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2022年 商法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2022年 商法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】

1/3/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

京都大学法科大学院2022年 商法

第1問

設問(1)

1. Bは、P社に対して会社法(以下、略)462条1項柱書に基づく責任を負う。

 ⑴ これをみるに、本件計算書類によれば、分配可能額は1億円であったが、適法に計算書類が作成されていれば0円であった。そのため、本件剰余金配当は、「剰余金の配当」(461条1項8号)が、「分配可能額」(同項本文、446条1項、会社計算規則149条)を超えるものであった。
   したがって、本件の剰余金配当は461条1項「の規定に違反して株式会社が…した」(462条1項柱書)ものといえる。

 ⑵ そして、令和2年5月に開催された取締役会において、取締役全員の賛成により、監査役監査を受けた本件計算書類が承認されている。
   よって、Bは、「取締役会において剰余金の配当に賛成した取締役」(462条1項柱書、会社施行規則116条15号、会社計算規則159条8号ハ)といえ、「法務省令に定めるもの」(462条1項柱書)にあたる。

 ⑶ また、Bは、上記取締役会の際に、本件計算書類が粉飾されていることに気がついていた。そのため、Bは、本件計算書類に従って剰余金の配当が決定されれば、分配可能額を超えることを予測し得たといえ、粉飾の事実を言及すべき注意義務を負っていたといえる。それにも拘らず、Bは、当該事実に言及していないことから、当該義務に違反したといえる。
   したがって、Bが、462条2項により免責される余地はない。

2. 以上より、Bは、剰余金の配当を受けた者と連帯して、1000万円の金銭をP社に支払う責任を負う(同項)。

設問(2)

1. P社「取締役」(423条1項)であり、「役員等」(429条1項)たるAは、「第三者」(429条1項)たるQ社に対し、職務懈怠に基づく損害賠償責任(429条2項柱書)を負う。

 ⑴ まず、「虚偽の記載又は記録」(同項1号)をしたとは、取締役会に出席して虚偽記載のある計算書類を承認したことでは足りず、虚偽記載のある計算書類を作成することまでも要すると解すべきである。
   これをみるに、Aは、令和元年度決算において、架空の授業料収入を計上して粉飾した本件計算書類を作成している。
   したがって、「虚偽の記載又は記録」をした「取締役」(同号柱書)にあたる。

 ⑵ 次に、「損害」(429条2項、同条1項)とは、任務懈怠がなければ請求者が有していたであろう財産状態と現実の財産状態との差額をいうと解する。
   これをみるに、Q社は、本件契約の交渉に際して、民間の信用調査会社が出版する情報誌に掲載された本件計算書類を検討材料に用いていた。
   そのため、上記粉飾が無ければ、P社の財務状態が急激に悪化していた事実及び、本件契約に係る手数料の支払いを滞るおそれが高いこと事実を知り得たといえる。そして、当該事実を知れば、通常、本件契約を締結しなかったと評価できる。
   したがって、本件契約に係る300万円の未払手数料は、職務懈怠「によって第三者に生じた損害」(同項)にあたる。

 ⑶ Aは、あえて粉飾した本件計算書類を作成している以上、「注意を怠らなかった」(同条2項柱書但書)とはいえない。

 ⑷ 以上より、Aは、Q社に対し、上記賠償責任を負う。

2. P社「取締役」であり、「役員等」であるBは、「第三者」たるQ社に対し、職務懈怠に基づく損害賠償責任(429条1項)を負う。

 ⑴ 上記の通り、Bは、上記粉飾の事実を知っていたため、本件計算書類の承認に係る取締役会において、当該事実に言及すべき注意義務を負っていたといえる(330条、民法644条)。それにも拘らず、Bは、当該事実に言及していないことから、当該義務に違反したといえる。
   したがって、職務懈怠が認められる。

 ⑵ そして、429条1項の趣旨は、取締役の職務懈怠により損害を被った第三者を救済する点にある。そのため、「悪意又は重大な過失」の対象は、第三者に対して害を与える点ではなく、職務懈怠について存すれば足りると解する。
   これをみるに、Bは、本件計算書類に係る粉飾の事実を、上記取締役会の時点で知っていた。そのため、Bは、上記職務懈怠につき「悪意」といえる。

