2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2023年 行政法
1. Xが提起した処分Bの取消訴訟(行政事件訴訟法(以下、略)3条2項)には、特定の訴訟物に対する判決による紛争解決の実効性及び必要性を吟味するための訴訟要件たる訴えの利益(9条1項参照)が認められるか。
⑴ 取消訴訟制度の目的は、行政庁の違法な処分により個人の権利利益が侵害されている場合に、当該処分の法的効果を遡及的に消滅させ、以て個人の権利利益の回復を図る点にある。そこで、訴えの利益が認められるには、㋐処分が取消判決によって除去すべき法的効果を有しているか又は㋑処分を取り消すことによって回復される権利利益が存在するかのいずれかが認められることが必要である。
⑴ まず、処分B(医師法7条2号)は、被処分者が医業を六ヶ月行うことを禁止する旨の法的効果を有するところ、上記取消訴訟の係属中に停止期間が経過していることから、当該法的効果は失われている。そのため、当該法的効果を以て、取消判決によって除去すべき法的効果が存在するとはいえない(㋐不充足)。
次に、医籍には、「第七条第一項の規定による処分に関する事項」(同法5条)が登録される。そのため、処分Bに係る停止期間が経過したとしても、被処分者の名誉に対する侵害が継続しており、処分Bを取り消すことによって回復される権利利益が認められるとも思える。しかし、上記の取消訴訟制制度の目的より、処分に係る事実上の効果は訴えの利益を基礎付けないと解すべきであるため、名誉の侵害を根拠に処分Bを取り消すことによって回復される権利利益を肯定することはできない(㋑不充足)。
他方で、確かに、同項は「命ずることができる」と定め、発令につき厚生労働大臣に効果裁量を与えている。そのため、処分Bの存在を以て必然的に同発令が行われるものでない以上、処分Bは同発令を基礎付ける旨の法的効果を有しないとも思える。しかし、処分Bの存在が厚生労働大臣による再教育研修の命令に係る要件と定められている(同法7条の2第1項)ため、例え効果裁量が認められていたとしても、除去すべき法的効果が存するといえる(㋐充足)。
また、「病院を開設しようとするときは、…開設地の都道府県知事…の許可を受けなければならない」(医療法7条1項)。そして、医師法7条各号に掲げられた処分を受けた者が病院を開設しようとする場合は、「再教育研修」(医師法7条の2第1項括弧書)を修了し、再教育研修修了登録(同条2項)を受けた者のみが、都道府県知事による開設許可を受けることができる(同法7条1項括弧書、同条4項、医師法施行規則1条の14第1項1号括弧書)。そこで、処分Bには、停止期間経過後も病院開設に係る許可要件が加重されるという法的効果が認められる(㋐充足)。
加えて、厚生労働大臣は、指定医の再指定において「指定医として著しく不適当と認められる者について…指定をしないことができる」(同法19条の2第2項)。そのため、再教育研修を受けていないことが再指定の際に不利に考慮されることとなる。そこで、再指定において、再教育研修を受けることが事実上加重要件とされているといえ、停止期間経過後も除去すべき法的効果が認められる(㋐充足)。
2. よって、上記取消訴訟には、訴えの利益が認められる。
以上