2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
日本大学法科大学院2023年 民事訴訟法
第1 設問1
1. 裁判所はどうすべきか。まず、XY間の契約書の「XY間において、本件消費貸借契約に関して紛争が生じた場合、訴え提起による紛争解決はせず、双方が誠実に協議することにより解決するものとする。」との記載は、不起訴合意にあたるところ、このような明文なき訴訟契約は有効か。
⑴ 民事訴訟においては、多数の事件を集団的に処理するため、訴訟手続を画一的・定型的に定める必要があり、原則として、訴訟当事者間で自由に訴訟手続の方式を変更させるべきではない(任意訴訟禁止の原則)。しかし、処分権主義・弁論主義の適用される領域においては、当事者が特定の訴訟行為を行うか否かが自由であるため、この領域では明文なき訴訟契約は認められるべきである。もっとも、無制限にこれを認めると、訴訟当事者が不測の損害を被るおそれがある。そこで、処分権主義・弁論主義の適用される領域であり、合意の法効果が明確に予測し得る場合に限って、明文なき訴訟契約は認められる。
⑵ 本問をみるに、「XY間において、本件消費貸借契約に関して紛争が生じた場合、訴え提起による紛争解決はせず、双方が誠実に協議することにより解決するものとする。」との記載は、不起訴合意にあたる。不起訴の合意は処分権主義の領域であり、かつ、特定の紛争について訴えを提起しないという点で効果も明確に予測し得るため有効である。
⑶ よって、XY間の合意は有効である。
2. しかし、Xは、上記合意に反して本件訴訟を提起しているところ、裁判所はどのように対応すべきか。
⑴ 明文なき訴訟契約が訴訟外でなされた効果については、私人間の契約の一般原則に従い、私法上の作為・不作為義務が発生するにすぎないと解するべきである(私法契約説)。そこで、訴訟当事者が合意に反した場合、相手方が合意の存在を抗弁として主張立証する必要があり、これが認められた場合には裁判所は訴訟上それに応じた一定の措置を講ずることになる。
⑵ 本件では、裁判所は、被告Yが合意の存在を抗弁として主張立証した場合には、もはや訴えの利益、すなわち本案判決の必要性を欠くものとして、訴えを却下すべきである。
3. 以上、Yが契約書の記載について、抗弁として主張立証した場合には、裁判所は訴えを却下するべきである。
第2 設問2
1. 裁判所はどうすべきか。
⑴ YがXに対して120万円を支払い、Xは訴えを取り下げる旨の訴訟外の合意は、訴え取下げの合意にあたる。この合意は有効か。
ア YがXに対して120万円を支払い、Xは訴えを取り下げる旨の訴訟外の合意は、訴え取下げの合意にあたる。訴え取下げの合意も処分権主義の領域であり、かつ、合意の対象となっている訴えを取り下げるという点で効果も明確に予測しうるため有効である。
イ よって、この合意は有効である。
2. では、Xは、上記合意に反して訴えを取り下げていないところ、裁判所はどのように対応すべきか。
被告Yが合意の存在を主張立証した場合には、Xは訴えの利益(権利保護の利益)を欠くものといえる。したがって裁判所は訴えを却下すべきである。
3. よって、Yが合意の存在を主張立証した場合には、裁判所は訴えを却下すべきである。
第3 設問3
1. 裁判所はどうすべきか。
⑴ XとYとの間で「XY間における本件消費貸借契約締結後にYが200万円相当の高級腕時計1個を購入した。」という事実について、本件訴訟では争わない旨の合意は、間接事実の自白契約にあたる。この合意は有効か。
ア 「本件消費貸借契約締結後にYが200万円相当の高級腕時計1個を購入した」という事実は、消費貸借契約の主要事実である金銭の授受の存在を推認させる間接事実である。そして、間接事実の自白が弁論主義の領域に属するかが問題となるが、間接事実は証拠と同様の機能を有し、これに弁論主義の適用を認めると自由心証主義(247条)を不当に制約するおそれがあるため、弁論主義の領域には属しない。したがって、間接事実の自白契約は弁論主義の領域ではない。
イ よって、この合意は無効である。
2. 以上、裁判所はXY間の合意に拘束されず、自由な心証形成に基づいて事実認定をすべきである。
以上