1/3/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2022年 民事訴訟法
設問1
1. Yによる後訴についての管轄は京都地方裁判所にない旨の主張は、土地管轄を有しない旨の主張である。
⑴ 土地管轄は、原則として「被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所」(民事訴訟法(以下、略)4条1項)に認められる。もっとも、「不動産に関する訴え」(5条12号)については、「不動産の所在地」(同号)を管轄する裁判所に認められる。そして、「不動産に関する訴え」とは、不動産に関する権利を目的とする訴えを意味し、不動産の売買代金、賃料の請求は含まれないと解するべきである。
⑵ 後訴は、Yに対する甲の賃料相当額の返還を求める旨の不当利得返還請求(民法703条)及びZに対する甲の所有権に基づく建物明渡請求を内容とする。そして、上記不当利得返還請求は「不動産に関する訴え」にあたらない一方で、上記建物明渡請求は、「不動産に関する訴え」にあたる。
よって、上記の不当利得返還請求は京都地裁の管轄ではないとも考えられる。
⑶ では、Xは、YとZに対して訴訟を併合提起していることを理由に、京都地裁での審理を求めることができないか。
後訴は、Y及びZという「数人に対する訴え」(7条本文)にあたる。そのため、後訴に係る訴えが38条前段に定める場合にあたれば、京都地方裁判所は後訴に係る両請求につき管轄を有する(7条但書)。
両請求は、Yが権限なくZに対して甲を賃貸したという「同一の事実及び法律上の原因に基づく」(38条前段)ものである。
したがって、京都地裁は、Zに対する訴えに加えて、Yに対する訴えについても管轄を有する。
⑷ よって、Yによる上記主張は認められない。
2. Yによる簡易裁判所に管轄がある旨の主張は、事物管轄を有しない旨の主張である。
⑴ 「訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求」(裁判所法33条1項1号)は、簡易裁判所が裁判権を有する。
まず、Xに対する不当利得返還請求は、Zが甲を明け渡す時点が不明であることから、その訴額を算定することは困難である。
次に、Zに対する甲明渡請求については、甲が「不動産」であることから、京都地裁が裁判権を有する(裁判所法24条1号)。そして、甲の価額が140万円以下である場合は、京都簡裁も裁判権を有する。
⑵ では、訴額が140万円を超えない場合であっても、京都地裁は16条2項に基づき自庁処理することはできないか。
ア 同項の趣旨は、簡易裁判所が簡易な手続きにより迅速に紛争を解決する特色を有する点に鑑み、地方裁判所における審理及び裁判を受ける利益を重視する点にある。そこで、「相当と認めるとき」(同項)とは、地方裁判所における審理及び裁判を行う方が、当事者の利益保護に資する場合をいうと解する。
イ 後述の通り、前訴において甲の所有権及び居住権につき和解調書が作成されている。加えて、被告たるY及びZ間で甲を目的物とする賃貸借契約が締結されていることから、3者が登場するため後訴に係る事情は複雑であると評価できる。このような事案においては、簡易迅速な手続によるよりも、地方裁判所による審理裁判による方が、当事者の利益に資する。
そこで、「相当と認めるとき」にあたる。
ウ したがって、京都地裁は、後訴を自庁処理することができるため、Yの主張は認められない。
設問2
1. 和解調書の既判力を肯定する場合
⑴ 和解調書に係る記載は、前訴判決の判断内容の後訴での通用力たる既判力を有する(267条)。
前訴において作成された和解調書には、①Yは建物甲の所有権がXにあることを承認する、②Xは、向こう3年間、Yが建物甲に無償で居住することを承認することが記載されている。
したがって、①及び②の記載につき、既判力が生じる。
⑵ 既判力の制度趣旨は不当な紛争蒸し返しの防止にあり、その根拠は手続保障を与えられた当事者の自己責任にある。そのため、前訴既判力が後訴裁判所に作用するかの判断は、前訴既判力と後訴訴訟物が、㋐同一、㋑先決又は㋒矛盾関係に立つかを基準にすべきである。
まず、後訴における不当利得返還請求に係る訴訟物は、XのYに対する不当利得返還請求権である。そして、後訴の訴訟物は前訴の訴訟物である甲の所有権の存在を「法律上の原因」の不存在という請求原因とするという意味で、前訴の訴訟物を前提問題にしているといえる。そのため、前訴の訴訟物と後訴の訴訟物は先決関係にある。
次に、後訴における明渡請求に係る訴訟物は、甲所有権に基づく物権的返還請求権である。そして、当該請求の請求原因事実は、自己所有及び他人占有である。
したがって、前訴既判力と後訴訴訟物は、先決関係に立つ。
⑶ 主観的範囲
ア 後訴のおける不当利得返還請求に係る当事者は、X及びYであるため、前訴における「当事者」(115条1項1号)といえる。そこで、当該請求との関係で、上記既判力は後訴裁判所を拘束する。
イ 後訴における甲の所有権に基づく明渡請求に係る当事者は、X及びZであるところ、Zは「口頭弁論終結後の承継人」(115条1項3号)にあたるか。
(ア) 「口頭弁論終結後の承継人」とは、紛争の主体たる地位が移転した者をいうと解する。そして、旧紛争と新紛争との間に主要な争点を共通にする等の密接な関係があるが認められる場合には、手続保障による既判力を正当化し得ることから、当該場合に紛争の主体たる地位が移転すると解すべきである。また、和解による訴訟終了後の承継人は、「口頭弁論終結後の承継人」にあたらず、同号を直接適用することはできない。もっとも、同号の趣旨は、既判力の拡張による紛争の一回的解決を図る点にあるところ、当該趣旨は、和解による訴訟終了にも妥当する。そこで、和解による訴訟終了について、同号が類推適用されると解する。
(イ) 前訴における主要な争点は、甲に係る所有権の帰属先及びこれに伴うXのYに対する甲建物明渡請求権の有無である。他方で、後訴における主要な争点は、Zの甲建物に係る占有正権限の有無と考えられるところ、当該権限は甲建物を目的物とするYZ間賃貸借契約に基づくものである。当該占有権限の有無が、Yの甲建物の処分権限の有無に帰する事情に鑑みれば、両請求における主要な争点が密接に関連していると評価できる。
(ウ)したがって、Zは、口頭弁論終結後の承継人にあたる。
⑷ よって、Y及びZは、前訴においてすべきであった主張を後訴において主張することは許されない。
2. 和解調書の既判力を否定する場合
⑴ 訴訟上の和解は、私法上の和解契約としての性質を有する。そのため、前訴における和解は、実体法上の合意として、後訴において当事者がその実体法上の効果(民法696条)を主張することができる。
⑵ したがって、XはYに対し、民法696条に基づき、和解調書記載の①及び②の通りに、甲の所有権(「権利」)は「当事者の一方に移転し」た(同条)と主張できる。
さらに、Zに対しても、民法696条に基づき、甲の所有権がXにあることを主張することができる。
以上