5/12/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
京都大学法科大学院2025年 行政法
設問1
1. 抗告訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項)とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、 直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。そこで、「処分」に当たるかは①公権力性と②個別具体的な法効果性の有無から判断する。
2. ⑴①について、本件警告は、規制法4条1項に基づき、一方的に警察署長YがXに対して発したものである。よって、本件警告は①公権力性を持つ行為である(①充足)。
⑵②について、規制法5条1項に基づく禁止命令等は、これに違反した場合に罰則(同法19条1項)が科されるため、国民に対し特定の作為・不作為義務を課すものであり、個別具体的な法効果性があり直接国民の権利義務を形成するものとして、その処分性が肯定されることは明らかである。これに対し、規制法4条1項に基づく警告は、それ自体に従わないことに対する直接の罰則規定はなく、直ちにXに何らかの法的義務を課すものではない。しかし、警告を受けた者は、規制法5条1項に基づく禁止命令等の対象となり得る。なぜならば、同項と規制法4条1項は規制する主体が、規制法5条1項は「都道府県公安委員会」であるのに対し規制法4条1項は「警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長」と違うだけであり、両者は、つきまとい行為の相手方の申出、規制法3条に該当する行為の存在、反復継続して同行為をするおそれの3要件である点においては同じであり、規制法4条1項において、警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署長が同3要件を満たすと考えたということは、規制法5条1項における都道府県公安委員会も同様に3要件を満たすという判断をしかねないためである。さらに、銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)は、規制法4条1項の警告を受けた者を、警告を受けた日から起算して3年を経過しない場合には、銃砲(猟銃、空気銃等)やクロスボウの所持許可の欠格事由(同法5条1項15号)として定めている。これは、警告を受けることによって、Xが将来、銃砲やクロスボウの所持許可という権利(利益)を得ることが法律上直接制限される効果が生じることを意味する。以上より、本件警告は、それ自体が直接の義務を課すものではないとしても、禁止命令等の発令要件とな同じであること、及び銃刀法上の許可の欠格事由に該当するという直接的な法的効果を伴うことから、Xの法的地位に個別具体的な効果を与えるものといえる(②充足)。
⑶したがって、本件警告は「処分」に該当し、抗告訴訟の対象となると考えられる。
設問2
1. 警告が抗告訴訟の対象とならないと考える理由
⑴上述した基準①②に照らし警告が「処分」に当たるかを検討する。
⑵②について、規制法4条1項に基づく警告は、禁止命令等とは異なり、Xに対して特定の行為を法的に禁止する義務を課すものではなく、違反に対する直接の罰則もない。警告は、Xの行為がストーカー行為等に該当する可能性があることを指摘し、注意を促す事実行為ないし行政指導としての性格が強いとも考えられる。さらに、規制法5条1項の禁止命令等の要件と警告の要件が同じであるとしても、主体が違うのだから同じ判断がなされるとは限らない。また、銃刀法5条1項15号の欠格事由に該当する点も、銃砲やクロスボウの所持許可が得られなくなるという不利益はさほど大きいものではない。すなわち、警告の法的効果は間接的・事実的なものにとどまり、Xの権利義務を「直接」形成・確定するものとはいえない(②不充足)。
⑶したがって、警告は法的効果を伴わない事実行為であり、「処分」には該当しないため、抗告訴訟の対象とはならない。
2. Xが提起し得る訴訟
⑴警告が「処分」に該当しない場合、Xは警告の取消訴訟(行訴法3条2項)を提起することはできない。
⑵しかし、Xは警告を受けたことにより、ストーカー行為者であるとの社会的評価の低下や、前述の銃刀法上の不利益を受ける可能性がある。特に、Xは週末に実家で害獣駆除を手伝っており、そのためにクロスボウ等の所持許可が必要となる可能性がある。警告を受けたことにより、この許可が得られなくなるという具体的な法的地位への不安・危険が存在する。このような場合、Xは、行訴法4条後段に規定する「公法上の法律関係に関する確認の訴え」を提起することが考えられる。具体的には、Xは、警告の前提となった「XがZにつきまとう等の行為を行った」という事実が存在しないこと、あるいはその行為が規制法上の要件を満たさないこと等を主張し、警告の不存在確認を求める訴えを提起することが考えられる。
ア まず、警告が有効か否か、その前提となる事実関係の存否は、Xの銃刀法上の地位等に関わる「公法上の法律関係」に関する争いといえる。
イ では本件訴えは訴訟要件を満たすか。
(ア)この点、確認訴訟は理論上対象が無限定であり、訴訟不経済を招く恐れがあるため、確認の利益を訴訟要件として要する。そして、確認の利益の具体的内容は確認訴訟によって即時に解決しなければならないほど原告の権利や法的地位に現実的かつ具体的な不安や危険が生じているか、紛争解決にとって確認訴訟という手段が適切か、確認対象が紛争解決にとって適切かによって判断する。
(イ)本件では、上述の通り、ストーカー行為者であるとの社会的評価の低下や、前述の銃刀法上の不利益を受ける可能性がある。特に、Xは週末に実家で害獣駆除を手伝っており、そのためにクロスボウ等の所持許可が必要となる可能性がある。そのため、原告の権利や法的地位に現実的かつ具体的な不安や危険が生じている。また、警告が「処分」でないため取消訴訟は提起できず、給付訴訟によって救済を得ることもできない。そのため、確認の訴えによることが方法として適切と言える。さらに、警告の不存在を確認することは、上述の社会的地位の低下や、Xが害獣駆除に必要なクロスボウ等の所持許可を受けられないかもしれないという現に存する不安を除去するために必要かつ適切であると考えられる。以上より、Xに上記訴えの確認の利益が認められる。
ウ よって、警告が処分に該当しないという立場に立つ場合、Xは、警告の不存在確認を求める公法上の法律関係に関する確認の訴えを提起することができると考えられる。
以上