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2024年 民法 千葉大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2024年 民法 千葉大学法科大学院【ロー入試参考答案】

4/12/2025

The Law School Times【ロー入試参考答案】

千葉大学法科大学院2024年 民法

設問1

1. BがAに対して、本件手付金を放棄して本件契約を解除する(557条1項本文)ことは認められるか。

2. 契約締結の証拠としてBはAに500万円の手付金を支払っており、かかる手付はいわゆる証約手付に当たる。そうすると、解約手付に当たらないから、手付解除は認められないとも思える。
 この点、必ずしも証約手付は契約の効力を強めるとはいえず、解約手付とその性質において必然的に矛盾するものではない。そこで、解約手付であることを排除する合意がない限り、証約手付と解約手付を兼ねられると解する。
 本件契約において、解約手付であることを排除する合意はない。したがって、本件手付金は、証約手付だけでなく解約手付としての性質を有する。
 したがって、Bは本件手付を放棄すれば本件契約を解除することができるのが原則である。

3. もっとも、「相手方が契約の履行に着手した後」に、手付を放棄して契約を解除することはできない(同項但書)。そこで、「契約の履行に着手」の意義が問題となる。

⑴この点について、基準としての明確性の観点及び相手方の不測の損害の防止の観点から、「契約の履行に着手とは客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合をいうものと解する。具体的には、当該行為の態様、債務の内容等諸般の事情を総合的に勘案して決すべきである。

⑵「相手方」Aが本件契約に基づき負う債務は、甲の引渡し債務(555条)及び甲の所有権移転登記の手続を行う債務(560条)である。このうち後者については、司法書士がAを所有者とする甲の所有権移転登記をBに経由する手続をA及びBの代理として行う旨の合意が、本件契約に含まれていた。そして、Bが手付解除を主張した5月15日時点で、Aは上記の両債務のいずれも行っていなかった。
 また、Aは、Bが手付解除を主張する以前の5月10日の決済日に、BがGの担当者に住宅ローン審査申込書類を交付するのに立ち会っている。しかし、Bが住宅ローン審査を申込んだのは、BがAに対して代金債務を履行するのに必要にだったからである。そうすると、Aの立ち合いは、Aの債務の履行の前提ではなく、むしろBの債務の履行の前提に必要な行為といえる。実質的にも立ち会うだけであり、A自ら金員を工面したり、手続きを負担しているわけではないから、抵当権の手付解除が認められたとしても、Aに不測の損害は生じない。

⑶以上から、Aは「契約の履行に着手」したとはいえない。

4. したがって、BがAに対して、本件手付金を放棄して本件契約を解除できる。

設問2⑴

1. 本件解除が有効になされ、本件支払金がAからGに返還された場合、Gのために設定された抵当権(369条1項)はどうなるか。

2. そもそも、抵当権は債権の弁済を担保するための権利であるところ、抵当権の目的となっている被担保債権が消滅すれば、付従性により抵当権も消滅するのが原則である。
 本件においてはGのBに対する本件支払金の返還債権を被担保債権として、抵当権が設定されている。そして、AがBに代わって、Bの本件支払金の返還債務を第三者弁済(474条)し、同債務は消滅する。
 したがって、抵当権も消滅するのが原則である。

3. もっとも、AはB「のために弁済した者」であるから、G「に代位する」(499条)。そのため、GがBに有してい抵当権「を行使することができる」(501条1項)。
 したがって、Gのために設定された抵当権は、Bのために消滅しない。抵当権の被担保債権は、原債権である本件支払金の返還債権である。

4. したがって、Gのために設定された抵当権は消滅しない。

設問2⑵

1. 本件解除の結果としてBはAに対し原状回復請求(545条1項本文)として手付金の支払い請求をすると考えられるが、これは認められるか。
 契約の解除の原因が手付の放棄によるものであった場合は、その返還を請求することはできないものの、本件契約の解除の理由はAの債務不履行(415条本文)を理由とする解除(541条、542条)であるため、手付の放棄ではない。そうであるならば、残代金の一部である手付金は当然原状回復請求により返還請求できる。
 そのため、上記請求は認められるとも思える。

2. もっともAは、Bによる甲土地の所有権の返還及び所有権移転登記の抹消登記との同時履行の抗弁(546条、533条)を主張することが考えられる。
 原状回復は双方が給付対象の返還義務を負うため両者は同時履行の関係に立つといえ、Aの主張は妥当といえる。

3. したがって、Bは甲土地の所有権の返還及び所有権移転登記の抹消登記と引き換えに、本件手付金の返還を請求することができる。

設問3

1. Aは本件解除により、原状回復としてBから甲土地の所有権登記を取り戻すことはできるか。また、本件根抵当権の消滅を請求できるか。

2. まず、解除の効果は遡及するか。遡及するとすれば、当該契約は遡及的に無効になるため、甲土地の所有権はAに返還され、本件根抵当権は理由のないものとして抵当権消滅請求ができるのが原則である。
 解除の趣旨は、解除権者を双務契約の法的拘束から解放して契約締結前の状態を回復させる点にあるから、解除の効果は遡及的無効と解する。
 したがって、本件契約は本件解除により遡及的に無効となるから、Aは甲の所有権登記を取り戻すことができ、また本件根抵当権も消滅するとも思える。

3. もっとも、このうち本件根抵当権については、Aの相手方BではなくDが有している。そこでDが「第三者」(545条1項但書)にあたるとして、Aの請求は認められないのではないか。

⑴上記の通り、解除の効果は遡及的無効であるところ、同項但書の趣旨は、解除の遡及を制限して第三者の取引の安全の保護するものである。そこで、同項但書の「第三者」とは、解除された契約から生じた法律効果を基礎として、解除までに新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいうと解する。ただし、なんら帰責性のない解除権者の犠牲の下で保護される以上、権利保護要件としての登記を要すると解する。

⑵Dは本件契約によってBが有することになった甲土地の所有権を基礎として本件根抵当権を本件解除前に設定している。そのためDは「第三者」に該当するといえる。

4. したがって、Aは甲土地の所有権登記をBから取り戻すことはできるが、本件根抵当権は残存したままである。

                                      以上

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