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2022年 行政法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2022年 行政法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】

1/3/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

京都大学法科大学院2022年 行政法

設問1

1. 取消訴訟制度の目的は、行政庁の違法な処分により個人の権利利益が侵害されている場合に、当該処分の法的効果を遡及的に消滅させ、以て個人の権利利益の回復を図る点にある。そこで、訴えの利益(行政事件訴訟法9条1項参照)の有無は、㋐処分が取消判決によって除去すべき法的効果を有しているか又は㋑処分を取り消すことによって回復される権利利益が存在するかという観点から判断されると解する。そして、行政規則たる裁量基準は、裁判所を法的に拘束しないが、信義則及び平等原則の観点から、内容に合理性の認められる裁量基準に反する行政処分は、行政庁の裁量を逸脱ないし濫用するものとして違法と解する。そこで、訴えの利益の有無において、当該裁量基準を考慮すべきと解する。

2. 以下、検討する。

 ⑴ 本件処分に係る法的効果は、Xに対して令和3年7月7月28日から同年8月10日の14日間の営業停止義務を生じさせる点にある(食品衛生法6条3号、同法60条1項)。そのため、同年10月1日現在においては、当該義務を根拠に除去すべき法的効果を有しているとはいえない(㋐不充足)。

 ⑵ まず、同法60条1項に係る処分は、その内容が許可の取消し、営業の一部ないし全部の禁止若しくは停止と多岐に渡る。加えて、「できる」との文言で定められている。このように規定されているのは、かかる判断がさまざまな事情に応じた専門的な判断が必要であるからと考えることができ、行政庁に効果裁量が与えられていると評価できる。そこで、食品衛生法に基づく行政処分等取扱要領(以下、本件基準とする。)は、裁量処分たる同法60条1項に係る処分の基準を定めるものといえ、裁量基準(行政手続法(以下、略)2条8号ハ)にあたる。そして、本件基準は、その内容が過度に過ぎるとの事情もないため内容に合理性が認められ、訴えの利益の判断において考慮することができる。
   次に、本件基準の別表第2③によれば、「1年以内に再犯を犯した場合」には、他の違反類型に比して加重された処分が課せられることとなる。そのため、処分後1年が経過するまでは、再犯として加重された処分をされないという回復すべき法律上の利益を有するといえる。そこで、本件処分後1年を経過していない同年10月1日現在においては、当該利益が認められる(㋑充足)。

3. したがって、本件処分に対する取消訴訟には、訴えの利益が認められる。

設問2

1. 本件処分は、「行政庁」(2条4号柱書)たる「都道府県知事」(食品衛生法60条1項)が、「法令」(2条4号柱書)たる食品衛生法60条1項に基づき、Xという「特定の者を名あて人として、直接に」(2条4号柱書)、14日間営業を停止するという「義務を課」(同号)す処分であるため、「不利益処分」(同号、14条1項)にあたる。そして、本件処分の命令書には、“不衛生な食品が販売されて食中毒が発した”ことが理由として記載されていたところ、理由の提示(14条1項)として適法か。

 ⑴ 同項本文の趣旨は、不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制しつつ、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える点にある。そこで、理由の提示の程度は、ⓐ当該処分の根拠法令の規定内容、ⓑ当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、ⓒ当該処分の性質及び内容及びⓓと当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮して決すべきと解する。
   ⓐ本件処分に係る根拠規定は、食品衛生法60条1項であるところ、上記の通り同項に掲げる処分内容は多岐に渡り、行政庁に効果裁量が認められている。また、ⓑ同項に基づく処分には本件基準が定められ、公表されている(12条1項参照)ため、本件処分基準の具体的適用関係を示すことは処分基準を努力義務にとどめている同条の趣旨にも反しない。そして、本件基準は、食品衛生法6条違反に内容を大きく三つに分類し、さらに各々の類型ごとに「危害の拡大のおそれのない場合」と「違反内容が悪質又は危害の拡大のおそれのある場合」とに分類しており、その内容が複雑なものと評価できる。さらに、ⓒ当該処分は、Xに14日間という経済的に多大な影響を及ぼし得る期間の営業を停止する内容であることから、重大な不利益処分といえ、行政処分の慎重と合理性を担保する必要性が高い。加えて、ⓓ本件処分に係る食中毒事件は、原因食品及び施設が十分に特定されていない。
   以上の事情に鑑みれば、処分の原因となる事実及び処分の根拠法条とが示されているのみでは足りず、本件基準と適用関係が示され、如何なる理由に基づいてどの様な処分基準の適用により処分が選択されたかを知り得る程度であることまでも要すると解すべきである。

 ⑵ 本件処分に係る命令書には、処分の原因となる事実及び処分の根拠法条とが示されているにとどまる。

 ⑶ したがって、本件処分は14条1項に反し、違法である。

2. Xは、本件処分に係る取消訴訟において、取消事由となり得る手続違反を主張すべきである。

 ⑴ 手続規定に係る違反は処分内容に影響を及ぼさない以上、直ちに取消事由を構成することはない。もっとも、ⓐ手続規定の趣旨、ⓑ目的、ⓒ瑕疵の程度及びⓓ内容を勘案し、当該手続違反が処分の内容を問わず、処分を違法として取り消さなければならないと認められる場合には、取消事由を構成すると解する。

 ⑵ 不利益処分に係る理由提示の趣旨は上記の通りであり、重要な手続である。そこで、処分内容を問わず、違法なものとして取り消すべきであると評価できる。

 ⑶ したがって、上記違法は取消事由になる。

3. よって、Xは、上記取消訴訟において、上記違法を主張すべきである。

以上

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