5/11/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
中央大学法科大学院2025年 民事訴訟法
設問(1)
1. 残部請求が別訴の係属しているA裁判所において請求の拡張としてされている。
したがって、本件においては「訴えの変更」(143条1項)が認められるかが問題となる。
2. ⑴請求の基礎に変更がないこと
ア 訴えの変更において「請求の基礎」の同一性が要求される趣旨は、旧請求の訴訟資料が無関係な新請求において訴訟資料とされ、被告が不測の不利益を被ることを防止することにある。
そこで、①両請求の利益関係が社会生活上共通していること、②旧請求の裁判資料が利用可能である場合には、請求の基礎の同一性が認められると解する。なお、請求の基礎の同一性は被告保護のための要件であることから、㋐訴えの変更につき被告の同意がある場合や、㋑被告の主張した事実に基づいて新たな請求をする場合には、請求の基礎の同一性は不要であると解する。
イ 本件においては、別訴と残部請求がいずれも同一の不法行為に基づく損害賠償請求であり、両請求の利益関係は社会通念上共通しているといえる。また、両請求の訴訟物は同一の不法行為に基づく損害賠償請求であるため、請求原因が重なる部分も多く、別訴の訴訟資料を残部請求にも用いることができる。
したがって、請求の基礎の同一性が認められる
⑵また、別訴の係属中であるから「口頭弁論終結に至るまで」に訴えの変更がなされるものと考えられる。
⑶さらに、上記の通り両請求の審理においては争点が重なるため、「著しく訴訟手続を遅延させ」るものであるとは言えない。
⑷また、両請求は「同種の訴訟手続きによる」(136条)ものである。
3. したがって、上記の請求の拡張は訴えの変更として適法であるから、Xの残部請求も適法である。
設問(2)
1. 本問における残部請求は、重複起訴の禁止(142条)に抵触し違法ではないか。
2. 142条は、同一の「事件」について、その「係属」中に、「さらに訴えを提起」することを禁止する。その趣旨は、既判力の矛盾抵触、被告の応訴の煩、訴訟不経済の防止である。
⑴まず、残部請求は別訴「係属」中に「さらに訴えを提起」されたものである。
⑵次に「事件」の同一性が問題となるが、これが認められるには①当事者の同一性、②審判対象の同一性が必要である。
ア ①当事者の同一性については、別訴と残部請求の当事者が共に原告X、被告Yであるから認められる。
イ ②審判対象の同一性は訴訟物が同一である場合に認められる。これは、既判力は訴訟物の存否に対する判断に生じるのが原則だからである(114条1項)。
なお、明示的一部請求と黙示的一部請求では思考過程が異なることから、以下場合分けして検討する。
(ア)別訴が一部請求であることが明示されていた場合
この場合の別訴の訴訟物は、不法行為に基づく2500万円の損害賠償請求権のうち1000万円の部分である。一方で残部請求の訴訟物は、上記損害賠償請求権のうち残り1500万円の部分である。すると、かかる場合には、訴訟物は別訴と残部請求で異なるため、審判対象の同一性が認められない。
もっとも、当事者は一部請求であっても、当該債権の全部についての発生、消滅の原因事実を主張立証するし、これに伴い、裁判所の審理も債権全体について行われるから、審理の重複は避けられない。よって、明示的一部請求の全部又は一部棄却判決確定後に原告が残部を訴訟物として訴えを提起することは、実質的には前訴で認められなかった主張を蒸し返すものであり、紛争解決に対する相手方の合理的期待に反し、二重の応訴の負担を強いるものであるから142条の趣旨に反するものとして認められない。
そしてこの理は本問においても同様に妥当するから、残部請求は142条の趣旨に反して許されない。
(イ)別訴が一部請求であることが明示されていなかった場合
この場合には、別訴の訴訟物も残部請求の訴訟物も、不法行為に基づく損害賠償請求権の全体となり、審判対象の同一性が認められるため、残部請求は142条に抵触して許されない。
3. したがって、残部請求は別訴が一部請求であることを明示しているか否かを問わず違法となる。
以上