2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2023年 刑事訴訟法
第1問
1. ①弁護人依頼権
弁護人依頼権とは刑事事件における被疑者・被告人が弁護人による弁護を受けることができるという権利である。憲法37条1項によって弁護人依頼権が認められているが、これは被告人のみである。しかし、刑事訴訟法30条1項により被疑者にも弁護人依頼権が認められている。弁護人依頼権の目的は、被疑者・被告人が一般的に弱い立場にあることから、弁護人に依頼し、その補助を受けることにより、検察官と対等な立場に立ち、不当な人権侵害を防ぐことである。
2. ②実況見分調書の証拠能力
実況見分調書は、伝聞証拠(320条1項)にあたるところ、捜査機関の検証調書(321条3項)として、例外的に証拠能力が認められるかが問題となる。検証と実況見分については、強制捜査か否かの違いがあるにすぎない。書面は正確性を期しやすく、専門家による書面で信頼性がある点は同様である。また、公判廷で調書の内容にわたって反対尋問をすることは可能である。
したがって、同条項によって証拠能力を認めるべきである。
3. ③嫌疑なき起訴
犯罪の嫌疑がない場合は、「嫌疑なし」で不起訴処分となるはずであるが、「嫌疑なき起訴」とは、検察官が有罪判決を得る見込みを欠いたまま起訴をすることをいう。実務上をほとんどなされないが、もし嫌疑なき起訴がなされた場合は、公訴権濫用にあたり、公訴を違法・無効とし、これを棄却して手続きを打ち切るべきである。有罪を証明できない以上、無罪判決にすべきであるという見解もあるが、証拠調べ等に時間がかかるため、早期に被告人を救済するために公訴棄却にすることが被告人の利益に資する。
第2問
1. 本件における捜索差押えは不法残留により行った現行犯逮捕に伴う無令状の捜索差押(刑事訴訟法(以下略)220条1項2号)であるところ、かかる捜索差押において大麻を差し押さえることは違法であり、かかる違法捜査により収集した大麻の証拠能力は否定されるべきであるとXの弁護人は主張すると考えられる。
2. では、まず差押行為の違法性の主張について、どのように主張すると考えられるか。
⑴ 逮捕に伴う無令状捜索差押は、逮捕現場において逮捕事実に関連した証拠が存在する蓋然性が高いことから例外的に許容されているにすぎないため、差押えることができる物は逮捕事実と関連性を有していることが必要であるところ、本件において、不法残留事件についての逮捕であるから、大麻は逮捕事実との関連性に欠ける。
したがって、本件の大麻の差押えは違法である。
⑵ さらに、この捜索・差押えは、専ら本件(大麻所持)の証拠として用いることを目的に、別件(不法残留)での捜索・差押を利用した、いわゆる別件捜索・差押えとしても違法ではないか。
ア 本件の証拠収集のため、殊更別件に名を借りた捜索・差押については、令状主義の潜脱となるおそれがあるから、違法であると解すべきである。とはいえ、捜査官の主観を推知するためには客観的事情を総合判断するしかない。
具体的には、別件の事案の内容、すでに収集されている証拠の量、内容、捜索差押により証拠物を発見し得る見込みの程度、本件の事案の内容、嫌疑の程度、特に本件による捜索差押許可上の入手の可否、実際の捜索の態様、発見収集された証拠と別件及び本件との関係等の事情を総合的に考慮すべきである。
イ 本件では、すでに入国管理局から照会に対する回答があり、Xが不法残留の状態にあることが確認されていることから、証拠が十分であり、別件の被疑事実で捜索・差押を実施する必要性は乏しかったといえる。
さらに、本件を被疑事実とする捜索差押許可状の請求が撤回していること、不法残留と大麻所持の両嫌疑には関連性がないことも併せて考えると、Qらは不法残留の被疑事実に仮託して大麻所持に関する捜索・差押を行う目的を持っていたと考えるのが自然である。
したがって、本件では、別件捜索・差押が行われたものと評価すべきである。
ウ よって、本件における大麻の差押は違法である。
⑶ では、違法に収集された大麻の証拠能力の主張について、どのように主張すると考えられるか。
ア 違法収集証拠排除法則につき明文はないが、司法の廉潔性・将来の違法捜査の抑制・適正手続の確保の要請(憲法31条参照)と真実発見(1条)の調和の見地から、①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、かつ、②証拠として採用することが将来における違法捜査を抑止する見地から相当でない場合に証拠能力が否定される。
イ 本件では、大麻所持の被疑事実に関しては逮捕をしているわけではなく、かつ捜索差押許可状もないまま、大麻を差し押さえている。そのため、令状主義を潜脱する重大な違法がある(①)。そして、本件のように別件捜索ともいえる重大な令状主義違反を伴ったに差押えによる証拠物の証拠能力を肯定することは、将来における違法捜査を抑止する見地から相当でないといえる(②)。
したがって、違法収集証拠排除法則が適用される。
ウ よって、本件大麻の証拠能力は否定される。
以上