5/10/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
慶應義塾大学法科大学院2025年 憲法
以下、市民会館不許可処分を処分①、ランコントル使用不許可処分を処分②とする。
1. 処分①について
⑴処分①は、憲法改正反対派(以下「反対派」という。)の「集会…の自由」を侵害するものとして、憲法21条1項に反し、違憲とならないか。
⑵「集会」とは、多数人が共通の目的をもって一定の場所に集まることを意味する。複数人が共通の目的で公共の施設を利用することを国家から妨害されない権利は集会の自由として憲法21条1項によって保障されると解する。
A市市民会館において「憲法改正に反対するA市民の会」という多数人の集合体が、憲法改正に反対するという共通の目的を持ってA市市民会館の大集会室という一定の場所に集まることは「集会」といえるから、「憲法改正に反対するA市民の会」には、決起集会をすることを国家から妨害されない権利としての「集会…の自由」が保障される。
⑶本問において処分①は、反対派による市民会館利用を認めない旨のものである。地方自治法244条及びC条例10条が方自治法244条にいう普通地方公共団体の「公の施設」として、集会の用に供する施設が設けられている場合、住民はその施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められることになるので(条例10条)、管理者が正当な理由なくその利用を拒否するときは, 憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれが生ずる。
⑷処分①はC条例6条及び11条違反を根拠とし、5条違反をも考慮しているものである。
ア 集会は国民が様々な意見・情報等に接することで自己の思想・人格を形成・発展させたり、相互に意見・情報等の伝達交流する場として必要であり、また、対外的に意見を表明するための有効な手段であるから、民主主義社会における基本的人権の一つとして特に尊重されなければならず、集会の複数人の集合という性質上、公共施設の利用は重要な意味を持つ。
また、集会の自由は、集会を通して自己の人格を発展させるという自己実現の価値と、憲法改正運動のための集会という活動により、国民が政治的意思決定に関与するという民主制に資する自己統治の価値を有することからも、その重要性が肯定される。
イ C条例5条について
(ア)C条例5条は集会の内容に着目した規定ではなく、旗・のぼり・プラカード・立て看板の持ち込みという集会方法の一つを禁止する規制(内容中立規制)であるから、審査基準を厳格なものにすべきでないと言えそうである。しかし、同条は旗等の持ち込みを事前にかつ一律に全部禁止するものであって、旗等が安価かつ容易な表現方法であることを踏まえると、他に有効な代替手段があるとは言えない。したがって、条例5条の規制の程度は強度であるといえる。すると、同条は目的が必要不可欠な利益の保護にあり、かつ手段が目的達成のために必要最小限度のものでなければ違憲になるというべきである。
(イ)これを本問についてみると、C条例の目的は施設の保全及び秩序の維持を図り、もって公務の円滑な遂行に資することであるが、これは施設利用者の生命・身体または財産という必要不可欠な利益を保護するためのものといえる。一方で、5条はその理由に関わらず、一律に旗等の持ち込みを禁じようとするものであって、上記必要不可欠な権利を侵害するおそれのない態様のものをも禁じているため、その手段は目的達成のために必要最小限度のものであるということはできない。
(ウ)したがって、C条例5条は憲法21条に反し、違憲である。
ウ C条例6条について
(ア)6条のうち市民会館について規定する部分は、特定の主義又は意見に賛成し又は反対する目的での集会を禁止するものであって集会内容に着目した規制であるといえる。かつ、同条は上記目的での集会を事前に抑制するものである。したがって、6条による規制は非常に強度である。そこで、目的が必要不可欠な利益の保護にあり、かつ手段が目的達成のためのために必要最小限度のものでなければ違憲になるというべきである。
(イ)C条例の目的が必要不可欠な権利の保護にあるというのは上記のとおりである。一方で、6条は、特定の目的のための集会を一律に禁止するものであって、上記必要不可欠な権利を侵害するおそれのない集会をも禁止するものであるから、その手段が目的達成のために必要最低限のものであるとは言えない。
(ウ)したがって、C条例6条のうち、市民会館利用について定めた部分は憲法21条に反し、違憲である。
エ C条例11条について
(ア)11条の「公の秩序を乱すおそれがある場合」という文言は、広義の表現を採っており違憲であるといえそうである。しかし、上記集会の自由の重要性に鑑み、かかる文言が「人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見される場合」を意味すると限定的に解釈される。したがって、C条例11条は憲法21条1項には違反しない。
(イ)本問においてA市からは、市民会館においては政治的問題に関わる集会は予定されておらず、特に憲法改正問題がヒートアップしていることより反対派の集会が行われると、多数の推進派が詰めかけて騒動に発展するおそれがあるとの反論が考えられる。しかし、憲法改正に関する運動が活発に行われているといっても、これまでにかかる運動が暴動化し、利用者の重要な権利を侵害し、公共の安全を妨害するような事例はなく、これをもって明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されるとはいえない。
よって、A市の反論は不当である。
(ウ)したがって、条例11条が合憲であるとしても、処分①は違憲である。
⑸以上より、処分①は憲法21条に反し、違憲である。
2. 処分②について
⑴処分②は憲法改正反対派の「集会…の自由」を侵害するものとして、憲法21条1項に反し、違憲とならないか。
⑵ランコントルにおいて「憲法改正に反対するA市民の総決起集会実行委員会」という多数人の集合体が、憲法改正に反対するという共通の目的を持ってA市市民会館の大集会室という一定の場所に集まることは「集会」といえるから、「憲法改正に反対するA市民の総決起集会実行委員会」には、決起集会をすることを国家から妨害されない権利としての「集会…の自由」が保障される。
⑶本問において処分②は、反対派によるランコントル利用を認めないものである。ランコントルBが建築される前の時代から存在する広場として伝統的パブリックフォーラムに当たる。特にランコントルは「出会い」を意味し、コミュニケートの場として予定されている。そこで、管理者が正当な理由なくその利用を拒否するときは、 憲法の保障する集会の自由 の不当な制限につながるおそれが生ずると考える。
⑷処分②の根拠はC条例6条であるところ、同条のランコントル利用について規定する部分も、特定の目的のための利用を一律に禁止するもので、集会内容に着目した規制であって、かかる目的の集会を事前に禁止するものであるからその規制の程度は非常に強度である。したがって、6条の合憲性については、目的が必要不可欠な利益の保護にあり、手段が目的達成のために必要最小限度のものでなければ違憲になるというべきである。
⑸これを本問についてみると、C条例の目的が必要不可欠な権利の保護にあることは、処分①で述べたとおりである。しかし、6条は特定の目的のための集会を一律に禁止するものであって、蒸気必要不可欠な権利を侵害しない様態の集会をも禁止しているため、その手段が目的達成のために必要最小限度のものであるということはできない。
⑹したがって、C条例6条のうち、ランコントル利用について定めた部分も憲法21条1項に反し、違憲である。
⑺条例6条の法令違憲が認められる以上、かかる条例に基づいてなされた処分②は違憲である。
以上