2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2023年 民事訴訟法
1. 当事者がした事実の主張
⑴ 私的自治の訴訟段階における反映の観点より、裁判資料の提出を当事者の権能かつ責任とする建前たる弁論主義が採用されている。そこで、裁判所が当事者の主張していない事実を判決の基礎とすることはできない(弁論主義第一テーゼ、主張原則)。そして、弁論主義の適用対象となる事実の範囲が問題となるも、間接事実や補助事実は、主要事実の存否を推認する資料となる点で証拠と同様の機能を果たすため、これらの事実に弁論主義を適用すると裁判官の自由心証 (247条)を不当に害することになるから、権利の発生・変更・消滅の判断に必要な具体的事実たる主要事実に限られる。
⑵ 本件訴訟に係る訴訟物は、XY間消費貸借契約に基づく貸金返還請求権であるところ、XがYに対して弁済期を令和4年10月31日と定めて150万円を貸し渡した事実及び弁済期である同日の到来という事実(以下、「本件事実」とする)は、当該請求権の発生の判断に必要な具体的事実といえるから、主要事実にあたる。
⑶ したがって、裁判所は、本件事実をX及びYが主張していない場合には、これを判決の基礎とすることはできないことになるが、本件事実の主張は、本件訴訟の第1回口頭弁論期日において既にXによりなされているから、裁判所にXY間消費貸借契約締結事実を判決の基礎とすることができるという訴訟法上の効果を及ぼす。
2. 証拠申出
⑴ 弁論主義の下、裁判所が当事者間に争いのある事実を判決の基礎とするためには、必ず当事者が提出した証拠によらなければならない(弁論主義第三テーゼ)。
⑵ 本件では、後述のYによる裁判上の自白が成立する場合を除き、裁判所が本件事実を認定するためには、当事者によって提出された証拠によることを要する。
⑶ したがって、本件における、Xによる「金銭消費貸借契約書」に対する証拠としての申出は、裁判所がXY間金銭消費貸借契約締結事実を認定することを可能とする旨の訴訟法上の効果を及ぼす。
2. 裁判上の自白
⑴ 裁判上の自白とは、口頭弁論期日又は弁論準備期日における相手方の主張と一致する自己に不利益な事実を認める旨の弁論としての陳述をいう。
本件では、Yが本件事実を認めた上で弁済をした旨の事実を主張すること(以下、「本件主張」とする)が考えられる。このうち、Yが本件事実を認める部分は、相手方Xの主張と一致する弁論期日に成された陳述である。また、本件事実はYにとって相手方Xが証明責任を負う事実だから、かかる部分は、自己に不利益な事実を認める旨の弁論としての陳述といえ、裁判上の自白にあたる。
⑵ とすると、本件事実につき不要証効(179条)が生じる。また、裁判所は当事者に争いのない事実はそのまま判決の基礎として採用しなければならない(弁論主義第2テーゼ)ことを根拠として、主要事実についての自白には裁判所拘束力も生じる。
本件では、本件事実が主要事実にあたる以上、Yが本件事実を認めた場合、本件事実につき裁判所拘束力が生じる。
さらに、裁判所拘束力により裁判所が異なる事実を認定する可能性がなくなる以上、撤回を認めれば相手方の有利な地位を覆すことになるから、禁反言を避けるべく、本件事実につき当事者拘束力も生じる。
上記裁判上の自白は、以上のような訴訟法上の効果を及ぼす。
⑶ 一方、本件主張のうち、Yによる弁済の事実の主張は、XのYに対する消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の請求原因事実である本件事実と両立し、XのYに対する貸金債権を消滅させる(民法473条)点で、同請求権の発生を覆滅させる事実の主張だから、抗弁にあたる。
なお、本件主張は、相手方の主張する事実を認めながら抗弁を主張するものだから、制限付き自白としての意味を有する。
以上