2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2023年 憲法
第1問
1. 警察署長によるCに対する集会不許可処分は、Cが看板を撤去する行政代執行について抗議集会を開催(以下、本件集会とする。)することを制限している。
⑴ 本件集会を開催することが憲法上保障されている場合には、上記制限は憲法上の制約にあたる。
ア 憲法(以下、略)21条1項は、集会場所を提供することを請求できる権利までも保障したものではない。他方で、集会は多数の者が集合する性質を有するため、道路や公園等の集会を行うに適した公共施設等であって、公に開かれた場所は、国民が集会を行う場としての性質を有する。そこで、同項は、国民が表現活動のために当該施設を利用することまでも保障したものと解する。
イ 道路は、集会に適した公共物であって、伝統的に国民が集会を行い得る場として公に開かれた場所としての性質を有する(伝統的パブリックフォーラム)。
ウ したがって、上記集会を開催することは、同項により憲法上保障され、上記制限は憲法上の制約といえる。
⑵ 集会の自由は、「公共の福祉」(13条)による制約に服する。そこで、「交通の妨害となるおそれ」(法77条2項各号)とは、「公共の福祉」に基づいて制約されるべき道路の利用態様を意味するところ、本件集会はこれにあたるか。
ア まず、集会は、国民が様々な意見や情報等に接することにより自己の思想や人格を形成、発展させ、また、相互に意見や情報等を伝達、交流する場として必要であり、さらに対外的に意見を表明するための有効な手段である(自己実現の価値)。加えて、集会は、国民が集会を通して国の意思決定に関与し得るという民主制に資するものである(自己統治の価値)。そのため、集会の自由は、民主主義を支える重要な自由といえる。
次に、表現の内容自体から害悪が生じる危険性は考え難く、表現内容自体に着目して為された規制(内容規制)については、その正当化の判断を慎重に行うべきである。そして、同項4号が「一般交通に著しい影響を及ぼす」態様で道路を使用する場合に、例外的に不許可処分とする旨を定めていること、同法が「交通の安全と円滑を図」ること(同法1条)を目的として掲げていることから、上記規制の目的は、交通の安全と円滑を維持する点にあるといえ、表現行為から生じる害悪に着目して為された規制といえる(内容中立規制)。そのため、上記規制態様は、緩やかなものとも評価し得る。しかし、上記制限は、「許可」(法77条1項柱書)制を採用しているところ、許可制は、表現が自由市場に出る前に抑止してその内容が国民に到達する途を閉ざし又はその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させるものである。また、その性質上、予測に基づくものとならざるを得ないこと等から事後規制の場合よりも広範にわたり易く、濫用のおそれがある上、実際上の抑制的効果が事後規制の場合よりも大きい。そこで、上記規制の態様は、非常に強いといえる。
さらに、法77条2項は、「各号のいずれかに該当するときは、…許可をしなければならない」と定め、同項各号の条件は比較的緩やかに道路での集会行為を容認する内容といえる。また、同条3項は、「必要があると認めるときは、…条件を付することができる」と定め、許可を柔軟に与えることを可能にしている。このような規定に鑑みれば、同条1項は、原則的には許可を与えるよう定められていると評価し得る。加えて、道路が伝統的に集会の場として利用される性質を有する事情をも考慮すれば、上記不許可に際する行政庁の裁量は狭いと評価できる。
以上の事情に鑑みれば、集会との関係における「交通の妨害となるおそれ」とは、集会を行うことによって、明らかに差し迫った人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険の発生が具体的に予見される場合における集会に限定されると解する。
イ 確かに、本件集会を行えば、少なくとも集会の場である道路の通行に支障を来たすこととなる。しかし、本件集会の許可に際して、その態様や規模につき条件を付する(同条2項)ことで、上記支障を最小限度に抑えることは可能である。また、確かに、本件集会の開催場所は、行政代執行の現場に接近しているため、当該執行が妨害され、その際に通行人や周辺住民等の生命、身体又は財産への侵害が生じるとも思える。しかし、当該危険の発生は、集会に際して、警察官を派遣する等の簡易な手段によって防止することが可能である。加えて、そもそも、開催者であるCは、集会を平和的に行うつもりであり、また、具体的に当該行政代執行が妨害するとの計画が策定されていたとの事情や妨害を目的とした準備行為が為されているとの事情もない。以上の事情に鑑みれば、本件集会を行うことによって、明らかに差し迫った人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険の発生が具体的に予見されるとは評価し得ない。
ウ したがって、本件集会は、「交通の妨害となるおそれ」のある集会にあたらず、不許可処分の対象となるべき道路の利用態様にあたらない。
⑵ よって、上記不許可処分は、法77条1項及び同条2項の解釈適用を誤ったものであって、違法な処分である。
2. Dに対した為された法119条2項7号に基づく処罰は、Dが行政代執行に対して抗議演説(以下、本件演説とする)をすることを規制している。
⑴ 本件演説が憲法上保障されれば、上記規制は憲法上の制約にあたる。
ア 「表現」(21条1項)とは、自己の思想を外部に伝達する行為をいう。また、上記の通り、道路で表現活動を行うことは、同項により保障される。
