6/17/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
名古屋大学法科大学院2024年 商法
設問Ⅲ
1. (1)について
取次ぎ(商法502条11号)とは、自己の名をもって他人のために法律行為をなすことをいう。同条により営業として取次ぎを行えば商行為となる。例えば、商法551条以下は問屋営業に関する規定を置いているところ、「問屋」とは「自己の名をもって他人のために物品の販売又は買入れをすることを業とする者」を指すものであるから、取次を行う者であるといえる。
2. (2)について
一般線引小切手とは、振出人又は所持人が、2本の平行線を小切手の表面に引いた小切手である線引小切手のうち、その平行線内に何も記載しないか、「銀行」又はこれと同一の意義を有する文字を記載したものをいう(小切手法37条)。支払人である銀行は、他の銀行又は自己の取引先に対してのみ支払うことができ、かつ、銀行は、自己の取引先又は他の銀行からのみ小切手を取得し、又は取立委任を受けることができる。
設問Ⅳ
問1
1. 本件貸付けは適法な取締役会の承認を経ておらず、無効とならないか。
2. まず本件貸付けは、取締役であるBが「自己…のために」行う取引であり、直接取引に該当する(会社法356条1項2号)。そのため、甲社取締役会での承認を要する(365条1項、356条1項柱書)。
3. ここで、本件取締役会について、特別利害関係取締役であるBが議決に加わっており、決議が無効とならないか。
⑴「特別の利害関係を有する取締役」(369条2項)とは、忠実義務(355条)違反をもたらすおそれのある、会社の利益と衝突する個人的利害関係を有する取締役をいうところ、Bは甲社から貸付を受けるという私的な利害関係を有しており、忠実義務を尽くすのが困難であるといえるため、「特別の利害関係を有する取締役」にあたる。
⑵では、「特別の利害関係を有する取締役」が議決に加わっている本件取締役会決議は無効とならないか。
瑕疵ある取締役会決議の効力について特別の規定はないため、私法の一般原則に従いその決議は無効となるのが原則であるが、円滑な業務執行の確保のため、当該取締役を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存在するときには有効と考える。
本件取締役会決議は、取締役3名の内、A及びBの賛成で承認されている。そうすると、Bが出席しなければ過半数をもって承認されなかったといえる。
したがって、本件取締役会における決議は無効である。
4. よって、本件貸付けは適法な取締役会の承認を経ておらず、無効である。
問2
1. 株主Eとしては、株主代表訴訟(847条1項)を提起することにより、本件貸付に係る金銭の返還債務についての責任を追及することが考えられるが同項の要件を満たすか。
2. ここで、上記責任について、同条の規定する「責任」に該当するかが問題となる。
⑴株主代表訴訟は、会社が馴れ合いによって取締役に対して責任追及を怠り、株主が損害を被るおそれを制度的に補完するものであるところ、取引債務においてもかかるおそれは存在する。よって、取引債務も「責任」に含まれると考える。
⑵本件における金銭の返還債務は、取締役たるBが甲社との取引上、負担するに至った取引債務であり、これは同条の「責任」に含まれる。
3. したがって、株主Eは同項の保有要件を満たせば、株主代表訴訟を提起して、上記責任を追及できる。
4. そして、甲社は「監査役設置会社」であるため、上記訴訟については監査役であるDが代表して請求を受けることとなる(386条1項1号)。
問3
1. 本件貸付けは直接取引に該当し、Bが無資力になったことにより本件貸付けを回収できなくなり1億円の「損害」が甲社に生じている。そのため、AとCは本件貸付けに関する取締役会の商人の決議に賛成していた場合、任務懈怠が推定される(423条3項3号)。
2. したがって、A及びCはかかる任務懈怠の推定が覆されず、本件任務懈怠に故意または過失がある場合、任務懈怠との因果関係が認められる範囲において、甲社に対して損害賠償責任を負うこととなる(423条1項)。
以上