10/21/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2021年 憲法
1. T市の職員であるYは、本件公園が本件許可条件に反して使用されたことの証拠を残すため、本件撮影を行った。本件撮影により撮影された動画には、Xが多くの聴衆に囲まれ、拡声器を用いて大声で演説する様子が記録されており、Xの容ぼう・姿態を特定できる映像が含まれている。本件撮影は、Xのみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を侵害し、違憲ではないか。
2.
⑴ 個人の人格的生存に不可欠な利益が、憲法13条後段の「幸福追求(略)権」として、保障される。そして、私生活をみだりに公開されない法的保障ないし権利は、個人の人格的生存に不可欠な利益として、同条により保障される(「宴のあと」事件)。
さらに、国家により個人情報の収集、保有、利用されている現代社会においては、情報の公開だけでなく、それ以前の収集、保有、利用自体が脅威であるから、それぞれの段階で自己に関する情報をコントロールすることも個人の人格的生存に不可欠な利益として、憲法上保障されるべきである。京都府学連事件でも、人の承諾なしにみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由が憲法13条により保障されることを認めている。
したがって、国家によりみだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由は、憲法13条より保障される。
⑵ 本件撮影は、Xの意向を事前に確認することなく、Xの容貌・姿態を特定できる映像を撮影したものである。
⑶ したがって、本件撮影は、Xのみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を制約するものと認められる。
3. もっとも、上記自由も無制限に保障されているものではないため、「公共の福祉」(憲法12条後段、13条後段)に適合する制約は憲法13条後段に違反しない。本件撮影は、「公共の福祉」に適合制約として正当化されるか。
⑴ 公共の福祉による制約として許容されるかは、制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容・性質、これに加えられる具体的制限の態様・程度等を較量して判断する。
⑵ 本件撮影は公園という公の場で行われている。たしかに、公の場では、容ぼう、姿態は他者からも見えるため、プライバシーの要保護性は低いとも思える。しかし、本件集会はT市のリゾート誘致計画に反対する集会であり、Xの演説も録画されている。そのため、撮影された動画から、Xの思想、信条や政治的意見といった要保護性の高いプライバシー固有情報を推知することができる。よって、要保護性が低いとは言えない。
他方、T市市長は、本件条例に基づき、Xが代表を務める市民団体に本件公園の使用許可を与えるにあたって、本件許可条件を付しているところ、Yは本件公園が本件許可条件に反して使用されたことの証拠を残す目的で本件撮影を行ったものである。このような目的自体は正当といえるものの、上記権利の要保護性に鑑み、本件撮影には具体的な必要性及び相当性が認められる必要であると解すべきである。
⑶ そこで、現に違反行為が行われ、又は行われたのち間がないと認められる場合であって、証拠保全の必要性・緊急性があり、その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるときには、当該撮影は「公共の福祉」に基づく制約として正当化されると解する。
4.
⑴ 本件撮影当時、本件集会は100名近くの参加者を集めて行われており、参加人数を50名以内に留めるという②の許可条件に現に違反していた。また、拡声器を用いた演説も行われ、平穏が害されており、拡声等の使用を控え静穏の保持に努めることという①の許可条件にも現に違反していた。
本件条例によると、許可条件に違反した場合には以後1年間、本件公園の使用許可が与えられない。そうすると、今後、Xに対して本件許可条件に違反したことを理由とする本件公園の使用不許可処分を行うことが考えられ、同処分にあたって、Xが本件許可条件に違反した証拠を保全する必要があったといえる。
確かに、本件撮影は動画を撮影したものであり、静止画を撮影した場合に比して権利制約の程度は大きいものといえる。しかし、本件撮影は手持ちのスマートフォンで約2分間にわたって行われたものであり、短時間でかつ撮影の方法も簡易的であるといえる。そうすると、本件撮影は、上記必要性に照らすと、なお一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われたものといえる。
⑵ したがって、本件撮影は「公共の福祉」に適合する制約として正当化される。
5. よって、本件撮影は、憲法13条後段に反せず、合憲である。
以上