6/17/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2025年 民法
第1問
1. XはYに対し、所有権(206条)に基づく返還請求として、αの返還を請求すると考えられる。かかる請求は認められるか。
2. まず、Xの請求が認められるためには、Xにαの所有権が残存していることを要する。
契約③では、代金の支払いまでαの所有権をXに留保することとしており、代金は支払われていないから、αの所有権はXのもとに残っている。そして、所有権留保契約に基づく所有権の留保については、譲渡担保と異なり、はじめから債権者に所有権があるから物権変動がないから、それを第三者に対抗するためには対抗要件は不要であると解される。
よって、Xは、αの所有権をYに対抗できる。
3. そこで、YはAからαについて譲渡担保を受けたことで即時取得(192条)したと主張することが考えられる。
ここで、即時取得制度は、占有という動産に関する権利の外形を信頼し、所有者の支配領域を離れて流通するに至った動産に対して、支配を確立した者を特に保護するものである。そこで、「占有を始めた」とは、一般外観上、従来の占有状態に変更を生ずるような占有を取得することを要すると解する。占有改定は占有の外観に一切変化がないから、従来の占有に変更を生ずるような占有取得にはあたらず、「占有を始めた」に含まれない。
よって、Yによる即時取得は認められない。
5. もっとも、Bの即時取得(192条)により、Xは所有権を喪失しうる。
αについてはBが買い受けて現実の引渡しを受けているから、「取引行為」に基づいて、「占有を始めた」と言える。
平穏、公然、善意は、186条1項により推定される。また、188条により占有者が占有物について行使する権利は適法に有するものと推定されることから、無過失も推定される。
そのため、かかる推定が崩れない限り即時取得が成立し、これによりXは所有権を喪失する。そのため、かかる場合にはYに対して返還請求をすることができない。
6. 以上より、Xの請求は、Bが、Yがαの権利者であると信頼し、かつそのことに過失がなかった場合には認められない。
第2問
1. AはBに対して、契約不適合を理由として代金減額請求(559条、563条)をすることで、工事代金の残額の減額部分の支払を拒むことが考えられる。
⑴AB間では、甲の建築を内容とする請負契約(632条)が締結されており、Bは同契約に基づき、甲を引渡している。もっとも、乙が一部破損しているため、これが「目的物」の「品質」に関する契約不適合にあたるか問題となる。
⑵「契約の内容に適合」するかは、契約当事者が特に合意した内容及び取引上の社会通念に照らして判断する。AB間の契約では、出力5KWの太陽光設備を組み込んだ甲の建築が契約内容となっている。一方で、引渡された甲は、乙の一部が損壊している。そうすると、「品質・・に関して契約の内容に適合しない」といえる。
⑶もっとも、AはBへの追完の催告を行っていないから、代金減額請求は認められない。
2. AはBに対して、債務不履行を理由として修補に要する費用相当額の損害の賠償請求(559条、564条、415条2項)をする。
⑴Bが、一部損壊した乙を引渡したことは、仕事完成債務の不完全履行という意味で「債務の本旨に従った履行をしない」(同条1項本文)にあたる。
Aは他の業者に修理を依頼するために80万円の費用がかかっているから、「損害」と因果関係(「によって」)が認められる。
引渡しは7月31日で、落雷によって乙が損壊したのは7月29日である。7月25日に甲は完成されていたが、建築物を引渡す際には請負人が引渡し当日まで管理する義務を負っている。よって、引渡前に乙が損壊するリスクはBの側で追っていたといえ、、債務不履行は「債務者の責めに帰することができない事由」(同条1項但書)によるものとはいえない。
したがって、AのBに対する損害賠償請求権は認められる。
⑵Aは、報酬支払請求権は損害賠償請求権と同時履行であるとして、工事代金の残額1500万円全額の支払いを拒むと主張する。
損害賠償請求権と報酬支払請求権は同時履行の関係にあるとされる(533条かっこ書)が、全額対全額が同時履行の関係に立つのかについては、条文上明らかではない。
ここで、追完請求に変わる損害賠償請求権はそれ自体可分であっても、その内容はまさに目的物の修補であり不可分といえる。そのため、同時履行の範囲は原則として全額に及ぶ。ただし、交渉態度・瑕疵の内容・修補に要する費用などの事情を考慮して、全額につき同時履行の主張をすることが信義則(1条2項)に反するときは、対等額の限度で同時履行の関係に立つと考える。
本問では、全額につき同時履行の主張をすることが信義則に反するというような事情がないから、Aは全額について同時履行を主張することができる。
3. 次に、報酬支払請求権と損害賠償請求権を相殺するとして、工事代金の残額1500万円全額の支払を拒むと主張する。
損害賠償請求権と報酬支払請求権は同時履行の関係にある。そうすると、自働債権に抗弁権が付着しているものとして、相殺は許されないのではないかとも思われる。
確かに、原則として自働債権に抗弁権が付着しているときは相殺することができない(505条1項ただし書)。しかし、例外的に、自働債権と受働債権が互いに同時履行の関係にある金銭債権の時には、同じ原因に基づく金銭債権であるから現実に履行する必要はないし、両債権の相殺は実質的に代金減額請求の意味を有し、相殺を認めた方が清算方法として合理的なので、相殺が許されると解する。
損害賠償請求権と報酬支払請求権は、上記の通り互いに同時履行の関係にあるので、相殺できる。
よって、Aは工事代金の残額1500万円と損害賠償請求の80万円の対等額を相殺することができるから、80万円の限度で支払を拒む。
4. AはBに対して、契約不適合を理由として契約の解除(559条、564条、541条)をし、支払いを拒むことが考えられる。
しかし、AはBに乙の修理を求めたならば、Bが修理に応じることは確実であったから、541条、542条の要件に該当せず、解除は認められない。
以上