4/12/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2025年 商法
第1問
1. ①の時点
(1)令和6年10月15日の時点では、本件発行の期日たる同月31日は到来していない。そこで、乙社は、本件発行の差し止め(会社法(以下、法令名略)210条)を請求することが考えられる。
まず、乙社は、甲社の発行済み株式の35.5%を保有する「株主」である(同条柱書)。また、本件発行がなされると、乙社の持ち株比率が低下するため、「株主が不利益を受けるおそれがある」といえる。
(2)では、同条1号2号該当性が認められるか。
ア 法令違反(210条1号)について
乙社は、本件発行が「特に有利な金額」(199条3項)での発行に当たり、株主総会特別決議(199条2項、3項、309条2項5号、201条1項)が必要であるにもかかわらず、取締役会においてのみで決議されている点に法令違反がある主張することが考えられる。
(ア)「特に有利な金額」とは、公正価格と比較して特に低い金額を指すと考える。
(イ)甲社の株価は、ここ数年で500円前後で推移しており、公正価格は500円前後と考えられるのに対し、本件発行における募集株式の払込金額は1株あたり200円と半額以下であり、公正価格と比較して特に低い金額と評価できる。よって、本件発行は、「特に有利な金額」での発行といえる。
(ウ)それにもかかわらず、取締役会においてのみで決議されており、法令違反が認められる。
イ 不公正発行(210条2号)について
本件では、ここ数年、甲社と乙社が経営方針を巡って対立する状況が続いていたところ、令和6年9月、乙社が甲社経営陣を取締役から解任することを提案する通告をしたことを契機として本件発行がされたことが想定される。では、このような本件発行が、「著しく不公正」な発行といえないか。
(ア)募集株式の発行は資金調達のために行われるものである。
そこで、資金調達の目的を超えて、現経営者の経営支配権の維持・確保することを主要な目的として新株発行が行われた場合には、原則として、「著しく不公正」な発行に当たると解すべきである。
しかし、取締役には会社と会社の所有者たる株主に損害を与えないようにする義務があるため、株主全体の利益の保護という観点から、新株発行を正当化する特段の事情がある場合には、例外的に「著しく不公正」な発行に当たらないと考える。
(イ)本件発行は、上記状況のもと行われており、現経営陣の経営支配権の維持を主要な目的として行われ、またそれを正当化する特段の事情はないことから、「著しく不公正」な発行に当たる。
(3)以上より、本件発行には、差止事由が認められ、乙社の主張は認められる。
2. ②の時点
(1)令和6年11月15日の時点では、本件発行の期日たる同年10月31日は到来している。そこで、乙社は、新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起することが考えられる。
まず、乙社は、前述のとおり甲社の「株主」(828条2項2号)に当たり、また、②時点では、本件発行の効力が生じた日から6箇月以内である。そのため、新株発行無効の訴えを適法に提起することができる。
(2)もっとも、同訴えにおける無効原因は法定されていない。そこで、募集株式の発行における無効原因をどのように考えるべきかが問題となる。
ア 募集株式の発行は利害関係人が多数発生するから、その効力については法的安定性を重視すべきである。また、取引的行為の色彩が強いから、取引の安全を可及的に保護すべきである。
そこで、無効原因は重大な瑕疵がある場合に限定されると考える。
イ(ア)まず、本件発行は、前述のとおり、株主総会決議を経ない有利発行という、瑕疵が認められるが、重大な瑕疵といえるか。
(イ)この点、新株発行は、たしかに株式会社の組織に関するものとはいえ、授権資本制度の下、会社の業務執行に準じて行われるものだから、取引の安全を図るべきである。
したがって、本来必要な株主総会特別決議を書くことは、重大な瑕疵とはいえない。
よってかかる瑕疵は、無効原因にならない。
ウ(ア)次に、本件発行は、前述のとおり、「著しく不公正」な発行という瑕疵が認められるが、重大な瑕疵といえるか。
(イ)この点、上述の通り、新株発行は、たしかに株式会社の組織に関するものとはいえ、授権資本制度の下、会社の業務執行に準じて行われるものだから、取引の安全を図るべきである。
よって、不公正発行は重大な瑕疵に当たらないと考える。
ウ よって、本件発行には、重大な瑕疵がない。
(3)以上より、本件発行には、無効原因が認められず、乙社の主張は認められない。
第2問
略式合併では、特別支配株主の意向に沿って合併対価が定められる結果、少数株主に不利な合併対価が定められる可能性が高い。他方、通常の吸収合併では、一般に、互いに独立した当事会社の取締役が各会社の立場で合併対価について交渉し、かつ、利害関係のない株主によって合併対価が承認されることから、合併対価が不当であることを理由として合併に反対する株主に、合併の差し止めという手段を認めることが適当ではないと考えられるからである。
以上