11/26/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
慶應義塾大学法科大学院2023年 憲法
設問
1. 供託金制度は、憲法(以下、法令名省略)15条1項に反し、違憲であるといえるか。
⑴ 15条1項は、公務員の選任についての自由を保障している。すなわち、選挙権を憲法が基本的人権の1つとして保障していることは明らかであるといえる。そして、憲法は立候補の自由を明文では定めていない。しかしながら、選挙とは、我が国憲法の基本原理の1つである国民主権(1条)を実現するための根幹的な制度であり、選挙を公正かつ自由に行うことは、憲法の要請するところであると解される。その上で、上記のような選挙を実現するためには、すでに立候補している候補者に投票するのみでなく、自らも候補者として選挙を受けること、すなわち選挙に立候補することについても、上記の選挙権の内容として保障されていると言わざるを得ない。したがって、15条1項は、立候補の自由までも保障しているものであると解される(三井美唄炭鉱労組事件参照)。
⑵ 供託金制度を採用することで、資力に不安のある者は、供託金を用意できないがために立候補の資格を有しないことになる。すなわち、選挙に立候補することが事実上不可能ないし著しく困難になるといえ、このことは上記の立候補の自由に対する制約に他ならない。
⑶
ア 前述の通り、立候補の自由は憲法の基本原理である国民主権と表裏をなすものであり、その権利は非常に重要であるといえる。また、供託金を供託することができなければ、立候補することがそもそもできないという現行供託金制度では、供託を行うことができない者はどのような手段によっても立候補することができないため、その規制は直接的であり、強度も非常に高いものであるといえる。
イ 確かに、選挙制度について、44条1項前段は国会の広い裁量を認めているようにも文言上は読み取ることができる。しかし、上記の選挙権、ここでは立候補の自由の重要性に鑑みると、上記の国会における裁量は相当程度縮減されなければ、憲法の基本原理を害することにならざるを得ない。具体的には、立候補の自由を制限することは原則として許されず、例外的制限が許容される場合は、そのような制限をすることなしには公正かつ自由な選挙を実施することが著しく困難であるというようなやむを得ない目的があり、かつその目的達成手段が必要最低限である場合に限られる。
ウ そこで、まず、供託金制度の目的について検討する。Xとしては、貧困状態にある者が積極的に政治に参加すること、すなわち、選挙に立候補して、代表者として民主政治の主たる地位に立つことを忌避することが上記制度の目的であると考えている。このことを前提とすると、貧困状態にある者であっても、1条にいう「日本国民」であることは明らかであり、主権の存する者であるといえる。また、これらの者が代表者として間接民主制を採る我が国の代表者の地位に立つことをもって、公正かつ自由な選挙が害されるというような事情は一切ない。したがって、供託金制度が専らこのような立法目的による場合は、その目的がやむを得ない事由に基づくものであるとは到底言えず、15条1項に反し、違憲であるとXは主張する。
エ しかしながら、供託金制度の目的は、上記のXの主張するようなものではなく、冷やかし的な真摯な意思に基づかない立候補を予め阻止するものであると解される。同制度は、その対象となる選挙の性質に応じて供託金の額や返還条件がことなることからは、当該選挙の注目度に応じて立候補に対する障壁を設けることによって、その立候補について真摯な態度を要求するものであると解するのが相当である。そして、真摯な意思に基づかない立候補が濫立すれば、有権者が適切な選挙情報を収集することが困難になり、公正かつ自由な選挙を実現することが著しく困難になることは極めて明白である。このことから、真摯な意思に基づかない立候補を阻止するという供託金制度の立法目的はやむを得ない事由に基づくもとであるといえる。
オ また、上記目的を達成するためには、金銭という生活上の最重要インフラを質にとることは、その真摯な意思を測るために適合的であるし、そのために他の手段は存在しないといえる。また、供託金は、必ずしも当選することが返還条件ではなく、一定の得票をもってこれが返還されることからすれば、真摯な意思に基づく立候補であっても、当選という外部的な事情で供託金の返還を受けられないというような事態は生じ得ない。つまり、手段としての相当性も肯定される。したがって、供託金制度は、目的達成手段として必要最低限のものであるといえる。
2. 以上より、Xは供託金制度が15条1項に反すると主張するが、私見として同制度は同項に反するものではなく合憲であると考える。
以上