11/30/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
中央大学法科大学院2023年 商法
設問(1)
1. Cは甲社を被告に株式発行無効の訴え(会社法(以下、略)828条1項2号)を提起する手段をとることが考えられる。
⑴ これをみるに、Cは「株主」(同条2項2号)であり原告適格を満たす。また、株式の発行が行われたのは令和4年4月26日であり、同年10月2日の時点では6か月の提訴期間(同条1項2号)も満たす。さらに甲社は被告適格を満たす(834条2号)。
⑵ そして、Cの主張する無効原因としては、取締役会決議を欠くこと、Eの払い込みが仮装払込みに当たることの二つが考えられる。以下、両主張を検討する。
ア この点募集株式の発行は、取引的行為の色彩が強く、多くの利害関係人が生ずるものであるから、その無効原因は重大な法令・定款違反に限られると考える。
イ これをみるに、甲社は公開会社であるから、募集株式の発行に当たっては取締役会の決議が必要になるところ(201条1項、199条2項)本件新株発行では、取締役会決議がなされていない。もっとも、会社法は公開会社における募集株式の発行を業務執行に準ずるものとして扱っており、対外的に代表権を有する者によって株式が発行された以上相手方の取引安全の保護を優先すべきである。したがって、本件新株発行は代表取締役であるBによって発行されている以上、取締役会決議を欠くが無効とはならない。
ウ 次に、仮装払込みとは、実質的には会社の資金とする意図なく単に払込みの外形を装ったに過ぎない場合をいう。これをみるに、本件新株発行においてEは甲社から金銭を借入れ、その金銭によって株式の払込みを行い、その後借入債務の免除を受けている。この一連の行為を全体としてみると、Eの払込みは実質的には甲社の資金によって行われており、払込みによって甲社の資金が増加せず単に払込みの外形を装ったに過ぎないといえる。したがって、Eの払込みは仮装払込みに当たる。
もっとも、209条3項の「権利を行使することができない」との文言、同条4項によって善意無重過失の譲受人は権利行使が認められていることから、会社法は仮装払込みに係る株式の効力を有効と考えていると解することができる。したがって、仮装払込みがあったことは、本件新株発行の無効原因とはならない。
2. 以上より、Cの主張は認められない。
設問(2)
1. まず、Eは213条の2第1項1号によって、甲社に対して、払込みを仮装した払込金額全額を支払う責任を負うから、甲社に対し、1億円の支払いをする責任を負う。
2. 次に、Bは、「出資の履行の仮装に関する職務を行った取締役」(会社法施行規則46条の2第1号)であるから、「出資の履行を仮装することに関与した取締役」として213条の3第1項の責任を負うため、甲社に1億円の支払いをする義務を負う。なお、Bは甲社を代表してEの甲社への借入債務の免除をしており、出資の履行の仮装について注意を怠らなかったとはいえず同条但書による免責の余地はない。
以上