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2024年 刑法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2024年 刑法 京都大学法科大学院【ロー入試参考答案】

6/18/2025

The Law School Times【ロー入試参考答案】

京都大学法科大学院2024年 刑法

第1問

1. 甲の罪責

⑴甲が高速道路に立ち入った行為につき、過失致死罪(210条)が成立するか。

⑵甲は歩行者の通行が禁止されている高速道路に立ち入っている。高速道路に立ち入れば、事故を誘発して他人の生命を侵害する危険があることは社会通念上明らかであり、これについて予見可能性が認められる。また、甲は高速道路に立ち入らないことにより上記結果を回避することは容易であったのにこれを怠ったのであるから、客観的結果回避義務違反も認められる。よって「過失」が認められる。

⑶そして、Bが「死亡」している。

⑷ここで、Bの死亡には、乙がハンドルを切ったという介在事情があるが、甲の行為とBの死亡結果につき因果関係が認められるか。
 因果関係を肯定できるのは、当該行為が結果を引き起こしたことを理由に、より重い刑法的評価を加えるにたる関係が認められる時である。そこで、因果関係は、当該行為に内包する危険が結果として現実化したといえるときに認められると解する。
 高速道路への歩行者の立ち入り行為自体非常に危険な行為であって、歩行者を確認すれば運転手がハンドルを切るのは著しく不相当な行為とはいえないから、経験則上起こりうる行為といえる。よって、立ち入り行為は死亡させる危険を内包し、その危険が結果となって現実化したといえる。したがって、因果関係が認められる。

⑸もっとも、甲は認知症で、事物の理非善悪を弁識する能力を失っているから、責任無能力者として、責任を問われない(39条1項)。

⑹以上より、甲に過失致死罪は成立しない。

2. 乙の罪責

⑴乙がハンドルを右に切ってBを死亡させた行為(以下「本件行為」という。)につき、過失致死罪が成立するか。

⑵自動車の運転手は、ハンドルを切ることで事故が発生し人の生命を侵害する危険につき予見できることから、ハンドルを切る際には、反対車線から車が来ていないかの確認をする義務を負っているところ、乙はこれを怠っているから、客観的結果回避義務違反が認められる。そして、かかる「過失」によってBは死亡している。

⑶もっとも違法性が阻却されないか。
 ここで、Bは「不正の侵害」(36条1項)を行う者ではないから、正当防衛の成立はない。正である者に反撃することで「現在の危難」を回避したとみることができ、防衛の意思には「避難の意思」も含まれるから、「緊急避難」(37条1項)が成立し得るも、「やむを得ずにした」(37条1項)といえるには、危難を避けるための唯一の方法である必要があるところ、ハンドルを切らなければ危難をさけられなかったとはいえないので、本要件をみたさない。よって、緊急避難にもあたらず、違法性阻却はない。

⑷以上より、本件行為に過失致死罪が成立する。また、補充性要件を満たさない場合には過剰避難は成立しないと解するので、過剰避難が成立し、減刑されることもない。

第2問

1. 甲の罪責

⑴甲が、Aに売却した自己所有の宅地(以下「本件宅地」という。)につき、Bのために抵当権設定登記を完了した行為について、Aに対する横領罪(252条1項)が成立するか。

ア 「占有」とは、委託信任関係に基づく処分の濫用のおそれのある事実上又は法律上の支配力をいう。
 Aは登記を完了しておらず、甲の下に登記があった。登記名義人はその外観を信頼した者に対して容易に処分できるから、濫用のおそれのある法律上の占有があったといえる。
 そして、委託信任関係は、必ずしも具体的な委任に基づくものである必要はなく、契約の効果として一方が他人のために法的義務を負う関係で足りる。甲は、売買契約によって土地の登記名義を保管する義務を負っていたから、占有は委託信任関係に基づくものといえる認められる。
 よって、「占有」に該当する。

イ では、「他人の物」といえるか。民法上は売買契約の締結により所有権が移転されるが、処罰範囲を刑法をもって保護すべき法益が侵害される場合に限定するべきなので、代金を支払うなど、買主がある程度の支配を備えて初めて、「他人の物」に当たると考える。
 Aは本件宅地の代金全額である3000万円を甲に支払っているので、「他人の物」といえる。

