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2023年 民事法 筑波大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 民事法 筑波大学法科大学院【ロー入試参考答案】

2/29/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

日本大学法科大学院2023年 民事法


第1問

(1)について

1. 本件甲は美術品であるため、代替物の存しない動産であることを前提に以下論ずる。

2. XとYは甲について売買契約(民法(以下法名省略)555条)を締結しており、それに基づきYはXに対し甲の引渡し義務を負っている。もっとも、本件甲はYがこれを磨いているときに、不注意で甲を落下させて、滅失させてしまった。代替性のない美術品甲を滅失した以上、上記義務の履行は「取引上の社会通念に照らして不能」(412条の2第1項)であり、Xは甲の引渡請求をすることはできない。

3. そこで、Xとしては、Yに対して債務不履行による損害賠償請求(415条)、または無催告解除(542条1項1号)をして、自らの支払い義務を消滅させるものと考えられる。

4. 前者については、不履行原因が債務者の責めに帰することができる事由であることを要するが、本件においてYは不注意で甲を滅失しているため、ただし書きにより請求は妨げられず請求可能である。

(2)について

1. (1)と異なり、甲は予期しえない地震の揺れにより保管場所から落下してしまい、滅失してしまった場合である。

2. Yが防ぐことのできない地震により甲が滅失した本問では、債務者の責めに帰する事由があるとはいえず、債務不履行による損害賠償請求をすることはできない。

3. もっとも、上記請求はできなくとも、地震という「当事者双方の責めに帰することができない事由によって」(536条1項)債務不履行となった以上、債権者たるXとしては反対給付の履行を拒むことができ、また上述の契約解除も可能である。

(3)について

1. 本件は Xが甲を下見にY宅を訪れた際に、Xの不注意で落下させて、滅失させてしまった場合である。

2. この場合、債権者Xの責めに帰すべき事由によって甲の引渡し債務を履行することができなくなったのであるから、債権者Xは危険負担を負い、反対給付の履行を拒むことができない(536条2項)うえ、損害賠償請求も不可能である。

3. 履行不能による解除も、債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、543条により行うことができない。

 

(4)について

1. 本問ではYはXに甲の引渡債務の履行を提供したが、X は甲の引取りおよび代金の支払いを拒み、その後隣家の類焼によって甲は焼失している。この場合、Xの受領遅滞(413条)となっており、かかる受領遅滞中に当事者双方の責めに帰することができない隣家の類焼という事由によって甲が滅失し債務が履行不能となっているため、この履行不能は債権者Xの責めに帰する事由とみなされることとなる。

2. 結果として、上述の(3)と同様の状況となっており、反対給付の履行を拒むことができない上、解除等の抗弁を主張することも不可能である。

 

第2問

(1)について

1. AはB及びCに対し、土地工作物責任に基づく請求(717条1項)を行う。

2. 「土地の工作物」とは、土地に接着して人工的に作出した物及びそれと一体となって機能しているものを含むところ、本件看板は建物や中のテナントの広告を行うためのものであり、土地に接着して作出された甲建物と一体として機能する性質を持つため、これに該当する。
 そして、ボルトの緩みは通常看板に対して要求される安全性の程度を欠いているといえ、後発的に発生したボルトの緩みは「保存」の瑕疵に当たる。
 また、占有者に免責事由が無いことを要するが、本件で占有者Bは所有者Cが修理の費用負担をしない旨述べたことをもってボルトの緩みを放置したものである。この点、賃借人は急迫の事情があれば自ら修繕を行い(607条2号)、その代金を賃貸人に請求することも可能である(608条1項)以上、看板の落下によって他人の生命身体に加害を及ぼす恐れのある本件では、自ら修理することはなお可能であり、免責事由がないとはいえない。

3. よって、占有者Bに対する請求が可能である。なお、占有者Bが必要な注意をしていない本件においては、所有者Cに対して請求を行うことができない。

 (2)について

1. Aが本件事故とは無関係な病気で死亡しAの子であるDがAを単独で相続したことによって、遺失利益ならびに介護費用の請求権に影響は生じるのか。

2. まず逸失利益については、労働能力の一部喪失による損害は,交通事故の時に一定の内容のものとして発生しているのであるから,交通事故の後に生じた事由によってその内容に消長を来すものではない。また、交通事故の被害者が事故後にたまたま別の原因で死亡したことにより,賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ,他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害のてん補を受けることができなくなるというのでは,衡平の理念に反することになる以上、逸失利益の請求に影響は無いと考えるべきである。

