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2022年 民法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2022年 民法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】

1/3/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

京都大学法科大学院2022年 民法

第1問

設問1

1. Aは、Xを代理して、Zに対し甲土地所有権(民法(以下、略)206条)に基づく所有権移転登記抹消登記手続請求をすることが考えられる。

 ⑴ 2021年8月2日に、Xについて、Aを成年後見人とする後見開始の審判(7条)が確定している。そのため、Aは、甲土地所有権につき代理権を有している(859条1項)。

 ⑵ Xが、甲土地を所有していたことにつき、XZ間で争いはない。

 ⑶ Zは甲土地を占有しているため、上記請求は成立する。

2. Zは、XY間における本件契約によって、Xが甲土地所有権を喪失しているとして、契約による所有権喪失を主張することが考えられる。これに対して、Aは、本件契約が詐欺取消し(96条1項)により無効(121条)であると反論することが考えられる。

 ⑴ 「詐欺」(同項)と認められるためには、相手方を錯誤に陥らせる点及び当該錯誤に基づく意思表示をさせる点につき、故意を要すると解すべきである。
   Yは、甲土地の時価が1億円であることを認識しつつ、甲土地を騙し取る目的で甲土地の時価を2000万円であると虚偽の事実を並べ立て、本件契約を締結する意図を有している。そこで、Yは、Xを甲土地の時価が2000万円であると錯誤に陥らせる点及び当該錯誤に基づき本件契約を締結させる点につき、故意であるといえる。
   したがって、上記Yによる一連の行為は、「詐欺」にあたる。

 ⑵ Xは、上記Yによる虚偽の事実を信じ、甲土地の時価が2000万円である旨の錯誤に陥っている。そして、当該錯誤に基づいて、本件契約を締結している。そこで、Xによる本件契約締結の意思表示は、「詐欺…による意思表示」(同項)といえる。

 ⑶ したがって、Aが本件契約を取消す旨の「意思表示」(123条)をすれば、上記反論は成立する。

3. Zは、自己が「第三者」(96条3項)にあたるため、Aによる上記反論は認められない旨の主張をすることが考えられる。

 ⑴ 同項の趣旨は、詐欺取消しに係る遡及効(121条)から第三者を保護し、以て取引の安全を図る点にある。そこで、「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者であって、詐欺に係る意思表示の取消し前に、新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいうと解する。また、取消権者と「第三者」は契約の前主後主の関係に立つこと及び被欺罔者に一定の帰責性が認められることから、「第三者」該当性につき、対抗要件及び権利保護要件としての登記は不要と解する。

 ⑵ Zは、本件契約につき、当事者及びその包括承継人にあたらない。そして、Zは、本件契約の取消し前たる2021年7月1日に、甲土地を目的物としたZY間売買契約(555条)による甲土地所有権の取得(176条)という新たな独立した法律上の利害関係を有するに至っている。そこで、Zは、「第三者」にあたる。

 ⑶ したがって、ZがXによる上記詐欺の存在につき善意及びその存在を知らないことにつき過失が存しない場合には、「善意でかつ過失がない第三者」(96条3項)にあたり、上記主張は認められる。

4. Aは、詐欺取消しの主張に加えて、本件契約が錯誤取消し(95条1項柱書)により無効(121条)であると主張することが考えられる。

 ⑴ 上記の通り、Xは、甲土地の時価が2000万円である旨の錯誤に陥り、当該錯誤に基づいて本件契約締結の意思表示を行なっている。そこで、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する」(同項1号)といえる。

 ⑵ Xが甲土地の時価が1億円であることを知っていれば、あえて5分の1の値段たる2000万円でこれを売却したとは、通常考えられない。そこで、上記錯誤は、「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」(同項柱書)といえる。

 ⑶ 要素の錯誤は、意思表示の過程に錯誤が存在しないため、当該錯誤にかかる事情が法律行為の内容となっていることを要する。そこで、「表示」(同条2項)とは、当該錯誤に係る事情が法律行為の基礎とされていることにつき、表意者と相手方とが共通の了解を有するに至ったことをいうと解する。

 ⑷ 上記の通り、Xは、あえて甲土地の時価が2000万円である旨の虚偽の申し向けを行なっている。この様な事情に鑑みれば、Xは、甲土地の時価が現実とは異なることに係る取引上の危険を引き受けたと評価できる。
   したがって、本件契約に係る代金が現実の時価であることが「表示」されたといえる。

