2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
広島大学法科大学院2023年 憲法
広島ロー 2023年度 刑法
設問(1)
1. 刑法(以下略)37条1項にいう「やむを得ずにした行為」は、避難行為が現在の危難を避けるための唯一の行為であり、他にとるべき方法がなかったといえる必要がある。これに対して、正当防衛(36条1項)における「やむを得ずにした行為」は、反撃行為自体が防衛手段としての相当性を満たしていれば足りる。
2. 緊急避難と正当防衛の「やむを得ずにした行為」といえるための要件は、緊急避難の方が厳格であると言える。これは、正当防衛は防衛者とその相手方とは「正対不正」の関係にあるから、必ずしも防衛行為が唯一の侵害を回避する方法であることが要求されないことに対して、緊急避難は防衛者とその相手方とは「正対正」の関係にあるから、第三者の正当な法益の上に成り立つものであることから、避難行為が唯一の侵害を回避する方法であることが要求されるためである。
設問(2)
1. Xは、Bが死亡するかもしれないと認識しつつ、覚醒剤を注射しているが、かかる行為には殺人未遂罪(203条、199条)が成立しないか。
⑴ 実行行為は、犯罪構成要件の実現に至る現実的危険を含む行為を指すため、殺人罪の実行行為は死亡する現実的危険を含む行為であることである。
本件において、衰弱している人に2回分の覚醒剤を注射すれば死亡する危険性が高く、Bは注射されたときは衰弱していたため、Bに2回分の覚醒剤を注射する行為は、Bが死亡する現実的危険を含む行為であるといえ、殺人罪の実行行為にあたる。
⑵ もっとも、死亡結果は生じなかったため、未遂に止まる。
⑶ 故意とは構成要件的結果発生の認識認容をいう。Xは通常の2回分の覚醒剤を注射すればBが死亡するかもしれないと思っていることから、Bが死亡することを認識認容していたといえ、殺人罪の故意が認められる。
⑷ もっとも、XはAから拳銃を右こめかみに突きつけられ、Bに注射をすることを拒めば殺されると思って、本件注射行為に及んでいることから、緊急避難(37条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
ア 「危難」とは、法益に対する侵害又は侵害の危険のあることをいう。XはAから拳銃という殺傷能力の高い物を右こめかみに突きつけられているから、自己の生命に対する「現在の危難」が認められる。
イ 「避けるため」とは、避難の意思が認められることをいう。Xはその場から離れるためにはBに注射するしかないと決意していることから、避難の意思もある)。
ウ Xは拳銃という殺傷能力の高い武器をこめかみという枢要部に突きつけられている。深夜の暴力団事務所ということもあり、その場で助けを呼ぶことも極めて困難であったことから、Xにとって、Aの指示に従ってBに覚醒剤を注射する以外に自身が助かる方法がなかったといえる。そのため、「やむを得ずにした行為」であったといえる。
エ 「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」とは、法益の均衡を意味する。生じた害はBの生命の危険であり、避けようとした害はXの生命の危険であることから、法益は同じ生命である。よって、法益は均衡といえ、「生じた害が避けようとした害の程度を超え」ていない(④充足)。
オ したがって、Xには緊急避難が成立し、違法性が阻却される。
⑸ 以上より、Xには殺人未遂罪が成立しない。
以上