7/21/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
名古屋大学法科大学院2022年 刑事系
設問Ⅰ
まず、刑法230条の2は、報道・表現の自由や真実を述べる権利の保障と個人の名誉の保護との調和を図るために定められた規定であり、違法性阻却事由を定めたものである。そのため、「罰しない」とは、真実の証明があったときは違法性が阻却され、犯罪そのものが成立しないと解される。なお、証明の対象は、摘示された事実であり、その重要な部分について真実であるとの証明がなされれば足りる。
では、真実性の錯誤の場合、名誉毀損罪の成否に如何なる影響を及ぼすのか。この点、正当行為としての違法性が阻却されるとする立場があるが、これだと真実性の判断が不要となり妥当ではなく、また、そもそも虚偽の事実の摘示が違法でないとはいえないため妥当ではない。そのため、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないと解すべきである。(398字)
設問Ⅱ
1. 甲の罪責
⑴ 甲は、Xを手拳で一発殴打し、その結果Xは失神すると共に、全治2週間の傷害を負った。そのため、Xには傷害罪(刑法(以下略)204条)が成立する。
⑵ また、甲は暴行によってXが意識を失った後に、遊興費に当てるために現金20万円をXの財布から抜き取り、自分の財布に入れ、公園を後にしている。そのため、強盗罪(236条1項)が成立しないか。
ア もっとも、甲が20万円を奪取しようと意図したのは暴行の後である。
イ この点、強盗罪は暴行・脅迫を手段として財物を奪取する犯罪であるから、強盗罪が成立するためには、財物の強取に向けられた暴行・脅迫が必要であり、事後的に奪取意思が生じた場合は、同罪は成立せず、窃盗罪(235条)が成立する。
ウ よって、甲には窃盗罪が成立するにとどまる。
2. 乙の罪責
⑴ 甲の傷害罪について、共同正犯が成立するか。
ア まず、甲と乙はXが多少の怪我をしても構わないため、Xに物理的制裁を加えようと謀議しており、傷害罪についての共謀が成立している。しかし、傷害罪の実行行為に着手する前に、乙は「俺帰る」と言って公園を後にしており、その後に甲が上記の傷害をXに負わせている。この場合、甲の犯罪行為の責任を乙に負わせてよいかが問題となる。
イ 共犯の処罰根拠は、自己の行為が結果に対して因果性を与えた点にある。そのため、後の結果と自己の行為との因果性が断ち切られたと評価できれば共犯関係からの離脱を認めてもよい。
よって、離脱の認定は、因果性(物理的因果性、心理的因果性)の除去があるかどうかによることになる。
ウ 本件において、乙は甲がXを殴るのに使えないようにバットを二本とも携えて立ち去っているため、物理的因果性は断ち切ったといえる。また、バットを取り上げられ、乙が立ち去ったことで、甲の気持ちはXをこのまま解放する方向に傾いていたことから、心理的因果性も断ち切ったといえる。よって、共犯からの離脱を認めるべきである。
エ 以上より、乙には傷害罪の共同正犯は成立しない。
⑵ では、甲の窃盗罪について、共同正犯が成立するか。
ア 前述のとおり、甲と乙は傷害罪の共謀をしていたが、甲の窃盗罪の犯罪行為は前記共謀に基づく実行行為に当たり、乙も責任を負うか。共謀の射程が及ぶかが問題となる。
イ これをみるに、傷害罪と窃盗罪は実行行為の内容・保護法益が大きく異なり、かつ本件において、動機も共通していない。そのため、射程は及ばない。
ウ よって、乙は甲の窃盗罪の責任を負わない。
3. 罪数
以上、甲は傷害罪と窃盗罪が成立し、両者は併合罪(45条)となる。乙は無罪である。
以上