10/17/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
大阪大学法科大学院2022年 刑法
1. 甲が、Aに向けて至近距離でけん銃を構えて現金1000万円を要求した行為に、強盗未遂罪(236条1項・243条)が成立するか。
⑴ まず、「脅迫」は、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものをいい、財物奪取に向けられている必要があるところ、上記行為は、現金を強奪する目的のもとけん銃という生命身体への危険性が強い凶器を至近距離で構えるものであるから、Aの反抗を抑圧するに足りる程度の脅迫であって、財物奪取に向けられたものといえる。
したがって、「脅迫」に当たる。
⑵ 「強取した」といえるためには、脅迫により相手方の犯行を抑圧し、その結果として財物の占有を取得したと言う因果関係が必要であるが、Aの現金である「他人の財物」の占有移転は行われておらず、甲は、外に逃げ出したのであるから、反抗抑圧状態を利用して占有を取得したとは言えず、「強取」は認められない。
⑶ したがって、上記行為に、強盗未遂罪が成立する。
2. 甲がAに電話で、「金を都合しなければ本当に撃つぞ。」といって、100万円の振り込みを要求した行為に、強盗罪(236条1項)が成立するか。
⑴ まず、実際にけん銃を突きつけたわけではないが、上記の通り、電話をかける前にAの事務所でけん銃をAに突きつけていることから、その30分後に、かかる電話をかけて、振り込みを要求することは、財物奪取に向けられた、Aの反抗を抑圧するに足りる程度の脅迫といえ、「脅迫」に当たる。
⑵ そして、実際に、「他人の財物」であるAの現金30万円を振り込ませている。
しかし、強盗罪は、暴行・脅迫により被害者の反抗を抑圧して財物を奪取するという因果経過を想定しているところ、「強取」が認められるためには、暴行・脅迫による反抗の抑圧と財物の奪取との間に因果関係が認められる必要があるといえる。
本件では、Aは通話中に値切り交渉を行なっている上、警察に通報しようと思えばいくらでも通報できたにもかかわらず、あえて通報せずに、甲の要求を飲んでいる。したがって、Aによる振り込みは任意性があるといえ、反抗の抑圧と占有移転に因果関係が認められない。
従って、「強取」は認められない。
⑶ よって、上記行為に、強盗罪は成立せず、強盗未遂罪が成立するにとどまる。
3. 甲が、倉庫に火をつけた行為に、現在建造物放火罪(108条)が成立するか。
⑴ 「現に人が居住に使用」する建造物とは、現に人の起臥寝食する場所として日常使用されているものをいい、「現に人がいる」建造物とは、内部に他人が現実にいるものをいう。
本件では、事務所は、人の起臥寝食の場所としては使用されていないため、「現に人が居住に使用」する建造物ではないが、Aが現実に存在していたのであるから、「現に人がいる」建造物といえる。
⑵ しかし、甲が火を放った倉庫は、人が現在してはいなかったことから、現在建造物とは言えないのではないか。
ア この点、現住建造物等放火罪が重く処罰されるのは、存在可能性のある人に対する生命侵害の危険性が認められるからである。そこで、建造物の一体性は、①延焼可能性を含む物理的一体性の存在を前提とし、②機能的一体性をも考慮して判断すべきと解する。
イ 本件では、倉庫は、事務所の建物とは屋根付きの長さ約5メートルという短い距離で、燃えやすい木造の渡り廊下でつながっていたのであるから、倉庫が延焼した場合、事務所まで延焼する可能性は高いといえる。
よって、倉庫への延焼により事務所に危険が及ぶと考えられる一体の構造があるといえ、物理的一体性が認められる。
また、事務所の建物と倉庫は、屋根付きで、5メートルという非常に短い距離でつながっていたのであるから、人が行き来することが想定されており、全体が一体として利用されていたといえ、機能的一体性も認められる。
したがって、倉庫と事務所の建物は、一体の建造物と認められ、甲が倉庫に火をつけたとき、事務所の内部には、Aがいたのであるから、「現に人がいる」建造物といえる。
⑶ そして、上記行為は、倉庫及び事務所の建物が独立して燃焼を継続する状態を惹起させる行為であり、「放火」にあたる。また、「焼損」とは、火が媒介物を離れて目的物に燃え移り、目的物が独立に燃焼を継続する状態に達したことを意味するところ、本件でも倉庫が半焼していることから、目的物が独立に燃焼を継続する状態に達したといえ、「焼損」が認められる。
⑷ そして、本件では、甲は、事務所の建物と倉庫が、約5メートルの木造の渡り廊下でつながっていることを認識していたが、事務所や倉庫の内部には誰もいないと思っていたのであるから、現在建造物放火罪の故意(38条2項)は認められず、非現在建造物放火罪の故意しか認められない。
したがって、上記行為に、現在建造物放火罪は成立しない。
4. では、上記行為に、非現在建造物放火罪は成立しないか。
⑴ 上記の通り、軽い非現在建造物放火罪については、故意を有していることから、同罪の故意に対応する客観的構成要件該当性が認められるかが問題となる。
ア この点、法益保護の観点から、客観的構成要件該当性は実質的に考えるべきなので、構成要件間の実質的重なり合いが認められる場合には、客観的構成要件該当性が認められると解する。
そして、構成要件は、法益侵害行為を類型化したものなので、保護法益及び行為態様の共通性により、重なり合いの有無を判断する。
イ 本件では、放火行為という点で、行為態様の共通性が認められ、保護法益が、不特定又は多数人の生命・身体・財産という点で共通している。
したがって、構成要件間の実質的重なり合いが認められ、非現在建造物放火罪の構成要件該当性が認められる。
⑵ そして、「放火」により、「焼損」しており、上記の通り、故意も認められる。
⑶ よって、上記行為に、非現在建造物放火罪が成立する。
5. 以上より、甲の各行為に、①強盗未遂罪、②強盗未遂罪、③非現在建造物放火罪が成立し、①は②に包括され、これと③は併合罪(45条)となり、甲はかかる罪責を負う。
以上