6/29/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
慶應義塾大学法科大学院2025年 刑事訴訟法
設問1
伝聞法則の趣旨は、供述証拠は知覚・記憶・表現・叙述の過程を経て証拠となるところ、各過程には類型的に誤りが介在しやすいから、反対尋問(憲法37条2項前段、法304条2項、規則199条の4)、宣誓(354条)、裁判所による観察等を通じて、内容の真実性を担保する点にある。320条1項は、それを担保できない伝聞証拠の証拠能力を原則として否定することで事実認定の正確性を損なうおそれを排する趣旨だから、かかる担保の必要がないならば証拠能力を否定する必要はない。そこで、伝聞証拠とは公判廷外供述を内容とするもののうち、要証事実との関係で内容の真実性が問題となるものをいうと解する。
設問2
321条3項が緩やかに証拠能力を認めるのは、「検証」が、物の形状や位置関係といったそれ自体中立的な対象を観察するもので、その性質上、検証をする者の主観的意図によって内容が歪められるおそれが少ないからである。実況見分は、任意捜査である点を除き、検証と同じ性格を有するから、上記おそれは同程度に少ない。そこで、本条に言う「検証」には実況見分も含むと解する。
ゆえに、実況見分調書は、「司法警察職員の検証の結果を記載した書面」に当たる。
設問3
1. 実況見分調書全体は、本件捜査を担当する司法警察員Lの「公判廷における供述に代」わる「書面」であり、その供述内容たる事実を証明するために用いられており、内容の真実性が問題となるから、伝聞証拠にあたり、原則として証拠能力は認められない(320条1項)。
2 もっとも、「供述者」たるLが、証人尋問において、「真正に作成されたものであること」、すなわち、作成名義の真正と内容の真正を供述し、反対尋問において真正であることが崩れなければ、全体の証拠能力は認められる(321条3項)。
3 別紙1及び2の司法警察員Pの説明部分及び写真は、それぞれ、Vの供述録取書との性質を併有する。そのため、別途伝聞証拠にあたれば、重ねて伝聞例外にあたらない限り証拠能力を有しない。
検察官の主張する立証趣旨は、被害再現状況である。そして、本件の争点は犯⾏可能性であり、客観的な犯行可能性を立証することには意味があり、被害再現に当たり、被害時と同じ型式の⾞両を⽤いて、体格や窓の開き具合などの諸条件をそろえて再現が行われているから、かかる再現において、運転席の窓から差し⼊れた犯⼈役の⼈物の右腕がVの着⾐に届くことの立証は、犯行可能性の立証に役立つ。また、説明部分は、単に写真と事件の関連性を示すものに過ぎない。よって、別紙1及び2の写真部分の要証事実は、運転席の窓から差し⼊れた犯⼈役の⼈物の右腕がVの着⾐に届くことであり、司法警察員Pの説明部分の要証事実は、それを契機として実況⾒分を実施したことである。かかる要証事実の関係では、内容の真実性は問題とならないから、別紙1及び2について、別途伝聞例外の要件を満たす必要はない。
4 以上より、実況見分調書のうち、別紙1及び別紙2を除いた部分についてのみ証拠能力が認められる。