広告画像
2021年 憲法 慶應義塾大学法科大学院【ロー入試参考答案】
後で読むアイコンブックマーク

2021年 憲法 慶應義塾大学法科大学院【ロー入試参考答案】

11/20/2023

The Law School Times【ロー入試参考答案】

慶應義塾大学法科大学院2021年 憲法

第1 設問

1. Xは、休業自体は仕方ないと考えているが、補償がないことに疑問を持っている。そこで、損失補償を受けることはできるか検討する。

2. 29条1項は個々の財産権のみならず、人間としての価値ある生活を営む上に必要な物的手段の享有、すなわち所有権の核心的機能たる使用・収益・処分権をも保障する(私有財産制)。よって、Xは、その所有する高級ナイトクラブを以て収益をする権利をも保障されている。

3. しかし、Xは休業要請に従うことでかかる権利行使が不可能になっている。たしかに、休業要請に従わなくても罰則はないが、これに従わないと休業指示(法45条3項)の後に公表(同4項)がなされる。公表がなされると一般市民からの信用を失い、客足が遠のき事業の継続が困難になる恐れがある。かかる不利益を勘案すると、Xとしては事実上休業せざるを得ない状況に置かれているため、財産権の制約があると言える。

4. では、Xは損失補償ができるか。

 ⑴ 財産権の保障は絶対無制約ではなく、公共の福祉に適合する限り制約を受ける(29条2項)。かかる制約は、財産権に内在する制約のほか、立法府が社会全体の利益を図るために加える規制による制約をも含み、かかる規制は財産権の種類、性質等が多種多様であり、また、財産権に対し規制を要求する社会的理由ないし目的も種々様々である。よって、財産権の制約が29条2項の公共の福祉に適合するとして是認されるかは、規制の目的、必要性、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較衡量して決すべきである。

 ⑵ 本問規制は、新型インフルエンザ蔓延による国民一般の健康が害されることを防止する消極目的のもと行われる。(45条3項)しかし、かかる規制により生ずる学校、社会福祉施設、興行場の使用の制限による社会経済上の停滞と、規制をせずウイルスが蔓延することによる停滞のバランスは政策上極めて重要な専門的判断を立法府に委ねるべきであること、規制により保護すべき利益に国民の生命身体権という、一度侵されれば回復が困難となる性質を有する利益が含まれていることからすれば、一時的な休業か公表を選択的に受ける財産権の制約は不合理とまでは言えない。

よって、Xは国賠法上の損害賠償請求による救済を受けることはできない。

5. では、上記財産権の制約について、国家に損失補償を請求できるか。

 ⑴ 「公共のために」とは、収容目的が広く公共のために行われるものであれば足り、「用ひる」とは、所有権の剥奪及び私有財産の利用の制限をも意味する。
  本問制約は、既述の通り国民一般の健康及び、社会経済上生ずる混乱防止を目的とするため、「公共のために」と言える。そして、Xは既述の通り私有財産の使用に制限を受けているから「用ひる」に該当する。

 ⑵ 29条3項が「正当な補償」を要する趣旨は、財産権保障の帰結としての財産価値の維持を図ること及び平等原理の実現である。したがって、かかる制約が「特別の犠牲」であることを要する。「特別の犠牲」該当性は、侵害行為の個別性、侵害の強度、規制の目的を考慮して判断する。
   本問では、Xの高級ナイトクラブ休業は、法施行令11条各号が学校、劇場、集会場、展示場、百貨店、マーケット等広く国民が密集しうる場所をその対象として定めていることからすると、特定のものに向けた規制であるとは言えない(形式的要素)。
   さらに、本件の規制は国民の生命健康への被害を防止するという消極的目的のもと発せられている。消極目的に基づく財産権制約は、社会に害悪を及ぼすリスクのある財産権の行使を防止するという側面から、内在的制約にとどまるとも思える。
   しかし、Xは相当の期間同クラブを営業できないため、その損失の程度は大きく、侵害は強度といえる。そして、いつ休業停止要請が解除されるかが一般人からわからないことからすれば、損失の防止もいかような手段をどの程度取れば良いのか不明な点で困難である。また、営業が継続できなくなることにより、顧客の足が遠のき、仮に再開できたとても従前の営業利益が大きく損なわれるおそれがある。よって、規制の一般性を加味しても受忍すべき限度を超えるため、「特別の犠牲」該当性が肯定される。

 ⑶ したがって、Xは29条3項により損失補償を請求できる。

6. では、損失補償の規定を設けていない法は違憲となるか。
29条3項の趣旨は権利を制約された国民を救済する点にある。そのため、同項を直接の根拠として損失補償を請求できる。
したがって、損失補償を設けていないことを理由に違憲とはならない。

以上

おすすめ記事

ページタイトル
ロースクール

【最新版】ロースクール入試ハンドブック公開!全34校の説明会/出願/試験日程・入試科目・過去問リンクが一冊に!【2026年度入学者向け】

#ロースクール
ページタイトル
キャリア

法律事務所EXPO powered byカケコム 開催決定!

#ロースクール
ページタイトル
キャリアインタビュー

伝統と変革。テクノロジーと協働し、顧客の感情と向き合う弁護士を育てる。Authense法律事務所代表・元榮太一郎弁護士インタビュー【PR】