ウ 「横領」とは、委託の任務に背いて、権限なく、所有者でなければできないような処分をする意思、すなわち所有者により物の利用阻害が確定的に生じたことをいう。
 甲は、Bのために本件宅地に抵当権を設定しているが、抵当権が実行されればAは土地の所有権を失うことになるから、物の利用阻害が確定的に生じたといえ、不法領得の意思の発現であるので、「横領」といえる。

エ 以上より、甲にAに対する横領罪が成立する。

⑵甲が乙に本件宅地を売却し、乙への所有権移転登記を完了させた行為につき、Aに対する横領罪が成立するか。

 ア そもそも、抵当権設定契約の締結により横領した本件宅地の売却行為が共罰的事後行為とならないか問題となる。

 横領行為は、所有権を終局的に侵害する行為ではなく、所有権に対する危険を惹起する行為であるから、同一の客体の所有権について繰り返し危険を惹起することは可能であるから、横領罪は成立し得る。

 イ そして、本件宅地は「他人の物」に当たる。

 ウ 先行の横領行為によって、委託信任関係はすでに破壊されているから、「自己の占有する」とはいえないとも思える。しかし、少なくとも外形的には委託に基づく占有関係が継続しているから、本件宅地は「自己の占有する」ものといえる。

 エ また、甲が乙に本件宅地を売却して、確定的な利用阻害が生じているから、同行為は「横領」に当たる。

 オ 以上より、甲の上記行為にAに対する横領罪が成立する。

⑶次に、Bに対する詐欺罪(246条1項)が成立するか。

ア 詐欺罪は、交付罪だから、「欺」く行為とは、「交付」行為に向けられ、財物を「交付」するかの判断の基礎となるような重要な事項を偽る行為をいうと解する。
 甲がBに対し1000万円の融資を申し込んだ際に、Bが「あの土地はもう売れたって聞いた」と質問したのに対し、甲は「そんな話はないよ」といいながら、Bを安心させている。
 BにとってAは、自ら経営する商店の重要取引先であり、Aの恨みをかって取引を打ち切られると、経営上の困難を招くおそれがあったため、情を知っていたとすれば、このような条件での融資には応じなかった。
 そうすると、本件宅地の所有権が甲にあると偽った行為は、一般的な経済取引通念に照らして、取引の安全性・信用性を侵害する行為無価値性の高い行為といえ、「交付」するかの判断の基礎となる重要な事項を偽ったといえる。
 よって、「欺」く行為にあたる。

イ そして、Bはかかる錯誤に基づき、融資に応じ抵当権設定登記をしている。

ウ よって、甲は「人を欺いて財物を交付させた」といえ、故意(38条1項本文)・不法領得の意思に欠けるところもないから、Bに対する詐欺罪が成立する。

⑷なお、Aに対する詐欺罪は成立しない。本件抵当権設定行為によって、欺罔されているのはBであり、三角詐欺と構成するには被欺罔者が財産上の被害者の財産を処分する権限を有する必要があるところ、BにはAの財産を処分する権限は認められないからである。

⑸以上より、甲にはAに対する横領罪2罪と、Bに対する詐欺罪が成立し、横領罪2罪については、同一の物に対する侵害であるから包括一罪として処理すべきである。これと詐欺罪は併合罪(45条前段)となる。

2. 乙の罪責

⑴乙には、Aに対する横領罪が成立するか。
 甲の行為は、事情について悪意の乙と、乙に本件宅地を売る旨の横領罪にあたる行為の意思連絡に基づいて行われているから、横領罪の共同正犯が成立しうる。
 単純悪意者については、民法が許容する自由競争の範囲内といえるので、横領罪の共同正犯は成立しない。他方、経済取引上許容されうる範囲・手段を逸脱した刑法上違法な行為を行った者については、横領罪の共同正犯が成立する。
 乙は、Aへの売却、Bの抵当権設定の一連の経緯を熟知していたから悪意である。もっとも、乙への売却を働きかけたのは、甲がなおも経済的に困っており、また、本件宅地が今後値上がりを期待できる物件であったからである。そうすると、乙への売却はAに損害を与えようとして行われたものではなく、経済取引上許容されうる範囲・手段を逸脱した刑法上違法な行為ということはできない。

⑵よって、乙は横領罪の罪責を負わない。

以上

 

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