10/2/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
早稲田大学法科大学院2022年 刑法
設問⑴ (刑法につき法令明略)
1. 結論 甲が、包丁でAの左胸を刺した行為につき、犯罪不成立、同意殺人未遂罪(刑法(203条、202条)または殺人未遂罪(203条、199条)のいずれかの結論が考えられ得るが、同意殺人未遂罪が成立する。
2. 理由
⑴ 甲が包丁でAの左胸を刺す行為は、人の死を引き起こす現実的危険性がある行為である。加えて、Aは「甲に殺されたい」と考えていたので、「承諾を得て殺した」といえる。そのため、上記行為は客観的には同意殺人罪の実行行為に当たる。
⑵ Aは一命をとりとめているので、未遂となる。
⑶ 本件では甲はAの同意を認識していないため、主観的には殺人罪の故意を有していたといえる。この場合、どのような犯罪が成立するか。
ア まず、故意が認められないために犯罪が成立しないという見解が考えられる。しかし、人を殺すという点において行為規範に直面し実行行為に及んだ者を処罰できないのは不都合である。
イ 次に、主観面で殺人罪の故意を有している以上、殺人未遂罪が成立するとも考えられる。しかし、客観面でより軽い罪の実行行為をしている以上、主観面を捉えてより重い犯罪を成立させるのは、内心により重い犯罪を成立させてしまう恐れがあるため、妥当ではない。そのため、認識した事実が該当する構成要件と発生した事実が該当する構成要件が重なり合う限度で行為規範に直面していたといえるから、その限度で故意責任を問うことができると解するべきである。両社の重なり合いは、①行為態様、②保護法益の共通性をもとに判断する。
ウ 本件において、殺人未遂罪と同意殺人未遂罪はともに人を殺害する行為であり、行為態様が共通する(①充足)。また、両罪とも保護法益は人の生命で共通する(②充足)。
エ よって、同意殺人未遂罪の限度で故意が認められる。
⑷ 以上より同意殺人未遂罪が成立する。
設問⑵
1. 甲が、何としてもAを助けたいと思うに至り、救命救急センターへAを運び治療を受けさせた行為につき中止犯(43条後段)が成立するか。
甲は、「犯罪を中止した」(43条後段)とは言えるか。
2. 中止犯の必要的減免の根拠は、中止行為に示された行為者の態度が責任を減少させるという点にある。そのため、既遂結果発生に至る具体的危険が生じていた場合に「犯罪を中止した」といえるためには、結果回避に向けた真摯な努力が必要である。
3. たしかに、甲はAを助けたいと思い、大学付属病院の救命救急センターまでAを運んでいる。しかし、甲は医師Cに刺した部位などの説明をして適切な処置を施せるように協力すべきであるにもかかわらず、スキを見て逃走している。さらに、強盗に襲われたとの虚偽の説明もしている。そのため、結果回避に向けた真摯な努力をしているとは言えない。
4. よって、中止犯は成立しない。
以上