7/21/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
中央大学法科大学院2021年 民事訴訟法
設問(1)
1. Xは、以下の主張によって、Yが[a]の主張はできないと主張する。
まず、前訴の訴訟物は、売買契約に基づく代金支払請求権である。後訴の訴訟物はこれと同一であるため、前訴確定判決の既判力(114条1項)が後訴に及ぶ。そして、既判力には、既判力の生じた判断に反する主張・証拠申出は排斥される遮断効が存在するところ、その基準時は、既判力が当事者の手続的保障によって正当化されることに鑑み、当事者が裁判資料を提出でき手続保障が及んでいた時点、すなわち、口頭弁論終結時である。
2. そして、[a]の錯誤取消(民法95条1項)の意思表示は基準時たる口頭弁論終結後になされたものの、取消権自体は基準時前に発生している。また、Yは錯誤取消事由の認識もできたため、期待可能性もある。よって、[a]の主張は遮断効により許されない。
設問(2)
判例は、基準時後における取消権の行使は許されないとしている。その理由は、原告の訴求債権に付着する瑕疵は、紛争解決の実効性確保ために前訴判決にて決着をすべきだからであると考えられる。よって、取消権者が取消事由を認識することの期待可能性がある以上は、かかる取消権の主張は遮断効により許されない。
設問(3)
Xとしては、以下の主張によって、Yが[b]の主張はできないと主張する。
すなわち、YのXに対する200万円の貸金債権とXのYに対する訴求債権は、基準時の時点で相殺適状にあったことから、その行使が基準時後であったとしても、前訴の遮断効によって許されない。
設問(4)
判例は、基準時後における相殺権の行使は許されるとしている。その理由は、相殺は訴訟物とは別個独立の債権についての権利行使であるため、訴求債権に付着した権利ではないこと、そして、相殺の抗弁が認められることは、当該働動債権の消滅という出捐がある点で実質的敗訴であるから、前訴において行使させることが期待される防御方法ではないことにあると考えられる。
設問(5)
上記のとおり、判例は期待可能性の有無によって既判力による遮断の有無を判断していると解されるところ、形成権の行使が期待可能性によって左右されるとすると、これについての審理を個別に行う必要が生じる点で、当該権利が口頭弁論終結以前の事由かどうかという画一的判断ができなくなる。しかし、既判力の正当化根拠は当事者の手続的保障に求められるところ、形成権はその種類、性質が様々であるから、行使される形成権ごとに手続保障の観点から基準時後の行使に遮断効を及ぼすべきかを個別に判断するほかない。
したがって、判例の立場は正当である。
以上