10/17/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2021年 刑事訴訟法
設問1
1. 職務質問の要件
前提として、本件職務質問が要件を充足しているか検討する。
⑴ 警察官は、周囲の事情から合理的に判断して「何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」又は「既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者」を「停止させて」職務質問をすることができる(警察官職務執行法2条1項)。
⑵ Xは、午前3時ころ、黒のTシャツを着た男性が右手に手提げ金庫を持って歩いていた。また、Pは、無線で「強盗致傷の犯人逃走中。手提げ金庫を所持。身長170センチで小太り、丸刈りで黒のTシャツ着用。発見したらスーパーA店駐車場に同行されたし。」という配信を受けており、Xはその服装・体格・所持品が強盗致傷事件の犯人と一致していたことから、「何らかの犯罪を犯し」又は「既に行われた犯罪について、…知っていると認められる者」にあたる。
⑶ したがって、Pによる職務質問は、警職法2条1項の要件を充足する。
2. PがXの手を取ってパトカーに乗せた行為の適法性
⑴ 警察官は、対象者を「停止させて」職務質問をすることができる。もっとも、職務質問における停止行為は、犯罪の予防・鎮圧という行政警察活動であるため、①強制手段に至らず(同条3項)、②警察比例の原則(同法1条2項)のもと、職務質問の必要性・緊急性を考慮し具体的状況のもとで相当と認められる限度において、適法に行い得ると解する。
⑵ 強制手段とは、個人の意思に反し、重要な権利利益を実質的に侵害する処分をいう。たしかに、Xは、Pから「確認したいことがあるから車に乗ってくれ。」と告げられていきなり走り出したため、強制処分にあたるとも思える。しかし、XはQがパトカーを先回りさせていることに気づいて走るのをやめ、Pに腕を取られてパトカーに乗ったものである。そうすると、Xは、Pに腕を取られる前に逃走を諦めていたといえ、Xの意思に反するとは言えない。また、腕を取ると言う行為は一時的かつ軽度の行為であり、Xがその後に抵抗したような事情もないことから、Pの行為は、Xの身体の自由を実質的に侵害するものとまではいえない。
したがって、Pの行為は、強制手段には至っていない。
⑶ まず、強盗致傷罪は死刑又は無期懲役になり得る重大犯罪である(刑法240条)。また、前述のようにXは、強盗致傷事件の犯人と特徴が一致しており、夜中に手提げ金庫を持ち歩く行動自体も不審なものであり、Xの嫌疑の程度は強かったといえる。さらに、Xは一度逃走を試みており、職務質問を継続する必要性は高かったといえる。他方、Pによる停止行為は身体の自由を実質的に侵害するものとはまでは言えず、また、午前3時20分には現行犯逮捕(213条)されていることから、当該停止行為による身体拘束期間は長くても20分程度であったと考えられる。そうすると、上記停止行為の必要性に鑑みて、Xが受けた不利益の程度はなおも合理的権衡を保っているといえる。
したがって、Pの行為は、本件の具体的状況のもとで相当と認められる。
⑷ よって、Pの当該行為は適法である。
3. 現行犯逮捕の適法性
⑴ Xは、被害品である手提げ金庫を所持していたため、「贓物…を所持している」と認められる(212条2項2号)。
⑵ 憲法33条が現行犯逮捕を令状主義の例外としたことの許容根拠は、逮捕者にとって犯罪と犯人が明白であることから、犯人性判断の客観性が保障されていることにある。そこで、外部的客観的状況から「罪を行い終わってから間がない」ことが逮捕者にとって「明らかに認められ」犯罪と犯人が明白である場合には、「現行犯人」とみなすことができる(212条2項柱書)。
本件でPがXを被疑事実である強盗致傷事件の被害者Vに面会させたところ、Vがこの男性が犯人とであると認めた。また、前述のようにXは贓物である手提げ金庫を所持しており、この手提げ金庫に関して当初供述していたYという名前や説明が嘘であることを認めている。さらに、Xが発見されたのは午後3時ころであり、強盗事件が「行い終わっ」た午前2時半から30分程度しか経っておらず、時間的接着性も認められる。以上の状況から、逮捕現場の外部的客観的状況に照らしてPが「罪を行い終わってから間がない」ことがPにとって「明らかに認められ」犯罪と犯人が明白であるといえる。
したがって、Pは、「現行犯人」とみなされる。
⑶ Xは未だ犯行を否認しており、逃亡や罪証隠滅のおそれもあるため、逮捕の必要性(216条、199条)も認められる。
⑷ よって、Pによる現行犯逮捕は適法である。
設問2
① 令状の呈示
捜索差押令状の執行に際しては、「処分を受ける者」に令状を呈示しなければならない(222条、111条)。その趣旨は手続の適正を確保することと処分を受ける者の人権に配慮することにある。このような趣旨は、令状の呈示によって被処分者が捜索差押が許可された範囲を確認し、それを超えた処分が行われた場合には、適時に中止・是正を求め、不服申立て(440条)をすることができることが保障されてはじめて実現されると考えられることから、令状の呈示は、令状の執行に着手する前に行われることが原則である。もっとも、捜索差し押さえの実効性を確保するためにやむを得ないときには、執行着手後の呈示が許される。
② 被疑者の国選弁護
憲法34条前段による弁護人依頼権の保障は被疑者にも及ぶと解されており、刑事訴訟法37条の2以下では被疑者の国選弁護について定められている。裁判官によって弁護人が選任される点で私選弁護とは異なる(37条の2、37条の4)。国選弁護の対象となるのは「勾留状が発せられている」か(37条の2第1項、37条の4)又は「勾留を請求された」(37条の2第2項)被疑者に限られており、弁護人は身体の早期釈放のための活動を行う。
③ 供述書
供述書とは供述者自らがその供述内容を記載した書面をいい、供述者以外の者が供述内容を記載する供述録取書とは、作成主体が異なる。そのため、供述書が伝聞証拠に該当する場合、そこに含まれる供述過程は作成者のものに限られ、単純な伝聞となるから、刑事訴訟法321条1項の適用にあたっても「供述者の署名若しくは押印」は要求されない。
以上