3/31/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
早稲田大学法科大学院2021年 憲法
1. 問1
⑴ 本件処分は被収容者が本件書籍を閲読する自由を制約しているところ、かかる制約が違憲であることを主張する。具体的には、本件書籍を閲読する自由を制約する根拠となっている法70条1項(以下、本件法)が違憲であること、及び、仮にかかる法令が合憲であっても被収容者Aが本件書籍を閲読することを上記法に基づき禁止した本件処分がいわゆる適用違憲であることを主張する。
⑵ 法令自体の合憲性
憲法21条1項は表現の自由を保障しているところ、情報化の進んだ現代社会においては、情報の受け手側からこの自由を再構成するべきと考える。そうであるならば、表現の自由とは、公権力による干渉を受けることなく情報を摂取する自由をも含むと解釈すべきである。
本件法が被収容者が特定の書籍を閲読する自由を制約していることに着目し、表現の自由を侵害している点を主張するべきである。
⑶ 適用(本件処分)の合憲性
ア 本件法が合憲であるとしても、Aに本件法を適用して本件書籍の閲読を禁止することは適用違憲であると主張するべきである。
イ Dは本件処分の理由として、本件書籍によって刺激されたAが粗暴行為等にでる蓋然性やわいせつ行為等に及ぶ蓋然性を主張している。弁護士はこれに対してAは過去2回刑事施設に収容されているものの、わいせつ行為や粗暴行為を行った事がないことに着目し、上記懸念はないこと及びそのような懸念がないにもかかわらず本件処分を行った点に適用違憲があると主張すべきである。
ウ Dは本件処分の理由として、男性同性愛者を嫌悪する者と被収容者との間で紛争が生じる蓋然性が認められる旨主張している。弁護士はこれに対して、このような懸念は漠然抽象的な危機感にすぎず、かかる懸念を理由にAの本件書籍閲読の自由を制約することは憲法上許されない旨主張すべきである。
エ また、本件書籍と同等又はそれ以上の描写のある異性間の性的描写が記載された書籍の購入・差入れが認められており、被収容者が実際にこれを閲読しているところ、同性愛者と異性愛者に異なる取り扱いを設けている点に着目して、憲法14条1項に反する旨主張すべきである。
2. 問2
⑴ たしかに、1⑴で述べた通り、Aが本件書籍を閲読する自由は憲法21条の保障する表現の自由に含まれる。しかし、表現の自由も全く無制約ではなく、公共の福祉に適合する限度で内在的制約に服すると解するべきである。また、表現の自由の重要性を基礎付けるものとして、自己実現の価値と自己統治の価値があるところ、男性同性愛をテーマとする本件書籍を閲読する自由に後者の価値が妥当するとはいえない。
したがって、Aの本件書籍を閲読する自由は表現の自由として保障されうるとしても、一定の制約をうけるものと考えるべきである。
⑵ 法令自体の合憲性
ア 判断基準
本件法は被収容者の書籍の閲読を禁止するものであり、被収容者が自由に情報を摂取することに制限を加えている点で表現の自由を制約するものといえる。もっとも、上記の通り表現の自由も公共の福祉の観点から一定の制約を受けるものであるから、かかる自由を制約するからといって直ちに本件法が違憲となるわけではない。また、被収容者は通常の国民と異なり、国家と特殊な関係にあるといえるから、権利の制約の必要性が高い、拘置施設においては。多数の被拘禁者の収容し管理する必要があるから秩序維持の要請から管理者に裁量を認める必要がある。
一方で、表現の自由は自己実現の価値・自己統治の価値を根拠とした重要な利益であることから、表現の自由に対する制約が憲法上許容されるかについては慎重な判断が必要となる。
そこで、法の目的が重要で手段が目的達成との間で実質的関連性を有するといえる場合に本件法が合憲となると考える。
イ 個別具体的検討
これを本件に鑑みる。本件法は被収容者の閲読に際して閲読する書籍を限定する法律であるところ、かかる法の目的は被収容者が過激な思想や描写に感化されて収容施設の秩序が乱れる危険を防止するという重要なものである点にある。そして、過激な思想や描写を含むと思慮される書籍の閲読を禁止することは、右のような収容施設内の秩序維持という法の目的を達成するために実効的な手段であるであるといえる。そして、かかる制約は、少なくとも収容施設内における秩序が放置できない程度に害される相当の蓋然性があると認められる場合に限定されると解されるところ、相当性も認められる。
ウ 結論
以上より、本件法自体は合憲である。
⑶ 適用(本件処分)の合憲性
ア 判断基準
本件法を運用して被収容者を管理することについては、収容所を管理する拘置所長に裁量が与えられている。そこで、本件処分が違憲となるか否かの判断は、Dが本件処分をするにつき、右裁量の範囲を逸脱濫用したと認められるかという観点から行うべきである。そして、本件制約は、収容施設における秩序が放置できない程度に害される相当の蓋然性があると認められる場合でないかぎり認められないと解するべきである。そのため、本件具体的には、本件処分で上記の蓋然性があるとの判断をした過程に考慮不尽や他事考慮がないか、比例原則に反しないか等諸般の事情を考慮して裁量の逸脱の有無を審査する。
イ 個別具体的検討
(ア) Dは本件処分の理由として、男性同性愛者を嫌悪する者と被収容者との間で紛争が生じる蓋然性が認められる旨主張している。もっとも、Aは過去2回刑事施設に収容されているものの、わいせつ行為や粗暴行為を行った事がない。そうするとかかる懸念は漠然抽象的な懸念に過ぎず、相当の蓋然性は認められない。
本件処分の理由としてDは本件書籍によって刺激されたAが粗暴行為等にでる蓋然性やわいせつ行為等に及ぶ蓋然性を主張している。しかし、このように、考慮すべきでない懸念を重視して本件処分をしている点で他事考慮があるといえる。
また、同程度の刺激の強い性描写が含まれる異性愛の書籍はすでに被収容者に閲読されているのだから、あえて同性愛の書籍のみを禁止する必要は少ない。このような同性愛者と異性愛者との間で異なった取り扱いをする本件処分は憲法14条1項の法の下の平等に反しうる。
(イ) さらに、収容施設内における秩序が放置できない程度に害される相当の蓋然性があると認められる場合でないかぎり、被収容者の閲読の自由に対する制約は認められないと解するべきである(よど号ハイジャック事件)ところ、Dは本件処分の理由として、男性同性愛者を嫌悪する者と被収容者との間で紛争が生じる蓋然性が認められる旨主張している。このような懸念は漠然抽象的な懸念に過ぎず、相当の蓋然性は認められない。したがって、漠然抽象的な懸念を重視して本件処分をした点に他事考慮があるといえる。
ウ 結論
以上のように、本件処分は考慮すべきでない点を過剰に重視し、考慮すべき事項を適切に評価していない点で判断過程に問題がある。したがって、本件処分は拘置所長の裁量を逸脱する違法な処分であるといえ、表現の自由を違法に制約する点で本件処分は違憲である。
以上。