品の時計を所持している可能性があり、Xの身体を捜索する「必要があるとき」(同項柱書)にあたる。
⑶ もっとも、Kは逮捕場所から約100メートルル離れた区立公園内にXを移動させた上で捜索・差押を実施しているから、Kの捜索・差押は「逮捕の現場」(同項2号)でされたとはいえないのではないか。
ア 逮捕に伴う捜索差押が無令状で許容される(同条3項)趣旨は、逮捕現場に被疑事実に関連する証拠物が存在する蓋然性が高く、令状裁判官の事前審査を経ずとも捜索・差押の正当な理由が一般的に認められるため、令状主義の合理的な例外として肯定される点にある。
そして、被疑者のいる場所を移動しても被疑者の身体・所持品に証拠物が存在する蓋然性は変化しない。
そこで、①逮捕した被疑者の身体又は所持品に対する捜索・差押である場合、②逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者の抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索・差押を実施することが適当でないときには、③速やかに被疑者を捜索・差押の実施に適する最寄りの場所まで連行した上で捜索・差押を実施することも、「逮捕の現場」(同条1項2号)における捜索・差押と同視することができると解する。
イ 本件では、現行犯逮捕した被疑者Xの身体及び同人が携行していたリュックサックという所持品の捜索を実施しようとする場合である(①充足)。そして、逮捕場所である路地には街灯がなく、暗かったため、逮捕現場付近の状況に照らし、その場で捜索・差押を実施することが適当でないといえる(②充足)。KはXを逮捕現場からわずか約100メートルと近くて、照明などがあり明るいと考えられる区立公園内に移動させているから、Xを捜索・差押の実施に適する最寄りの場所まで連行した上で捜索・差押を実施した(③充足)。
ウ したがって、Kの捜索・差押は「逮捕の現場」における捜索・差押と同視できる。
⑷ 上記趣旨から、逮捕被疑事実に関連する証拠物であると解されるが、かかる証拠には、当該被疑事実の直接証拠、間接証拠の他、当該被疑事実の背景事情や情状事実に関する証拠も含まれると解する。
本件では、Xの逮捕の前、VがA社製の高級腕時計を喝取されたとの通報があり、警察官Kが現場に赴いて、付近の住宅街で、恐喝事件の犯人の人相風体に合致するXを発見し、KがXに対して職務質問をした際に、Xが、両手でKの両肩を突き飛ばし、同人を転倒させたという背景があった。差押えをした腕時計は、本件の逮捕被疑事実自体に関連するものではないが、逮捕の背景事情である恐喝の被害に関連する証拠であるといえる。そのため、Kが差し押さえた腕時計は、逮捕被疑事実に関連する証拠物といえる。
2. よって、Kの捜索・差押えは適法である。
以上