2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2023年 民事訴訟法
第1問
被保佐人が保佐人の同意(授権)を要する訴訟行為をその同意なく行っても原則無効と解される(34条2項参照)のは、被保佐人は、訴訟当事者としてみずから単独で有効に訴訟行為をなし、または受けるために必要な能力(訴訟能力)について制限的であるため(28条)、訴訟行為について同意を要するところ(民法13条1項4号)、判決によらないで訴訟を終了させる行為や上訴の取下げなど、被保佐人等に不利な判決を確定させる行為については、重大な結果を招き、通常は訴え提起等への同意に包含されていると考えにくいことを理由とする。
他方、法32条1項は、相手方が提起する訴えまたは上訴につき応訴するには、保佐人・保佐監督人の同意を要しない旨を定める。その趣旨は、この場合にまでに保佐人の同意が必要とすると、敗訴しそうな場合に保佐人・保佐監督人が同意を与えないおそれがあり、相手方は訴えや上訴の提起ができなくなり、不当であるため、この限りで相手方の権利保護を被保佐人の保護より優先させることにある。
第2問
1. 設問1
⑴ 結論
後訴において本件売買代金債権が発生していなかったことをいうYの主張(以下、「本件主張」という。)は、前訴判決の既判力により遮断されない。
⑵ 理由
既判力は、審理の簡易化・弾力化の観点から、「主文に包含するもの」(114条1項)すなわち訴訟物たる権利の存否判断についてのみ生じる。そうすると、前訴訴訟物はXのYに対する売買代金支払請求権であり、前訴判決はXの請求を棄却する旨の確定判決であることから、前訴判決の既判力は、XのYに対する売買代金支払請求権の不存在についてのみ生じる。前訴判決は、XのYに対する売買代金支払請求権発生を認めた上で、Yの弁済により同請求権が消滅したことを理由とするものであるが、理由中の判断である同請求権の発生に既判力は生じない。
そして、既判力が作用する場合とは、前訴訴訟物が後訴訴訟物と同一・矛盾・先決のいずれかの関係にある場合をいう。かかる場合には、既判力が作用し、前訴既判力に抵触する請求主張が排斥されることになる。
これをみるに、後訴訴訟物はYのXに対する不当利得返選請求権あるところ、かかる不当利得返還請求は、前訴訴訟物である売買契約が無効であることを前提にするものであり、先決関係にあるといえる。したがって、前訴既判力は、後訴において作用する。
もっとも、前訴の既判力は、売買契約の不存在について生じているところ、売買契約の無効を主張するYの後訴における主張は、これと抵触するものではない。したがって、Yの主張は、前訴既判力によって遮断されない。
2. 設問2
⑴ Yが前訴において売買成立原因実を積極的に争わなかったにもかかわらず、後訴において本件売買代金債権が発生していなかったということは許されない旨のXの主張は、本件主張が信義則により遮断されるべきとするものである。
この点、信義則による後訴の遮断は、本来既判力が生じない点について、既判力と類似の強い効力を認めるものであるから、その判断は慎重になされるべきである。
具体的には、前訴と後訴が社会経済上の同一性を有する紛争に起因するものであって強い関連性があるか、上訴審を含む前訴において後訴における請求または主張の提出可能性があったか、紛争解決に対する相手方の合理的期待があるか、等の事情を考慮して後訴が実質的に前訴の紛争の蒸し返しといえる場合には信義則による遮断が認められると考える。
⑵ これをみるに、前訴と後訴は、同一の本件売買代金債権の存否を主要な争点とするものであり、同一の紛争関係から生じたものといえる。また、前訴において、Yは、売買成立原因事実を積極的に争わずに弁済による消滅のみを主張しているところ、前訴において当初から売買契約が存在していなかったという事実を主張することが困難であったという事情はない。そして、Xには、前訴において売買契約が成立しており、すでに弁済がなされたという認定がなされたことによって、当該紛争が解決したという合理的期待が生じていたといえる。
以上の事情を総合的に考慮すると、本件主張は実質的な紛争の蒸し返しと評価できる。
⑶ よって、Xの主張は認められる。
以上