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2024年 商法 早稲田大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2024年 商法 早稲田大学法科大学院【ロー入試参考答案】

7/21/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

早稲田大学法科大学院2024年 商法

設問1

甲社は、甲社の取締役(「役員等」(会社法423条1項(以下、法令略))たるAに対し、423条1項に基づく損害賠償請求を追及しうるが認められるか。

1. Aが丙社の代表取締役に就任して業務執行をしていたことは、356条1項1号の競業取引に当たらないか。当たる場合、株主総会の決議が必要だが(356条1項柱書)、本件では株主総会の決議を経ていないため、法令違反、つまり任務懈怠が認められる。

⑴ 356条1項1号の趣旨は、取締役が自己又は第三者の利益を図って会社の利益を害することを防止する点にある。そのため、「ために」とは、利益の帰属主体が自己又は第三者、つまり自己又は第三者の計算で取引をすることされることを意味する。
 本件で、Aは丙社の経済的利益追求のために、丙社の業務執行に際し個々の取引を行ったと考えられるから、第三者の計算でされたといえ「第三者のために」といえる。

⑵ 上記の趣旨から、「事業の部類に属する取引」(1号)とは、会社が現に行っている取引及び将来行おうとしている取引と市場・目的物が競合する取引を指す。
 甲社は燃料電池エンジンの開発と自動車への応用の実現を目指して設立された会社であり、丙社は乙社の完全子会社として燃料電池エンジンの開発、製造販売を一貫して行っている。ゆえに、燃料電池エンジンという目的物が競合しておる。また、甲社、丙社とも市場を限定しない点、燃料電池エンジンという先端的な技術を扱う業者が限られることを考えると、両者の市場は日本全国あるいは全世界といえる。そのため、市場の競合も認められる。
 よって、「事業の部類に属する」といえる。

⑶ 上述の356条1項1号の趣旨から、「取引」とは、株式会社自体との取引だけでなく、取締役が自己又は第三者のために競業的に企業秘密を利用する実質的な行動を対象としていると考えるべきである。Aは上述の通り、丙社の業務執行に力を入れてその業績向上に貢献しているから、「競業的に企業秘密を利用する実質的な行動をしているといえる。よって、「取引」をしている。

⑷ 以上より、356条1項1号違反、すなわち任務懈怠が認められる。

2. 競業取引を行った場合、自己又は第三者が得た利益の額が損害額と推定される(423条2項)。Aが業務執行をしたことで丙社は経常利益1億円を上げており、Aも丙社から役員報酬を得ている。これらの額が甲社の「損害」(423条1項)と推定される。そして、かかる推定を覆す事情もない。

3. 先端技術である燃料電池エンジンの開発は丙社の業績拡大にとって不可欠な業務である。そのため、この分野の技術に詳しいAが代表取締役として丙社の業務執行をしていなければ、丙社は利益を上げられなかったと考えられる。そのため、任務懈怠と損害の因果関係も認められる。

4. 423条1項の責任には、免責事由がないことも必要である(428条1項参照)が、免責事由は見当たらない。

5. 以上より、甲社のAに対する請求は認められる。

設問2 設問前段

1. 丙社の代表取締役がAであることから、丙社と甲社の間で締結された特許権の売買契約(以下「本件売買」という。)は利益相反取引(356条1項2号)に当たらないか。
 利益相反間接取引(356条1項3号)との関係及び、取引安全の見地から「第三者のため」とは、第三者の名義で、という意味であると解する。
 A(甲社の「取締役」)は丙社の代表取締役として第三者たる丙社に法的効果を帰属させるつもりで、本件売買を行ったといえるから、丙社の名義での取引であるといえ「第三者のため」といえる。そのため、Aは丙社(「第三者」)の「ために」甲社(「株式会社」)と「取引」をしている。よって、利益相反取引に当たる。

2. 利益相反取引は株主総会の決議が必要である。本件では株主総会決議を経ているものの、取引の相手方である丙社の代表者であるAが株主総会の決議に参加していることから、831条1項3号の取消事由が認められないか。

⑴ 「特別の利害関係を有する者」とは、利益相反的な議決権行使を防ぐという同号の趣旨から、他の株主と相反する利害関係を有する者をいう。
 本件では、Aは本件売買の譲受会社たる丙社の代表取締役でもある。たしかに、A自身は丙社の株式を保有していないものの、丙社が利益を上げればその分役員報酬を増額することが可能である。よって、廉価な売買によって甲社が損失を被る一方でAは利益を得るから、他の株主と相反する利害関係を有する。よって、「特別の利害関係を有する者」にあたる。

⑵ 緊急に資金を得る必要があったなどの特段の事情がないにもかかわらず、本件特許権を時価の6割の価額で売却するのは、甲社に著しい損失が生じるから、「著しく不当」な決議である。

⑶ Aが45%の株式を有することから、Aが賛成しなければ決議は成立しなかった。そのため、Aの議決権行使と議決の因果関係も認められる。

⑷ 以上より、831条1項3号の取消事由が認められる。

3. では、総会決議が遡及的に無効となった場合、総会決議を前提に締結された本件売買の効力も無効になるか。

⑴ 取消事由のある株主総会決議に基づく取引は、会社の内部的意思決定を欠くにとどまるし、取引の相手方を保護する必要がある。そのため、取引は原則として有効で、相手方が悪意又は有過失であるときは民法93条1項但書の類推適用により無効になると解するべきである。

⑵ 本件では、丙社の代表取締役はAである。Aは本件の取引が利益相反取引に当たることを知っているから、Aが代表権を有する丙社も利益相反取引について悪意である。

⑶ 以上より、本件売買の効力の無効を主張できる。

4. 以上より、甲社は本件売買の無効を主張し、本件特許権を取り戻すことができる。

設問2 設問後段

1. 甲社はAに対して、423条1項に基づく責任追及をすると考えられる。

⑴ 上記のように、「取締役」(423条1項)Aは、356条1項2号の取引を行っているから、株主総会の承認の有無にかかわらず、任務懈怠が推定され(423条3項1号、423条1項)、これを覆滅する事情はない。

⑵ 甲社は本来の価格の6割で本件売買を行っているから、差額の4割について上記任務懈怠に「よって生じた損害」(423条1項)といえる。

2. 以上より、甲社のAに対する上記請求は認められる。

以上


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