5/11/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
中央大学法科大学院2025年 刑法
設問1
1. 甲がトイレ収納棚にテレビを隠した上、乙がナイフをAにつきつけ「手を放せ」等といった行為に事後強盗未遂罪の共同正犯(刑法(以下、法令名略)243条、238条、60条)が成立する。以下理由をいう。
「窃盗が」とは、窃盗犯人をいい未遂も含む。「窃取」(235条)とは、占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除し、目的を自己又は第三者の占有に移すことをいう。窃盗は、占有の移転が完了したときに既遂に達する。窃盗罪における占有とは、事実的支配で判断し、事実的支配は占有の事実と占有意思で判断する。
2. たしかにテレビは、幅469mm、高さ409mm、奥行き167mmとサイズが大きく容易には搬出できない。また、トイレ内の洗面台下部に設置された収納棚は、店の支配領域であって、そこからテレビ搬出すれば人目につき、従業員らに怪しまれずにそこから容易に搬出することはできないとも言える。
しかし、被害者である本件店舗関係者が把握困難な場所に上記テレビを移動させたのであり、しかもAが甲が袋を買う際に不審を抱かれなければ、これを店外に運び出すことが十分可能な状態に置いたのであるから、テレビを被害者の支配内から自己の支配内に移したということができる。加えて、甲にはテレビを占有する意思もある。よって甲はテレビを「窃取」したといえる。
3. 60条が「全て正犯とする」として一部実行全部責任を負わせる根拠は、相互利用補充関係にある共犯者が、一体となって結果に対して因果性を及ぼし特定の犯罪を実現する点にある。
そこで、①共謀と②共謀に基づく実行行為が認められれば、「共同して犯罪を実行した」として共同正犯が成立すると考える。
甲は、甲の計画を聞いていた乙に対して「助けてくれ」と叫び、乙は、甲が前日に話していた計画を実行に移して警備員に逮捕されそうになっていることを認識したから、乙が窃盗を遂げた甲と共に、Aに対して脅迫等を加える共謀が成立したといえる。
もっとも、乙は、甲が窃盗罪の実行行為の終了後にはじめて意思連絡をしている。ここで、事後強盗罪が窃盗罪と暴行罪又は脅迫罪の結合犯と解せば、窃盗行為に実行の着手(43条)を認めることとなり妥当でないから、実行行為は「脅迫」であり、「窃盗」は身分と解する。
そうすると、乙が「窃盗」の身分を有していない点が、本罪の成否にいかなる影響を与えるのかが問題となる。ここで、「構成」の文言から、65条1項は真正身分犯の成立・科刑を定めたものと解される。また、非身分者も身分者を通じて身分犯の保護法益を侵害しうるから、「共犯」には、共同正犯を含む。
事後強盗罪を、保護法益を全く異にする暴行罪(208条)・脅迫罪(222条)の加重類型とみるのは無理があるから、真正身分犯と解する。よって、実行行為たる「脅迫」を共謀に基づき実行すれば、「窃盗」の身分が連帯する。
乙は、共謀に基づいて、ナイフをAにつきつけ「手を放せ」等といっており、Aの犯行を抑圧するに足る「脅迫」を共同したといえるから、65条1項により「窃盗」の身分が連帯する。
4. 甲及び乙は故意(38条1項)を有しており、「逮捕を免れ…るために」行っているから、事後強盗罪の共同正犯が成立する。
設問2
1. 「建造物」とは、屋根と柱がある土地の定着物で人が出入りできるものである。本文において店は、屋根と柱がある土地の定着物で、店員・客が出入りできる構造であり、「建造物」である。
2. 「侵入」の意義につき建造物侵入罪が成立する見解は、同罪の法的性質を建造物に誰の立入と滞留を許すかを決める自由だと解する。建造物の所有者等はこれを現に管理し支配する事実上の状態を権利として有するからである。したがって、「侵入」とは、管理者の意思に反する立ち入りである。そしてその判断は建造物の性質・目的等から、管理者が立入りを容認するかで決する。
本問で甲は、家電売場のテレビを代金を払わないで無断で自宅に持ち帰ることを計画し店に立ち入っている。店としては、経営上窃盗行為を計画する者の立入りは意に反するから、上記立ち入りは「侵入」に当たる。よって、甲に建造物侵入罪が成立する。
建造物侵入罪が成立しない見解は、同罪の法的性質を建造物の事実上の平穏であると解する。立ち入り許諾の背後にある権利にも配慮する必要があるからである。よって、立入りが外形上財産権等を害する態様かで判断する。
甲は内心は窃盗を計画していたが、外形上平穏な態様であるため、「侵入」に当たらず、建造物侵入罪は成立しない。
以上