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2024年 商法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2024年 商法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】

8/19/2025

The Law School Times【ロー入試参考答案】

京都大学法科大学院2024年 商法

第1問

1. まず本件契約は、Q社株式全部をR株式会社に譲渡する旨の契約であるが、これは「子会社の株式…の全部…の譲渡」(会社法(以下略)467条2号の2柱書)である。そして、P社が「譲り渡す」Q社の「株式…の帳簿価額」はP社総資産額の約30%であり「総資産額…の五分の一を超えるとき」(同号イ)に該当する。また、P社は本件契約によって保有する全てのQ社株式を放出するから「子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しない」こととなる(同号ロ)。
 よって、本件契約は、その効力発生日の前日までに株主総会の特別決議による承認を得る必要がある(同条柱書、309条2項11号)。そこで、以下本件契約を承認した第2決議及びその前提となる第1決議の有効性について検討する。

2.  第1決議の効力
 第1決議について、P社は取締役会設置会社であるため、株主が株主総会を招集するとき(297条4項)を除き、取締役会の決議において298条1項各号に掲げる事項の決定をしなければならない(298条4項)。しかし、本件第1決議は、取締役会決議に基づかずに招集された株主総会での決議である。この場合、第1決議は不存在(830条1項)とならないか。

⑴株主総会決議が不存在となる場合については明文規定を欠くが、物理的な不存在だけではなく、決議の手続的瑕疵が著しく、そのため決議が法律上存在するとは認められないような場合も含まれると解される。

⑵第1決議は、代表取締役ではないBにより、取締役会決議なしに招集された株主総会においてなされているから、手続的瑕疵が著しく、決議が法律上存在するとは認められない。よって、第1決議は不存在である。

3.  第2決議の効力
 では、上記のような瑕疵がある第1決議の後に招集された株主総会の決議(第2決議)の効力はどうなるか。

⑴先行の役員選任決議に不存在事由が存在する場合、当該決議によって選任された取締役によって構成される取締役会は正当な取締役会とはいえず、かつ、その取締役会で選任された代表取締役も正当に選任されたものではなく、当該代表取締役は株主総会招集権限を有しない。よって、このような取締役会の招集決定に基づき、このような代表取締役が招集した株主総会は、後行決議が全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り不存在となる。

⑵本件において、第1決議は上記のように不存在である以上、その第1決議で選任されたB・C・Dによって構成される取締役会は正当な取締役会とはいえず、かつ、その取締役会で選任された代表取締役Bも正当に選任されたものではなく、株主総会招集権限を有しない。
 また、第2決議は一部の株主を除くほとんどの株主が出席し、大多数の株主の賛成により本件契約を承認する決議がなされたものではあるが、全員出席総会ではないため上記特段の事情には当たらない。そのため、第2決議は不存在となる。

4.  株主総会の特別決議を欠く本件契約の効力
 以上のように、本件契約を承認する株主総会の特別決議は不存在であるが、そのような本件契約は有効か。

⑴株主総会の承認を得ない事業譲渡の効力をいかに解すべきかについては明文がないが、事業譲渡は株式会社にとって極めて重要な事項であるから株主保護を徹底すべきであるし、事業譲渡に当たる場合は明確かつ限定的なのであるから、相手方は株主総会決議の有無を調査すべきである。よって、株主総会の承認を得ない事業譲渡の効力は絶定的に無効であると解される。
 そして、467条2号の2の趣旨は、子会社の株式の譲渡も一定の場合には親会社が子会社による事業の支配を失うという点で事業譲渡と同視することができるから、親会社の株主保護の必要性が高く、親会社の株主の特別決議による承認を必要とすることにある。したがって、株主総会の特別決議による承認を欠く同条の株式の譲渡についても事業譲渡とパラレルに絶対的に無効と考えるべきである。

⑵以上の通り、本件契約は株主総会の特別決議による承認を欠くから無効である。

第2問

設問⑴
 Q社がP社の株主であることをP社に対抗するためには、株主名簿への株主の氏名又は名称及び住所が記載されることが必要である(130条1項)。そして、株主は株式会社に対し、株主名簿に株式にかかる株主名簿記載事項を記載することを請求することができる(133条1項)。 したがって、Q社はP社に対し、株主名簿への記載を請求することが必要である。

設問⑵

1.  Q社による閲覧謄写請求は、433条1項に基づくものであり、Q社はP社の議決権の10%の株式を有しているため、「発行済株式…の100分の3…以上の数の株式を有する株主」に当たる。

⑴また、閲覧謄写請求をする際に記載する「理由」は、具体的に示さなければならない。会社が開示を要求されている会計帳簿等の範囲を知り、433条2項各号に規定する閲覧拒否の事由の存否を判断するために必要だからである。ただし、請求の理由を基礎付ける事実が客観的に存在することについての立証は要しない。同条の規定からすれば、株主は請求の理由を明らかにさえすればよいのであって、事実の立証を求めるのはそれに反するからである。

⑵本件において、Q社はP社が株式の持合い工作を進めていると主張しており、理由の具体性に欠けるところはない。P社は持ち合い工作の事実がないことを主張しているが、上記のように、そこに記載された事実が客観的に存在することについての立証は要しないから、433条1項の要件は満たす。

2.  P社は拒絶事由として、P社とQ社は実質的に競争関係にある事業を営んでいることを挙げている。しかし、Q社はインターネットを利用した通信販売事業を目的とする株式会社であり、放送法による放送関連事業を目的とする株式会社であるP社との間では、両社は433条2項3号の「実質的に競争関係にある事業を営」んでいるといえないのではないか。

⑴同号が、競争関係にある会社からの会計帳簿閲覧謄写請求を拒絶することを認めるのは、競業者により会社に秘密が利用され、会社に大きな被害が生じることを未然に防ぐためである。そうだとすれば、近い将来において競争関係に立つ蓋然性が高い場合もこれに当たると解すべきである。また、上記の趣旨に鑑みれば、未然に防ぐということが重要であるため、請求者の主観的意図を考慮する必要はなく、客観的に見て「実質的に競争関係にある」と言えれば足りると解すべきである。

⑵本件において、Q社は近い将来における放送関連事業への進出を計画しているのであるから、近い将来において競争関係に立つ蓋然性が高いといえる。したがって、客観的には、「実質的に競争関係にある」といえる。

3.  以上より、P社には433条2項3号の拒絶事由が認められるから、Q社による閲覧謄写請求は認められない。

以上

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