イ 本件演説は、Dが上記行政代執行に反対するという思想を外部に伝達する行為であるため、「表現」にあたる。
ウ したがって、本件演説は同項により憲法上保障されるため、上記規制は憲法上の制約といえる。
⑵ 表現の自由は「公共の福祉」による制約に服する。そこで、B県公安委員会の定める道路交通法施行細則(以下、本件細則とする。)の定める「集会」及び「演説」は、「公共の福祉」による制約として正当化されるべきものに限定されるところ、本件集会は、これにあたるか。
ア まず、表現活動は、一般的に、集会行為と同様の理由により自己実現の価値及び自己統治の価値を有し、民主主義を支える重要な行為である。
次に、1⑵アと同様の理由により、本件細則による規制態様は強く、また、行政庁の裁量は狭いと評価できる。
以上の事情に鑑みれば、「集会」及び「演説」とは、集会又は演説を行うことによって、明らかに差し迫った人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険の発生が具体的に予見される場合における集会又は演説に限定されると解する。
イ 本件演説は、立て看板付近の歩道で拡声器を用いる態様で行われているところ、このような態様で、かつ、立て看板を撤去する行政代執行に反対する学生団体のあるA大学前において演説を行えば、代執行に反対する者が多数集まることは、容易に予測することができる。そして、その態様や規模について条件を付さず、加えて警備を配置することもせずにこのような演説を行えば、車道にまで人が溢れ、一時的に車両の通行が不可能となることも容易に予測することができ、ひいては、演説の場にいた集団が一瞬にして暴徒と化し、道路の通行人や周辺住民等が演説に巻き込まれ、生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険の発生が具体的に予見されるものと認められる。
ウ 以上の事情に鑑みれば、本件演説は、「集会」又は「演説」にあたる。
⑶ よって、上記処罰は、本件細則の解釈適用を誤ったものとはいえず、適法である。
第2問
1. 本件訴えは、「法律上の争訟」(憲法(以下、略)76条、裁判所法3条1項)にあたり、裁判所の審査権が及ぶか。
⑴ 「法律上の争訟」とは、①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、②それが法令を適用することにより終極的に解決することができるものをいうと解する。
ア まず、本件訴えは、本件処分が違憲・違法であるとして、その取消しを求めるものである。そして、本件処分は、20日間の登院停止を内容とすることから、当事者間の具体的な法律関係の存否に関する紛争といえる(①充足)。
次に、普通地方公共団体の議会は、地方自治法並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができ(地方自治法134条1項)、懲罰の種類及び手続は法定されている(同法135条)。これらの規定等に照らすと、出席停止の懲罰を科された議員がその取消しを求める訴えは、法令の規定に基づく処分の取消しを求めるものであって、その性質上、法令の適用によって終局的に解決し得るものというべきである(②充足)。
イ したがって、本件訴えは「法律上の争訟」にあたる。
⑵ 本件訴えが「法律上の争訟」にあたるとしても、司法権に対する外在的制約により、裁判所の審査権が及ばないといえないか。
ア 法律上の争訟については、国民に裁判を受ける権利が保障されている(32条)こと及び裁判を行う義務が司法権に課せられていること(76条1項)から、本来、司法権を行使しないことは許されないはずであり、司法権に対する外在的制約があるとして司法審査の対象外とするのは、かかる例外を正当化する憲法上の根拠がある場合に厳格に限定されるべきである。
イ 地方議会議員は、憲法上の住民自治の原則を具現化するため、議会が行う上記の各事項等について、議事に参与し、議決に加わるなどして、住民の代表としてその意思を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負うものである(93条2項、地方自治法11条、17条、18条、96条、98条、100条、112条、116条)。出席停止の懲罰は、上記の責務を負う公選の議員に対し、議会がその権能において科する処分であり、これが科されると、当該議員はその期間、会議及び委員会への出席が停止され、議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと、これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして、その適否が専ら議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない。そこで、地方議会議員に対する出席停止処分に関する紛争について、司法権に対する外在的制約を認めるべきとはいえない。
他方で、国会については、国権の最高機関(41条)としての自律性を憲法が尊重していることは明確であり、憲法自身が議員の資格争訟の裁判権を議院に付与し(55条)、議員が議院で行った演説、討論又は表決についての院外での免責規定を設けている(51条)。このような事情に鑑みれば、国会議員に対する登院停止処分に関する紛争については、国会の自律権を尊重し、司法権に対する外在的制約を認めるべきである。
ウ したがって、本件訴えに対しては、司法権に対する外在的制約によって、裁判権が及ばない。
2. よって、本件訴えは許されない。
以上