3. 一方で、介護費用については異なる考慮を要する。すなわち、介護費用の賠償は,被害者において現実に支出すべき費用を補てんするものであり,判決において将来の介護費用の支払を命ずるのは,引き続き被害者の介護を必要とする蓋然性が認められるからにほかならない。ところが,被害者が死亡すれば,その時点以降の介護は不要となるのであるから,もはや介護費用の賠償を命ずべき理由はなく,その費用をなお加害者に負担させることは,被害者ないしその遺族に根拠のない利得を与える結果となり,かえって衡平の理念に反することになる。そのため、被害者が事故後に別の原因により死亡した場合には,死亡後に要したであろう介護費用を事故による損害として請求することはできないと解するべきである。よって、介護費用請求の請求権には影響を与える。

 (3)について

1. 人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」から5年で時効にかかり請求ができなくなるのが原則である(民法724条1号、724条の2)。

2. 「加害者を知った時」とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するところ、本件ではAは本件事故により意識不明となっていたが、2023年9月30日に意識を取り戻し、本件事故が本問の経緯によって発生したものであることを思い出すに至ったため、その日が時効の起算点となる。

3. よって、2028年8月の段階では、未だ起算点から5年を経過したとはいえず、消滅時効にかかっているという主張は認められない。

 問3

(1)

1. Xとしては、Yに対して不法行為に基づく損害賠償請求(709条)、またタクシーによる運送債務の不履行を対象とし債務不履行に基づく損害賠償請求が可能である。

2. この場合、訴訟物の数がいくつかという問題は、いわゆる訴訟物理論に起因するものであり、以下これにつき論ずる。

新訴訟物理論は、特に給付の訴えについて、相手方から一定の給付を求めうる法律上の地位たる受給権が訴訟物であるなどとする考え方であり、この立場にたった場合訴訟物はひとつとなる。
 一方、旧訴訟物理論は、訴訟物は実体法上の個別具体的な権利そのものであり、その特定と訴訟物の個数は実体法上の個々の権利が基準になるとする考え方である。日本では伝統的に、原告が被告に対して主張する実体法上の個々の権利が訴訟物として捉えられていることから、旧訴訟物理論が採用されており、私もかかる理論に依拠しつつ、損害賠償額を重ねて得ることにならないか検討する。

3. これについて、実体法上は2つの請求権が認められるとしても、請求額の二重取りを防ぐために、一方の権利に基づきすでに請求が可能とされた場合には、もう片方の権利に基づき再度請求することはできない。それゆえ、原告は請求のどちらかを優先させ、その請求が認容されれば、もう一方の請求は消滅するという条件に基づき併合(訴えの選択的併合)されている請求が可能となるに留まると考えるべきである。

 (2)

1. 裁判所は、証拠調べの結果から、両当事者が主張していなかった Y のよそ見運転の事実を認定し、Y の過失を認めて X の請求を認容する判決を下すことは弁論主義の観点から許されるか。

2. 弁論主義とは、判決の基礎となる事実及び証拠の収集、提出を当事者の権能かつ責務とする建前であり、私的自治の訴訟的反映を趣旨とし、不意打ち防止機能を有する。また、弁論主義第一テーゼの内容として、裁判所は、当事者が主張していない事実を判決の基礎とすることができない。ここでいう 「事実」とは、間接事実が証拠と同様の役割を果たすことを考慮し、裁判官の自由心証 (民事訴訟法247条)を害さないために、主要事実のみを指す。
 そして、過失のような規範的要件について は、当事者は規範的要件を基礎づける具体的事実の存否について争うため、弁論主義の不意打ち防止機能を全うするためにも、規範的要件を基礎づける具体的事実を主要事実と考える。

3. 本問では、よそ見運転を基礎づける具体的事実について、当事者からの主張がなされていないため、裁判所がよそ見運転の過失を認定してXの請求を棄却することは弁論主義第一テーゼに反する。よってかかる判決は許されない。

 (3)

1. 当事者から過失を基礎づける具体的主張がなされていなかった本問では、裁判所が当事者の主張していない過失の具体的事実を認定することは当事者の不意打ちとなるため、裁判所としては釈明(149条1項)権を行使すべきである。

2. これに応じ、当事者が釈明を行った場合、よそ見運転について当事者の主張はなされたものとなるから、結果として弁論主義違反は生じない。

3. なお、裁判所による釈明権の行使は原則として裁量によるものではあるが、弁論主義を形式的に適用することで、真実発見の要請や、当事者の実質的公平を害するおそれがある。そこで、弁論主義の形式的な適用による不合理を修正するため、勝敗転換の蓋然性、当事者の主張期待可能性、当事者の公平等の要素を考慮し、裁判所に釈明義務が生じる場合もある。

4. 本件でもかかる要請から釈明義務が認められる。そして、これによって当事者からよそ見運転に関する主張がなされた場合、裁判所はXの請求認容判決を下すことができる。

 

以上

 

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