 ⑸ よって、Aが錯誤により取消す旨の「意思表示」(123条)をすれば、上記反論は成立する。

5. Zは、Xの上記錯誤は、「重大な過失によるもの」(95条3項柱書)であるため、上記錯誤取消しの主張は認められないとの反論をすることが考えられる。

 ⑴ Xが上記錯誤に陥ったのは、Yによる巧みな虚偽の申し向けに起因する。加えて、Xは高齢であり、認知症の症状が進行していた。この様な事情に鑑みれば、Xが自ら甲土地の時価を調べなかったことを理由に、結果回避義務違反の程度が著しいとまでは評価できない。そこで、Xに「重大な過失」(同項)は認められない。

 ⑵ したがって、上記反論は成立しない。

6. Zは、自己が「第三者」(95条4項)にあたるため、Aによる上記反論は認められない旨の主張をすることが考えられる。

 ⑴ 同項の趣旨は、錯誤取消しに係る遡及効から第三者を保護し、以て取引の安全を図る点にある。そこで、「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者であって、錯誤に係る意思表示の取消し前に、新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいうと解する。また、詐欺取消しの場合と同様に、対抗要件及び権利保護要件としての登記は不要と解する。

 ⑵ 上記詐欺取消しと同様に、Zは、「第三者」にあたる。

 ⑶ したがって、Zが上記錯誤の存在につき善意かつその存在を知らないことにつき無過失である場合には、「善意でかつ過失がない第三者」(同項)にあたり、上記主張は認められる。

7. 以上より、Zが「善意でかつ過失がない第三者」にあたらない場合に限り、Aによる上記請求は認められる。

設問2

1. Aは、Xを代理して、Zに対し甲土地所有権に基づく所有権移転登記抹消登記手続請求をすることが考えられるところ、第一1の通り、同請求は成立する。

2. Zは、XY間における本件契約によって、Xが甲土地所有権を喪失しているとして、契約による所有権喪失を主張することが考えられる。これに対して、Aは、本件契約が詐欺取消し(96条1項)により無効(121条)であると反論することが考えられるところ、第一2の通り、当該反論は成立する。

3. 2021年9月1日に、Aが、Xを代理してYに対し甲土地の返還を求めていることから、同日時点で本件契約の詐欺取消しの意思表示がされたといえる。そのため、Zは、取消し後の第三者であり、「第三者」(95条4項。96条3項)として保護される余地はない。そこで、Zは、自己が「第三者」(177条)にあたるため、Zによる甲土地所有権移転登記により、Xは甲土地所有権を喪失した旨の主張をすることが考えられる。

 ⑴ 同条の趣旨は、不動産取引の安全を図る点にある。そこで、「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者であって、登記の存否を主張するにつき正当な利益を有する者をいうと解する。

 ⑵ まず、Zは、本件契約の当事者及びその包括承継人にあたらない。そして、取消権行使による意思表示の遡及的無効は法的擬制にすぎず、取消権行使が為されるまでは対象たる意思表示も有効であるため、復帰的物権変動を観念することができ、取消しの相手方を起点とした二重譲渡類似の関係を認め得る。そこで、取消し後の第三者たるZは、登記の存否を主張するにつき、正当な利益を有する者にあたる。従って、Zは、「第三者」にあたる。
   次に、Zは、2021年10月1日に締結した甲土地を目的物とするYZ間売買契約に基づき、甲土地所有権移転登記を備えている。

 ⑶ したがって、上記反論は成り立つ。

4.  Aは、Zが背信的悪意者にあたり、「第三者」(177条)として保護される余地はないと反論することが考えられる。

 ⑴ 自由競争原理の下、単なる悪意者は「第三者」として保護される。他方で、第三者を害する目的を有するような背信的悪意者は、自由競争原理の枠を逸脱しており、信義則上「第三者」として保護されないと解すべきである。

 ⑵ したがって、ZがAによる取消権行使の事実を知っており、かつ上記YZ間売買契約においてXを害する意図を有していた場合には、背信的悪意者にあたり、「第三者」として保護されない。

5. 以上より、Zが背信的悪意者にあたらない限り、Aによる上記請求は認められない。

 

