1/3/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2022年 刑事訴訟法
設問1
B事件を被疑事実としてXを逮捕勾留することは、一罪一逮捕一勾留の原則に反し、許されないのではないか。
1. 身体拘束期間についての厳格な時間制限(刑訴法(以下略)203条ないし208条)の潜脱を防止することを趣旨として、再逮捕・再勾留禁止の原則がある。)そして、同原則の対象となる一罪は、基準の明確性という観点から、実体法上の一罪を意味すると解するべきである。
しかし、一罪一逮捕一勾留の原則は、捜査機関による同時処理が可能であることを前提としている。そのため、被疑事実が実体法上一罪を構成する場合であっても、同時処理が不可能である場合には、例外的に逮捕及び勾留が許容されると解するべきである。
2. 確かに、A事件及びB事件は、実体法上において常習窃盗罪(常習窃盗罪盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第3条)一罪を構成する。そのため、B事件に係る逮捕及び勾留は原則として許されない。
しかし、Xは、A事件等を被疑事実として逮捕勾留された後、令和3年6月18日に保釈されている。そして、B事件は、当該保釈がなされた後の同月20日に窃取した事実を内容とする。そのため、A事件等を被疑事実とする逮捕勾留中にB事件に対する捜査及び処理を行うことは、理論上不可能であったと評価できる。
3. したがって、B事件を被疑事実としてXを逮捕・勾留することは、一罪一逮捕一勾留の原則に反せず、適法である。
設問2(1)
C事件を被疑事実とする逮捕勾留は、一罪一逮捕一勾留の原則に反し、許されないのではないか。
1. 同時処理が可能であった場合、原則として再逮捕・再勾留は許されない。しかし、捜査の流動性及び再逮捕を前提とした規定がある(199条3項、規則142条1項8号)から、再逮捕はその必要性、相当性を要件として許容されると解するべきである。そして、勾留と逮捕の密接不可分性から、再勾留も必要性・相当性を要件として許容されると解するべきである。したがって、①逮捕・勾留後の事情変更によるその必要性と、②①の必要性と被疑者の不利益を比較衡量して相当性がある場合に限り、再逮捕・再勾留は許容される。
2. 確かに、C事件は、令和3年4月25日に発生していたため、A事件等により逮捕勾留されていた時点で、同時処理をすることが可能であったといえる。しかし、XがC事件に関与していることが判明したのは、Xの保釈後である。したがって、逮捕後にXのC事件への関与の可能性について捜査するべき必要性が生じている(①)。そして、たしかにXは身柄拘束により不利益を被るものの、C事件はXとYが共同で実行した住居侵入窃盗であり、長期10年の懲役刑が科される重大犯罪である。加えて、事件発生直後から捜査を行っていたが、犯人を特定する手掛かりは得られなかったため、捜査機関の落ち度もない。そのため、相当性も認められる(②)。
3. したがって、C事件を被疑事実としてXを逮捕勾留することは、一罪一逮捕一勾留の原則に反せず、適法である。
設問2(2)
Yは、C事件にXが関与していたことを供述していることから、「事件の審判に必要な知識を有すると認められる者」(96条1項4号)にあたる。もっとも、Yを威迫するおそれの存在を根拠に、A事件等との関係で為された保釈を取り消すことが許されるか。
1. 勾留は被疑事実事になされるから、その効力はその理由とされた被疑事実についてのみ及ぶ(事件単位の原則)から、勾留を基礎づけまたはそれを否定する判断は、勾留事実を基準として行われるべきである。そして、保釈が勾留による身体拘束状態を解く制度である事情に鑑みれば、保釈の許否及び取消し等に係る判断に際しても、原則として勾留事実を基準とすべきである。もっとも、保釈に際しては被告人の経歴、行状、性格等の事情をも考慮することは必要であるから、上記の事情を判断する一資料として余罪を考慮することは許されると解するべきである。
2. Yは、Xが起訴されたA事件等には関与しておらず、YがA事件の「審判に必要な知識」を有するとはいえない。そのため、XがYを威迫するおそれがあるという事情は、専らC事件に関する事柄であり、A事件等の審判に必要な知識の提供が阻害されるおそれを生じさせるものではない。そこで、上記保釈の取消しに際して、当該事情を考慮することは、一資料の範疇を逸脱するものである。
3. したがって、当該事情を考慮することは、許されない。
以上