 ⑶ また、第二1(2)の通り、Q社は、上記職務懈怠によって300万円の「損害」を被ったといえる。

 ⑷ よって、Bは、Q社に対し、上記賠償責任を負う。

第2問

設問(1)

1. EはBに対して、本件手形の支払を請求できるか。 

 ⑴ これをみるに、BはAの称号である「吉田山洋菓子店A」名義で本件手形をCに振り出している。しかし、Bはこれまでも洋菓子の原材料の仕入れ代金の支払のために「吉田山洋菓子店A」名義で約束手形を振り出すことがしばしばあり、それらの手形はBが開設した「吉田山洋菓子店A」名義の当座預金口座においてBの資金により決済されていた。そのため、本件手形についても、Bは自己に手形の効果を帰属させ自己の資金で決済する意思があったと考えられる。したがって、Bは本件手形の振出において「吉田山洋菓子店A」の名義を自己を表示する名称として用いたものと認めることができるから、本件手形の「吉田山洋菓子店A」の名義を用いた署名はB自身の署名とみるべきである。よって、Bは、本件手形の振出人として、その支払い義務を負う。

 ⑵ 以上より、EはBに対し上記請求ができる。

設問(2)

1. Eは、Aに対して、本件手形の支払いを請求できるか。

 ⑴ これをみるに、Aは自ら手形行為を行ったものではないから、本件手形について何ら責任を負わないのが原則である。もっとも、AはBに対し、自らの称号を使用することを許諾していた。そこで、Aは、名板貸人の責任(商法(以下、「法」と略す)14条)として本件手形の支払い義務を負わないかが問題となる。

 ⑵ まず、手形行為は、営業又は事業上の行為に含まれる。そのため、手形行為に同条が適用され得ると解する。

 ⑶ そして、Aは、Bに対して、Aの商号である「吉田山洋菓子店」又は「吉田山洋菓子店A」という名称を用いて洋菓子の製造販売の営業を行うことを許諾している。
   したがって、Aは、「自己の称号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人」(同条)にあたる。

 ⑷ また、Eは、本件手形の裏書譲渡を受けた時には、本件手形の振出人は Aであると信じており、「当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者」にあたる。

 ⑸ この点、確かに、Bは、上記商号を洋菓子の原材料の仕入れ代金の支払いのためのみに使用している。しかし、原材料の仕入れは、洋菓子の営業販売の前提を成す必要不可欠な取引であるため、洋菓子の販売製造と一体の取引と評価できる。

 ⑹ したがって、本件手形の振出しに係る債務は、「当該取引によって生じた債務」(同条)といえる。

2. 以上より、Aは本件手形の振出について名板貸し人としての責任を負うから、EはAに対し本件手形の支払の請求ができる。

設問(3)

1. Eは、Cに対し遡及することができるか。Dが表見支配人(法24条)にあたり、Cが当該振出しに係る責任を負うことにならないかが問題となる。

 ⑴ これをみるに、Dは、Cから“支配人”の名称を付与されている。そして、支配人との名称は、通常、「営業所の営業の主任者であることを示す」(同条)ものである。

 ⑵ 同条の趣旨は、権利外観法理にある。そこで、「付した」とは、帰責性が認められることをいうと解する。
   上記名称は、卸売業者であるCが、「使用人」(同条)たるDに直接付与したものである。そのため、Cに帰責性が認められる。
   したがって、「付した」といえる。

 ⑶ この点、CがDを支配人として登記していない場合には、法9条1項によってEの「悪意」(法24条但書)が擬制され、Eは、法24条によって保護されないとも思える。

  ア しかし、迅速性を要する商取引において、都度登記の確認を要求することは酷である。また、法9条1項により常に悪意が擬制されるとすれば、取引の安全を害するおそれがある。そのため、法24条は、法9条1項の例外規定と解すべきである。そこで、法24条が適用される場合には、法9条1項が適用される余地はなく、登記の有無は正当な信頼の有無に影響を及ぼさないと解すべきである。

  イ したがって、Eは、登記の有無に拘らず、法24条の要件を満たす限り保護されると解する。そして、本問でEが悪意であるという事情はない。

2. 以上より、登記の有無に拘わらずEはCに対し遡及することができる。

以上

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