2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
広島大学法科大学院2023年 民法
第1問
1. Bは「1,523,000円」で契約を締結するつもりが、誤って「1,253,000円」と見積書に記載して提示してしまったため、表示の錯誤(民法(以下略)95条1項1号)として契約の取消を主張すると考えられるが、Bの主張は認められるか。
2. 表示の錯誤の要件は、①錯誤が「意思表示に対応する意思」(同号)を欠くこと、②意思表示が当該錯誤「に基づく」(同項柱書)こと、③その錯誤が法律行為の目的及び社会通念に照らして「重要なもの」であること、④表意者の「重大な過失」(同条3項)がないことである。②の「重要なもの」であるとは、表意者が意思表示の内容の主要な部分とし、その点について錯誤がなければ表意者は意思表示をしていなかったといえ、かつ意思表示をしないことが一般取引の通念に照らして妥当であることをいう。
3. 本件において、Bは「1,523,000円」で契約を締結するつもりが、誤って「1,253,000円」と見積書に記載していることから、「1,253,000円」で契約する意思を欠いているといえ、「意思表示に対応する意思」を欠いているといえる(①充足)。また、Bの内心の価格と表示価格では約300万円もの差がある以上、Bが誤記を認識していれば、「1,253,000円」で見積書を提示するという意思表示はしなかったといえる(②充足)。そして、Bの立場に置かれた一般人からしても、それだけの価格差がある以上、「1,253,000円」で見積書を提示するという意思表示はしなかったと考えられる。したがって、「法律行為の目的及び社会通念に照らして重要なものである」といえる(③充足)。そして、本件においてはBに重大な過失は認められない(④充足)。
4. 以上より、Bの錯誤取消の主張は認められる。
第2問
設問(1)
1. 本件においてAが引渡しを拒否する意思を明確に示しているため、Bは債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項、2項2号)をすると考えられるが、小麦が本件契約締結後に価格高騰していった事情があるため、どの時点の価格が損害の金額として請求できるかが問題となる。
2. 債務不履行に基づく損害賠償請求(同条1項)の要件は、①「債務」の発生原因、②「債務の本旨に従った履行をしないとき」、③「損害」の発生・金額、④債務不履行「によって」損害が生じたこと、⑤「債務者の責めに帰することができない事由」の不存在(同条項但書)である。
本件契約によって、Aには6月末にBの指定する倉庫に小麦を届ける「債務」があった(①充足)。それにもかかわらず、Aは6月末に引渡しをせず、かつBの引渡しの要求を拒否し、相当期間が経過したため、「債務の本旨に従った履行をしないとき」にあたる(②充足)。Bには小麦の引渡しを受けられないという「損害」が発生しており(③充足)、上記債務不履行「によって」かかる損害が生じたといえる(④充足)。また、Aの免責事由が存在する事情もないため、「債務者の責めに帰することができない事由」はない(⑤充足)。
そして、「債務者」Aが小麦の引渡「債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき」(同条2項2号)にあたる。
3. そこで、Bは履行に代わる損害賠償請求をすると考えられるが、「損害」賠償額の算定時期はいつの時点か。
⑴ まず、「通常生ずべき損害」の算定時期は、原則として債務不履行時を基準とすべきである(416条1項)。金銭賠償の原則(417条)から、損害賠償請求権の金銭的評価が可能となる時点で損害賠償額を算定するのが妥当だからである。
もっとも、目的物の価格が高騰しつつあるという「特別の事情」があり、かつ、債務不履行時において、債務者がその特別の事情を「予見すべき」であった場合は高騰した現在の価格である(416条2項)。
⑵ 本件において、本件契約を締結した翌日にC国がD国に侵攻したことで小麦の価格が高騰していったという特別の事情があるが、債務不履行時である6月末の時点では、侵攻はすでに行われており、小麦の価格高騰は予見できるといえ、特別の事情を予見すべきであったといえる。そのため、本件における損害賠償額は現在の価格である。
4. 以上より、Bは現在の小麦の価格に基づく損害賠償請求をすることができる。
設問(2)
1. AはBに対し、履行期以降の増加した保管費用の請求をするために、受領遅滞責任(413条2項)を追及すると考えられる。
2. 本件契約に基づく小麦の引渡債務についての「債権者」Bは、Aが引渡期日の6月末に履行の提供をしているにもかかわらず、不当に「債務の履行を受けることを拒」んでいるそして、Bが履行の受領を拒んだこと「によって」、Aの保管「費用が増加した」
3. よって、Aは履行期以降「の増加額」である保管費用を「債権者」Bに対して請求することができる。
以上