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2023年 刑法 大阪大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 刑法 大阪大学法科大学院【ロー入試参考答案】

3/6/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

大阪大学法科大学院2023年 刑法

第1 甲と乙がAに脅迫しながら取立てを行なった行為

1. 甲と乙は2人で「痛い目に合わせる」、「骨の2、3本折られることは覚悟しろ」という旨をAに申し向けながら現金52万円を支払うよう取り立てている。この行為は恐喝未遂罪の共同正犯が成立しないか(刑法(以下略)249条1項、250条、60条)。

2. もっとも、甲はBから委託を受けて乙と共に、AのBに対する借金の取立てを行なったにすぎず、財産上の損害がないとも思われる。恐喝罪は財産罪であるから、財産上の損害が認められなければ、成立しないことになる。恐喝罪における損害の発生についていかに解すべきか。

⑴ 249条1項が畏怖させて財物を交付させる行為自体を処罰していることに鑑みれば、恐喝罪は個別財産に対する犯罪であり、財物の交付自体が損害といえる。そのため、脅されて債務の履行を強制された場合には、財産的損害は認められると解すべきである。

⑵ 本件において、「痛い目に合わせる」、「骨の2、3本折られることは覚悟しろ」という文言は、人を畏怖させるに足りる害悪の告知であり、脅して債務の履行を強制させようとしており、恐喝行為が認められる。しかし、Aは畏怖せず、返済を拒否する態度を変えなかったため、未遂となる。

3. 違法性阻却事由

⑴ ただし、権利の範囲内であり、その方法が権利行使の方法として社会通念上許される態様のものであれば、例外的に違法性が阻却されると解するのが相当である。

⑵ 本件において、Aは返済期がすぎてもなかなか借金を返済せず、脅迫行為がなければなおさら返済することはなかったと考えられる。
 もっとも、甲及び乙の「痛い目に合わせる」、「骨の2、3本折られることは覚悟しろ」と脅す行為は、Aの身体の危害を加えることを申し向けるものであり、上記のAの態度を考慮しても、社会通念上許される態様とはいえず、違法性は阻却されない。

4. よって、甲と乙には脅迫未遂罪の共同正犯が成立する。

第2 Aに暴行を加えて死亡させた行為

1. 乙の罪責

⑴ 乙は甲と共に約1時間、Aの顔面、背部等を殴打するなどの暴行(第1暴行)をして、甲が帰宅した後も、1人でAの顔面を蹴るなどの暴行を(第2暴行)加えた結果、甲状軟骨左上角骨折に基づく頸部圧迫等により窒息死した。乙の一連の暴行行為は傷害致死罪(205条)の構成要件に該当しないか。

ア 傷害致死罪の構成要件は、①人を傷害、②人が死亡、③傷害と死亡の間の因果関係である。

イ 乙の第1暴行及び第2暴行は人の生理的機能を侵害しており、「傷害」にあたり(①)、Aは死亡している(②)。そして、顔面に強く暴行を加えることは甲状軟骨左上角骨折に基づく頸部圧迫等により窒息死する現実的危険性が認められ、その危険が現実化しているため、因果関係もある(③)。

ウ よって、乙の第1暴行及び第2暴行は傷害致死罪の客観的構成要件該当性を満たす。

⑵ また、同罪の故意については同罪が傷害罪の結果的加重犯、傷害罪が暴行罪の結果的加重犯であることから、暴行罪の故意があれば足りるところ、乙には少なくとも暴行罪の故意があるため、主観的構成要件該当性も満たす。

⑶ 以上より、乙の一連の暴行行為は傷害致死罪の構成要件該当性を満たす。そして、後述の通り、甲と傷害致死罪の共同正犯が成立する。

2. 甲の罪責

⑴ 乙の第1暴行について

ア 甲は乙と意思疎通(本件共謀)して約1時間にわたりAに第1暴行を加えている。また、少なくとも第1暴行について、暴行罪(208条)の故意は認められる。

イ よって、乙は第1暴行について甲と少なくとも暴行罪の共同正犯が成立する。

⑵ 乙の第2暴行について

ア 甲は乙の第2暴行の前に立ち去っており、第2暴行に加担していない。そのため、甲は第2暴行について無罪とも考えられる。しかし、第2暴行が事前の共謀に基づく行為であれば、甲も責任を負うべきである。

(ア)事前の共謀の射程が事後の行為に及ぶかどうかは当初の共謀と実行行為の内容との共通性、共謀による行為との関連性、犯意の単一性・継続性、動機・目的の共通性等を総合的に考慮して判断する。

(イ)乙の第2暴行は、事前の本件共謀で対象としていた第1暴行の相手であるAに対して行われている。また、両暴行の間には時間的場所的近接性が認められる。両暴行はAの顔面等を殴ったり蹴ったりするという態様で当初の共謀通りの行為であり、質的な変化はない。乙としても、あくまでAの言動に激怒し、Aに暴行を加える目的で両暴行は共通している。

(ウ)以上より、第2暴行は、乙の独自の意思決定に基づく行為ではなく、本件共謀の射程が及んでいるといえ、共謀に基づく実行行為であるといえる。

イ もっとも、甲は乙に対して、第2暴行が開始される前に、「おれ帰る。」と言って犯行現場から立ち去っている。そのため、甲には乙との共犯関係の離脱が認められないか。

(ア)共同正犯の処罰根拠は共同実行の意思の下、相互利用補充関係によって犯罪の実現に因果的な影響を相互に及ぼしあった点にある。そうだとすれば、後の結果と自己の行為との因果性が断ち切られたと評価できれば共犯関係からの離脱が認めてもよい。
 よって、離脱の認定は、因果性(物理的因果性、心理的因果性)の除去があるかどうかによることになる。実行の着手後に離脱する場合には、既に因果の流れは現実に進行を始めている以上、離脱が認められ、結果への帰責がないとの評価を得るには、積極的な行為により行為と結果との因果性を断ち切ることが必要である。

(イ)本件では、すでに共謀に基づき第1暴行が行われており、甲と乙は同時に暴行を加えているため、実行の着手が認められる。また、かかる暴行は甲が乙を誘ったことをきっかけとしているため、乙にとって心理的に甲と共に行うことが重要であった。そのため、乙との暴行実現において因果性を与えている。そして、甲が「おれ帰る。」と行った際には、乙は未だ興奮が覚めていない状態あった。そうすると、本件は実行に着手後、甲の因果性が強く残っていたといえる。
 また、甲は離脱時点で犯行が継続するおそれが消滅していなかったのに、格別それを防止する措置を講ずることなく立ち去っている。そのため、因果性の除去があったとはいえず、共犯関係からの離脱は認められない。

ウ したがって、甲には乙との共犯関係の離脱は認められず、第2暴行についても共同正犯が成立する。

⑶ そして、甲も乙と同様に第1暴行及び第2暴行についても共同正犯として発生した結果について帰責され、かつ傷害致死罪は暴行罪の故意があれば足りるので、甲は乙と傷害致死罪の共同正犯となる。

第3 罪数

甲と乙は①Aに対する恐喝未遂罪の共同正犯と②Aに対する傷害致死罪の共同正犯が成立する。①と②は併合罪となる。

以上

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