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2023年 商法 慶應義塾大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 商法 慶應義塾大学法科大学院【ロー入試参考答案】

11/26/2023

The Law School Times【ロー入試参考答案】

慶應義塾大学法科大学院2023年 商法

設問

1. 甲社の立場において考えられる主張としては、本件契約は、「事業の全部の譲渡」(会社法(以下、略)467条1項1号)に当たるところ、株主総会決議による承認を欠くため無効であると主張することが考えられる。かかる主張は認められるか。

2. まず、本件契約は、「事業の全部の譲渡」に当たるか。
法律関係の明確性及び取引の安全保護の観点から、事業譲渡の意義は、①一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡し、➁これによって、会社がその事業活動の全部または重要な一部を譲受会社に受け継がせ、③会社が法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいうと考える。
これを本問についてみるに、本件契約は、Q工場を売却するものであるが、Q工場は、陶器の製造販売業を営む甲社の持つ唯一の工場であり、陶器の製造という事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産といえる(①)。また、本件契約によって、乙社は、Q工場の従業員及び取引先を引き継ぐ形で操業を続けることとなっており、Q工場による事業活動は譲受会社である乙社に受け継がれる(➁)。加えて、本件契約は、特約のない限り21条1項によって競業菱義務を負う結果を伴うものである(③)。
以上より、本件契約は事業譲渡に当たるところ、Q工場は甲社の唯一の工場であり、Q工場の譲渡は、陶器の製造事業の全部を譲渡するものといえる。したがって、本件契約は、「事業の全部の譲渡」にあたる。

3. したがって、本件契約については、467条1項柱書によって株主総会による承認が必要となる。
この点、Aは、たまたま親戚の会合で居合わせたB及びCの息子Dに声をかけ、本件契約について承認を求め、Bの合意があったことから株主の多数の賛成があると考え承認があったとしている。つまり、Aは、これを株主総会の決議と考えているが、かかる決議に先立ち、適法な招集手続(299条1項等)が履践されていない。また、適法な招集通知がなくとも、株主全員の同意(300条)あるいは株主全員の出席がある場合には、かかる株主総会を適法とみる余地もあるが、本件では、株主総会の開催について事前の同意はないし、DはCから株主総会の決議について代理権(310条)を授与されたわけでもないから株主全員の出席があるとみることもできない。
したがって、本件では、適法な株主総会決議による事業譲渡の承認は認められない。

4. そして、承認決議を欠く事業譲渡の効力が問題となるも、事業譲渡は会社にとって極めて重要な事項であるから株主の保護を徹底すべきである。また、事業譲渡の範囲が上述の①~③の要件によって明確かつ限定的であることから、改めて相手方の取引安全の保護を図る必要性は低い。したがって、株主総会の承認を欠く事業譲渡は、相手方の善意悪意を問わず常に無効になると考える。
したがって、本問で、乙は、承認決議を欠くことについて善意であるが、そのことを理由に本件契約は有効となることはなく、本件契約は無効である。
以上より、上記甲社の主張が認められ、本件契約は無効である。

以上

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