2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2023年 民法
第1問
設問1
第1 小問(1)
1. AからCへの本件金銭債権甲の譲渡は有効になされているところ(民法(以下略)466条1項本文)、甲はDに二重譲渡されており、CDは対抗関係に立つ。
また、C Dはいずれも確定日付ある証書による通知を得ており、467条2項で要求される第三者対抗要件を満たす。この場合、いずれが優先するのか。
⑴ 対抗要件が要求される趣旨は、権利関係の現状を公示して取引の安全を図る点にある。そして債権譲渡の場合には、通知、承諾が債務者の債権譲渡に対する認識を通じて債権譲渡の事実を第三者に公示する機能を有する。したがって、公示機能を重視して、通知の到達の先後により優劣を決すべきである。
⑵ 本件では、譲渡の通知はDの方が早くBに到達しているため、DがCに優先することになる。
2. よって、CはBに対し弁済を請求することはできない。
第2 小問(2)
1. 本問は小問(1)とは異なり、CとDの通知が同日に到達しており、到達の先後が不明であり、優劣を決定できない。このような場合、いかに考えるべきか。
⑴ いずれの債権譲受人も対抗要件を具備しており、債務者は元来債務を追っていたのだから、債務者が結局誰にも弁済しなくていいことになるのは妥当ではない。そのため、いずれの譲受人も債権を行使しうる。なお、一方が弁済すれば当該債権は消滅する。
⑵ したがって、CはDが弁済をまだしていない場合は、弁済を請求することができる。
2. では、請求額はいくらになるか。
⑴ この点について、両譲受人の関係は不真正連帯債権者と同様の関係となり、各譲受人は、第三債務者に対しそれぞれの譲受債権についてその全額の弁済を請求することができる。
⑵ よって、Cは100万円全額を請求することができる。
設問2
1. 請負の目的物について、原始的に誰が所有権を取得するのか明文の規定がないため、問題となる。
2. 一般的にみて、請負人が材料を供給した場合、報酬債権を担保させる必要性が高い。また、当事者の合理的意思としては、材料の供給者が所有権を原始的に取得すると考えるはずである。したがって、特約がない場合には、材料の供給者が原始的に所有権を取得すると考えるべきである。
もっとも、特約がある場合や工事代金の大半を支払済である場合には、注文者の立場を保護する必要があるため、注文者に所有権を帰属させる旨の特約があると推認される。
3. 小問(1)について
本問では、Aは報酬を支払っていないため、注文者に所有権を帰属させる特約があるとの推認は働かない。そのため下請負人Cの保護を図る必要があるため、材料を供給した下請負人のCに所有権が帰属する。
4. 小問(2)について
本問では、Aが完成前に全額支払っているため、A B間で注文者Aに所有権を帰属させる特約があるとの推認が働く。しかし、B C間には特に特約がないため、Cが所有権を取得することになるのではないか。
⑴ 契約には相対効しかないため、元請契約における所有権の帰属に関する特約は、下請負人を拘束しないのが原則である。しかし、一括下請契約は、性質上元請契約の存在及び内容を前提とし、元請負人の債務を履行することを目的とするものである。そのため。下請負人は注文者との関係では、元請負人の履行補助者にすぎない。したがって、元請契約における所有権の帰属に関する特約がある場合は、目的物の所有権は注文者に帰属する。
⑵ したがって、所有権は注文者Aに帰属する。
第2問
1. 無権代理人責任について
⑴ CはAの代理人としてFと甲の売買契約を締結しているが、AはCに甲を売却する権限を与えたことも委任状を作成したこともなく、かつ売買契約締結時はAは未成年ではなかったため、Cは無権代理人であった。しかし、無権代理人Cが死亡したことにより本人Aが単独で相続している。そのためFはAに対して無権代理人の責任(117条1項)として甲の所有権移転登記手続きを請求すると考えられるが、この場合、Aは無権代理人の責任を負うか。
⑵ まず、本人と無権代理人の地位が融合するのか併存するのかについて、地位の融合を認めれば、相続という事情で偶然に相手方が利する結果となってしまい妥当ではない。また、無権代理行為を潔しとしない相手方の取消権行使(115条本文)を否定することや、特に本人が無権代理人を相続した場合になんの帰責性もない本人が当然に追認したこととなるのは酷にすぎる。
したがって、相続によって法的地位は融合せず、当然に追認したものと解することはできない。法的地位は併存すると解するのが相当である。
⑶ この場合、本人Aには何ら帰責性がないから、追認を強制させられるいわれはない。もっとも、本人Aは無権代理人Cの地位を相続しているから、かかる地位に基づいて無権代理人の責任を負う。
そのため、相手方が無権代理人の責任追及としての履行を選択すれば、原則としてこれに応じなければならない。
しかし、無権代理人の責務が代替性の無い特定物給付債務である場合には例外的に履行を拒むことができると考える。なぜなら、本人は相続がなければ本来の履行を拒むことができたのであり、相続という偶然の事情で本人を不当に取り扱うべきではないためである。
⑷ 本件では、履行の内容は甲という特定不動産の移転登記手続であり、代替性のない特定物を内容とする債務といえる。そのため、Fの所有権移転登記手続請求自体は認められない。
(5) 一方、Fに損害賠償責任を追及することはできる。では、Fに過失があるのか。
FはCと契約した後。念のためAに会って甲の売買契約について意向を確認したい旨を申し出たが、Cに断られた。不審に思っているのに確認を諦めているため、過失が認められるとも思えるが、Aの親であるCにAの状態を言われた場合、信用性が高いのが妥当であり、Fからすればこれ以上に確認を求めることにすればAから反感を買うこととなり、結果的に取引の機会を逸失する恐れがあると考えることはやむを得ないといえ、確認をそこで諦めたことによって過失を肯定することは相当ではない。
したがって、Fは無過失である。
(6) よって、Fは損害賠償責任をAに追及することができる。
2. 他人物売買の履行責任
⑴ 民法561条は「他人の権利を売買の目的物としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う」と規定しており、CはFに対して甲の所有権を取得してFに移転する義務があったところ、Cが死亡し、「他人」であるAが相続している。Fは561条の基づく履行責任をAに対して請求すると考えられるが、この場合。Aは履行責任を負うか。
⑵ この点について、他人の権利の売主が死亡し、その権利者が売主を相続した場合、権利者は相続により売主の売買契約上の義務ないし地位を承継するが、権利者自身が売買契約を締結したことになるものではなく、相続によって所有権が当然に買主に移転するものと解すべきでもない。また、権利者はその権利の移転につき諾否の自由を保有しているのであって、それが相続による売主の義務の承継という偶然の事由によって左右されるべき理由はなく、また権利者がその権利の移転を拒否したからといって買主が不測の不利益を受けるというわけでもない。よって、権利者は相続後も、相続前と同様の権利の移転につき諾否の自由を保有し、信義則に反するような特別の事情のない限り、売主としての履行義務を拒否することができると解するのが相当である。
⑶ よって、Fは他人物売買の履行責任として甲の所有権移転登記手続請求をAに請求することはできない。
3. 以上より、FはAに対して甲の所有権移転登記手続請求をすることはできないが、Cが負うべきであった損害賠償請求については追及する余地がある。
以上