1/3/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2021年 行政法
1. 「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法(以下、略)9条1項)とは、当該行為により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた根拠法規が、不特定多数者の具体的権利を専ら公益の中に吸収・解消させるにとどまらず、それらが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護する趣旨までも含む場合には、当該利益は法律上保護された利益にあたる。処分の名宛人でない者に係る原告適格の有無は、9条2項に従って判断する。
2. 本件許可にかかる根拠法規は、道路法32条1項柱書であるところ、以下、検討する。
⑴ Xについて
ダストボックスを設置されると、付近にゴミのにおい等の悪臭が漂い、付近の住環境が悪 化する恐れがある。そのため、Xはダストボックスの設置によって、住環境という利益を害されるといえる。
道路法32条1項は、当該利益について規定していない。また、施行令10条でも上記の利益について規定はない。そのため、住環境という利益は道路法で保護される利益ではない。
したがって、Xの原告適格は認められない。
⑵ Yについて
ア Yは、本件許可の取消しにより露店の営業を行う利益を害される。そして、本件許可の根拠規定たる道路法32条1項柱書は、営業を行う利益につき何ら規定していない。そこで、他の規定を参酌するに、同条2項3号の委任を受けた道路法施行命10条は、交通に関する利益を保護する趣旨(1号イ(5)参照)を読み取ることができる一方で、当該利益を保護する趣旨は読み取れない。また、道路法による委任を受けた、道路法施行令11条の3は、道路交通の安全に対する配慮を読み取ることは可能である一方で、当該利益を保護する趣旨は読み取れない。そこで、道路法32条1項は、当該利益を保護する趣旨を含まないといえる。
イ したがって、Yは、「法律上の利益を有する者」にあたらない。
⑶ Zについて
ア Zは、ガス管が設けられる道路の部分に面する店舗において可燃物を取り扱う事業を営んでいる。そのため、本件許可により、自己の取り扱う可燃物にガスが引火することで、火災が発生する危険がある。そのため、生命及び身体という利益が害され得る。そして、道路法32条2項4号によると、工作物、物件または施設の構造を道路管理者に届けなければならない。そして、に係る同法33条1項の基準を定めた道路法施行令12条は、「火災…により道路の構造及び交通に支障を及ぼすおそれがない」(同条1号イ)こと及び「保安上必要な事項を明示」(同条2号ハ)を本件許可の要件として定めている。そして、火災による交通への支障は、付近の住民や通行人等の生命身体に対する侵害を伴うものであるため、根拠規定たる道路法32条1項は当該利益を保護する趣旨を含むといえる。
イ 火災による当該利益への侵害は、ガス管が設置された場所から近ければ近いほど生じる。加えて、生命身体への侵害は、金銭等により補填が不可能な性質を有する非常に重要な利益である。以上の事情に鑑みれば、道路法32条1項は、当該利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨まで含むといえる。
そこで、同項に基づく許可により設置されたガス管によって、当該利益が直接侵害されるおそれのある者は「法律上の利益を有する者」にあたると解する。
ウ Zは、ガス管が設けられる道路の部分に面する店舗において可燃物を取り扱う事業を営んでいることから、本件許可に基づき設置されたガス管を原因とする火災に巻き込まれる恐れがある。よって、Zは直接当該利益が侵害されるおそれのある者といえる。
エ したがって、Zは「法律上の利益を有する者」にあたる。
3. よって、Zには原告適格が認められ、X及びYには認められない。
以上
[TA1]施行令は関係法令ではなく、根拠法規の一部です。