1/3/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2021年 民法
第1問
設問1
Aは、Dに対して、本件抵当権(民法(以下、略)369条1項)に基づく妨害排除請求権としての乙返還請求をすることが考えられる。
1. まず、抵当権は非占有担保であるため、抵当権に基づく妨害排除請求の可否が問題となる。
⑴ 抵当権は、優先弁済的効力があるから、その行使が困難である場合には、 物件としての絶対性にも鑑み、妨害排除請求権が認められるべきである。そこで、他者の占有により、抵当目的物に係る交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態がある場合は、抵当権に基づく妨害排除請求権を行使できると解するべきである。
⑵ 甲建物は、音楽スタジオであって、防音および音響効果のために特別な設計が施されている。そのため、スタジオ録音用の音響設備たる乙が無権限者により搬出されれば、甲建物自体の交換価値までも毀損されるおそれがある。そこで、乙を搬出する行為は、抵当不動産たる甲建物の交換価値を妨げ、優先弁済請求権の行使を困難とするものといえる。
⑶ したがって、本件抵当権に基づく妨害排除請求権の行使は認められる。
2. 次に、 スタジオ録音用の音響設備たる乙は、音楽スタジオとして設計された甲建物と同一の所有者にその所有権が帰属し、甲建物の効用を継続的に助ける物であるため、従物にあたる。そして、抵当権の効力は、「付加して一体となっている物に及ぶ」(370条)ところ、乙はこれにあたるか。
⑴ 抵当権は、物の交換価値を支配する権利であるところ、従物は主物の経済的効用を高めるものであるしたがって、従物は、抵当権設定と付属の前後を問わず、「付加…一体…物」にあたると解する。
⑵ したがって、乙は「付加…一体…物」にあたる。
3. 2017年3月1日、Aは、AのCに対する貸金債権を被担保債権とする本件抵当権の設定を受けている。もっとも、乙は、抵当目的物たる甲建物から搬出されていることから、抵当権の効力が及んでいないのではないか。
⑴ 抵当権には、追及効が認められることから、抵当目的物から搬出された事実のみを以て、抵当権の効力が失われないと解する。
⑵ したがって、乙には抵当権の効力が及んでいる。
4. よって、上記請求は認められる。
設問2
Aは、Eに対して、本件抵当権(民法(以下、略)369条1項)に基づく妨害排除請求権としての乙返還請求をすることが考えられる。前述のとおり、抵当権に基づく妨害排除請求権、および搬出前の乙に本件抵当権が及んでいる。では、搬出後の乙にも本件抵当権は及んでいるか。
1. 抵当権は抵当不動産の交換価値を支配する価値権である。そのため、付加一体物としてその交換価値を抵当権により支配された以上、その後、抵当不動産から分離・搬出され付加一体物でなくなった物であっても、従前の交換価値の支配内容を回復するためのものとして、抵当権の効力が及ぶというべきである。
もっとも、取引安全の要請もあるから、第三者が当該物を即時取得(192条)した場合には、第三者に対し抵当権の効力を対抗できなくなると解するべきである。
2. Eは乙を買い受けた当時、乙が甲建物から運び出されたこと、そして甲建物に抵当権が設定されていることを知っていた。そのため、乙の搬出について抵当権者が同意しているかを調査確認する義務があったといえる。したがって、少なくとも「過失がない」とは言えない。よって、即時取得は認められない。
3. したがって、搬出後の乙にも抵当権が及んでいるため、Aの請求は認められる。
第2問
設問1
1. Bは、甲土地の所有権(民法(以下、略)206条)を有していない。そこで、本件契約は他人物売買(560条)として債権的に有効であるところ、所有者たるAの追認によりいかなる効果が生ずるか。
⑴ 上記追認は、他人物売買に対するものであるため、116条を直接適用することはできない。もっとも、無権代理行為と他人物売買行為とは、権限を有しない者による処分行為である点で共通する。そこで、両者を別異に取り扱う必要はなく、他人物売買に対する追認に対しては、同条が類推適用されると解する。
⑵ また、追認とは、無権限で行われた行為を行為時に遡って、権限を以て行われたものとして扱う旨の法的効果を有する。そして、上記の通り、他人物売買は債権的に有効である一方で、無権限者による処分行為であることから、物権的に無効となるにすぎない。そこで、他人物売買に対する追認によって影響を受けるのは、物権的効力にとどまると解する。
2. したがって、甲土地の売主としての売買代金債権はB、売買代金債務はCに帰属する。他方で、追認によって、甲土地の所有権はAからCに移転する。
設問2
1. Cは、Bに対して、本件契約の解除(542条1項1号)に基づく原状回復義務の履行を求める(545条1項本文)。
Cは、本件契約に基づいて、600万円をBに支払っている。そのため、Bは支払いを受けた600万円を返還する義務を負う。
よって、Cは、Bに対して、本件契約の代金たる600万円の返還を請求することができる。
2. Cは、Bに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項本文)をすることが考えられる。
⑴ 上記の通り、BのCに対する「債務の履行が不能」(同項)である。
⑵ 「損害」(同項)とは、債務不履行がなければ債権者が有していた財産状態と、現実の財産状態との差額をいう。そして、Bの上記債務が履行されていれば、Cは、Dに対して1000万円で買い受けた甲建物を1200万円で売却(555条)することが可能であった。そこで、当該売買が実現していればCが有していたであろう財産たる200万円は「債務の履行が不能…によって生じた損害」(同項)に含まれるか。
ア 文言より、416条1項は相当因果関係の原則について規定し、同条2項はその判断基底となる事実について規定していると解する。
イ Bの上記債務は、Aによる返還請求時に履行不能に陥っているところ、同時点において、BがCD間売買契約の締結される予定があることを知っていたとの事情はない。もっとも、Cは不動産業者であるところ、不動産会社は買い受けた不動産を第三者に売却することにより、利益を獲得する業者である。この様な性質に鑑みれば、甲土地が本件契約の買取額よりも高額な代金で第三者に売却されることは、容易に予想することができる。そこで、CD間売買契約という事情は、「通常生ずべき損害」(416条1項)といえる。
そして、同売買契約の存在を判断基底に組み込めば、同売買契約によって得られた利益たる200万円は、「債務の履行が不能…によって生じた損害」といえる。
⑶ よって、上記請求は200万円の限度で認められる。
3. Bは、Cに対して、本件契約の解除に基づく原状回復としての甲土地返還請求をすることが考えられる。
⑴ 上記の通り、本件契約の解除は認められる(②充足)。
⑵ Bは、甲土地の所有権を有しておらず、甲土地について無権利者であった。そして、無権利者からの権利移転を観念することはできないため、本件契約に基づき、甲土地の所有権がBからCに移転したとはいえない。そこで、本件契約に基づく財産の移転は認められない(①不充足)。
⑶ したがって、上記請求は認められない。
以上