10/2/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
中央大学法科大学院2021年 民法
設問1
1. 法的根拠
AはBに対し、甲の売買契約を基礎事情の錯誤に基づく取消し(95条1項2号)をし、原状回復請求(121条の2第1項)によって8万円の返還請求をすることが想定できる。
2. 請求の認否
動機の錯誤取消しの要件は、①「表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤」、②①の錯誤が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである」、③「その事情が法律行為の基礎がとされていることが表示されていた」(95条2項)である。
⑴ 本問では、Aはマウンテンバイクのレースに出る練習として、手頃な価格のレース用マウンテンバイクを購入するという動機に基づき、甲を購入したいという効果意思が生じた者である。しかし、甲はマウンテンバイクによるオフロードのレースには適していないものであった。そのため、表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤がある(①充足)。
⑵ マウンテンバイクは様々な種類があり、予定している使用用途に適したものを購入する必要がある。そのため、オフロードのレースには適さないという点について錯誤がなければAは甲を購入しなかったし、甲と同じ立場の通常人を基準としても甲を購入しなかったであろうといえる。よって、上記の錯誤は、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要である(②充足)。
⑶ ここで、Bとしては、要件③該当性につき、の事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとは言えないとの反論をすることが想定される。
ア これについて、「表示」の意味が問題となる。95条2項が「表示」を求めた趣旨は、基礎事情の錯誤の場合、表意者の動機を正確に把握することは困難であることに鑑み、「表示」によって取引上の安全を図る点にある。よって、「その事情が法律行為の基礎がとされていることが表示されていた」と言えるためには、その事情が単に表示されていただけでなく、法律行為の内容となっていることまで要求するべきである。
イ 本問では、甲の売買契約締結時、Aはレースに出る予定自体は告げているが、「とりあえず乗り慣れる」ためのマウンテンバイクを要求していた。よって、目的物がレース用のマウンテンバイクであることまでは法律行為の内容となっておらず、かかる要件を満たさない(③不充足)。
ウ よって、Bの反論は妥当であり、Aの錯誤取消しは認められない。
⑷ したがって、Aの請求は認められない。
設問2
1. 法的根拠
AはBに対し、契約不適合責任に基づく追完請求(562条1項)として、「代替物の引渡し」を請求するものと解する。
2. 請求の認否
⑴ かかる請求の要件は、①目的物の引き渡し②種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないことである。
⑵ 本問において、乙は売買契約に基づき、6月7日に引き渡されている(①充足)。
そして、乙は山道を走るレース用のマウンテンバイクである。よって、地面からの衝撃を吸収するサスペンションは、目的物乙の本来有する性能である。従って、乙のサスペンションに異常があることは、その「品質」に関して契約の内容に適合しない(②充足)。
なお、この契約不適合は買主Aの「責めに帰すべき事由によるもの」(562条2項)ではない。したがって、Aは追完請求自体は可能である。
⑶ ここで、Bとしては、「買主に不相当な負担を課するものでない」として、「目的物の修補」という「異なる方法による履行の追完」(562条1項但書)をすると反論する。かかる規定の趣旨は、買主の不相当の負担を課さない限りにおいて、買主の要求する方法以外の方法での追完を認めることで、柔軟な追完の実現を図る点にある。
本問では、乙の売買契約の内容は、近いうちに出場するレース及び、レースの練習に使用できるマウンテンバイクの売買契約であると解することができる。そして、「目的物の修補」による追完では、かかる契約内容は果たせず、買主Aに「不相当な負担を課する」と言える。よって、Bの反論は認められない。
⑷ 以上により、Aの請求は認められる。
設問3
1. 法的根拠
AはBに対し、契約不適合責任に基づく代金減額請求(563条1項,同条2項2号)として、丙の代金を10万円に減額する旨の請求をするものと考えられる。
2. 請求の認否
⑴ かかる請求の要件は、①目的物の引き渡し②種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないこと③売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき である。
⑵ 本問では、丙は売買契約に基づき、6月14日に引き渡されている(①充足)。そして、マウンテンバイクの基礎的機能として、ペダルが問題なく回ることを備えている必要があるが、丙は車軸がずれ、ペダルが正常には回らない。そのため、その品質に関して、契約の内容に適合しない(②充足)。また、Bは「うちでは修理できない。」と明確に表示しているため、履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したと言える(③充足)。
⑶ ここで、Bとしては、契約不適合が買主Aの「責めに帰すべき事由によるもの」であるから、かかる請求は認められないと反論する。
本問では、丙の車軸のずれはAが丙を電柱にぶつけたことによって生じている。よって、買主Aの「責めに帰すべき事由によるもの」である。以上により、Bの反論は妥当である。
⑷ よって、Aの請求は認められない。
以上