第2問

Aに対する請求

1. Xは、Aに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法(以下、略)415条1項本文)をすることが考えられる。

 ⑴ 債務の内容が結果債務である場合には、債務者は完全給付義務を負う。そこで、不履行の原因が履行補助者の行為であるか否かは、結果債務に係る不履行の有無に影響を及ぼさないと解する。
   A及びXは、2020年11月1日に、甲を目的物とする賃貸借契約(601条)を締結している。そのため、Aは、Xに対し、賃貸期間満了に際して、甲をXに返還する義務(同条)を負っていたといえる。そして、甲は、2021年1月20日に窃盗団により盗み出され、現在は日本と国交のない某国に所在している。この様な事情に鑑みれば、甲をXに返還する債務は、「取引上の社会通念に照らして不能である」(412条の2第1項)と評価する他ない。
   したがって、「債務の履行が不能であるとき」(415条1項本文)にあたる。

 ⑵ 「損害」(同項本文)とは、債務不履行がなければ債権者が有していた財産状態と現実の財産状態との差額をいうと解するところ、上記債務不履行「によって生じた損害」(同項本文)を如何に解するべきか。

  ア 履行不能に基づく損害賠償請求権が履行不能時に発生することから、損害の算定基準時は、原則として履行不能時と解すべきである。もっとも、損害賠償請求時に目的物の価格が高騰している場合には、①履行不能時に目的物の価格が高騰し続けているという特別の事情があり、かつ、②債務者が履行不能時に当該事情を予見すべきであったときに限り、高騰時の価格を基準にすべきと解する(416条2項参照)。
    加えて、目的物の価格が一旦高騰した後に下落した場合には、③債務者が履行不能時に当該事情及び高騰時の価格に相当する利益を確実に取得したという事情の存在を知り又は知り得たときに限り、中間最高価格を基準にすべきと解する(416条2項参照)。

  イ 甲が盗み出された2021年2月上旬時点では、甲と同じ機種で使用年数も同程度である中古品の相場価格が340万円に高騰している(①充足)。そのため、掘削機械の相場について通常人よりも知見を有する工事事業者Aは、履行不能時点において、甲の価格が高騰することを予測し得たとも評価し得る(②充足)。

  ウ 他方で、AX間の甲を目的物とする賃貸借契約の期間は、甲の価格が最も高騰した2021年5月末であるため、契約満了により返還された甲を販売業者であるAが第三者に売却することは、ある程度予想し得たといえる。しかし、上記履行不能時点において、Aが甲を第三者に売却する旨の契約を締結したとの事情はなく、また、第三者に契約する旨の計画を策定していたとの事情もない。この様な事情に鑑みれば、Xが高騰時の価格に相当する利益を確実に取得することを知り又は知り得たとは評価できない(③不充足)。

  エ したがって、上記履行不能「によって生じた損害」は、同年11月現在の時価たる350万円である。

 ⑶ Aは、上記履行不能がBによる管理体制に起因するとして、「債務者の責めに帰することができない事由によるものである」(同項但書)と反論することが考えられる。

  ア Bは、AB間転貸借契約に基づき、甲を占有していた。そして、同契約締結に際して、甲の管理方法を厳格に定めたとの事情はない。この様な事情に鑑みれば、甲の盗難がBによる管理体制に起因するとしても、履行不能がAの責めに帰することができない事由によるものとは評価できない。

  イ したがって、上記Aによる反論は認められない。

2. よって、上記請求は350万円の限度で認められる。

Bに対する請求

1. Xは、Aに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法(以下、略)415条1項本文)をすることが考えられる。

 ⑴ 「転借人は、…賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う」(613条1項)。
   上記の通り、甲は盗み出されているため、転貸借契約の終了により甲を返還する旨の債務は、「履行…不能」(415条1項本文)に陥っている。

 ⑵ 上記の通り、甲が盗難に遭った2021年2月上旬時点で高騰し始めており(①充足)、工事事業者たるBは、甲が今後高騰する事情を予見することができたと評価できる(②充足)。

 ⑶ 他方で、Aと同様に、Xが甲の中間最高価格の時点でこれを第三者に売却することを知り得たとは評価し得ない(③不充足)。
   したがって、「履行不能…によって生じた損害」(415条1項本文)は、350万円である。

 ⑷ 甲が盗難に遭ったのは、Bの管理体制に起因するため、履行不能がBの「責めに帰することができない事由によるもの」とは評価し得ない。

2. よって、上記請求は、350万円の限度で認められる。

以上

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